ローターヘッド
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/03 00:16 UTC 版)
フラッピング・ドラッグキング・フェザリングで使用されるヒンジの装備状況によって分類がされている。ヒンジ部には、ブレードの円滑な動作のための金属ベアリングの装着が一般的であるが、機能維持のため潤滑などの定期的なメンテナンスが必要で、シール部分から潤滑油が漏れる恐れがあり、故障のリスクも伴うほかに、ブレードの大きな荷重が負荷の揺動運動であるため、長寿命ベアリングの設計が難しく、構造が複雑で重量が大きい問題があった。そこで、最近では金属の薄板とゴムの薄層を何層にも重ねた積層形とし、ある程度の角度範囲でのブレードの動作を許して、ブレードの遠心力による圧縮荷重に耐えられるよう、大きな圧縮剛性と強度を持った、エラストメリック・ベアリングが使用されており、整備性や信頼性の向上が図られている。また、ヒンジを使わないものは、複合材で作られたハブやブレードのたわみをヒンジの代わりに利用している。 ドラックヒンジには、ドラック・ダンパーまたはリード・ラグ・ダンパーと呼ばれる油圧ダンパーがブレードとマストまたはハブとの間に取付けられており、ブレードのドラッキング運動に対して減衰力を与えているが、構造が複雑で重量が重く調整が厄介であり、振動の原因となることがあるため、構造が簡単で重量が軽く、ゴムのせん断変形による粘弾性を利用した、エラストメリック・ダンパーが使用されており、構造の単純化と軽量化が図られている。 ローターヘッド上面には整流のためにフェアリングを装着する機体もある他、軍用ではドライブシャフト内部を通す事でローターヘッド上部にレーダーやカメラなどの電子機器を備えた機体がある。 全関節型ローター(英: fully articulated rotor) フラッピングヒンジ、ドラッグヒンジ、フェザリングヒンジによって3軸全ての方向へのブレードの動きを可能にしたローターヘッド。ヘリコプターの登場時から現在に至るまで、3枚以上のブレードを持つローターに広く用いられており、全てのローターヘッドの基本となっているものである。 半関節型ローター(英: semi-articulated rotor, semi-rigid rotor) フラッピングヒンジ、フェザリングヒンジによってブレードの2軸方向への動きを可能にしたもの。ドラッグヒンジを持たないため、回転面方向での進みや遅れの運動はローターヘッド側ではなく、ブレードのたわみで対応する。全関節型に比べ、単純な構造であり、全関節型より動きが制限されたフラッピングヒンジとなっている。 シーソー型ローター(英: see-saw rotor, teetering rotor) 2枚ブレードにのみ使われる方式で、両方のブレードがフェザリングヒンジまたはユニバーサルジョイントを介してとマストのローターヘッドと繋がっており、マストとローターヘッドの接続点を支点としてシーソー状態に釣り合っているローター。定義上は半関節型ローターの一種となるが、ブレードと共にローターヘッド自体の角度が変わる点が他の方式と異なる。半関節型ローターの中ではフラッピングヒンジは制限されたものとなっており、飛行中でのフラッピングにより発生するコーニングではブレード根元に大きな曲げ応力が掛かるので、元からハブにコーニング角を持たせる「プリコーニング」により曲げ応力を軽減している他、ブレード根元にダブラーと呼ばれる補強材が層になって貼り付けられている事が多い。また、ロータ回転面を傾かせるシーソーヒンジを2枚のブレードの重心位置を結ぶ線上に位置させる事で(これをアンダースリングと言う)、回転方向の進みや遅れの運動が発生しない作りとなってる。そのためドラッキングヒンジを必要としない。全関節型に比べて機構を単純にできるが、飛行中に機体の荷重が低い状態で(低G)でサイクリックを操作した場合、ローターヘッドが浮き上がりドライブシャフトに過度に接触するマストバンピングを招きやすいため、降下時の運動制限があり、急激な降下時などの下向きに強い加速の伴う運動では、急激な頭下げ動作や起伏の激しい山の稜線に沿って飛ぶ運動が制限されるという大きな欠点もあり、上昇から下降に移る操縦や乱気流などには特に注意を要する。主にベルとロビンソンの機体に使われているが、現在のベルは4枚ブレードが主流となっている。 無関節型ローター(英: hingeless rotor, rigid rotor) フェザリングヒンジ以外のヒンジを持たないもの。全関節型に比べて構造が大幅に簡単になり、信頼性や整備性が優れているほか、操縦性や安定性が向上しており、曲技飛行の機体にも多く用いられている。初期のものは、フラッピング・ドラッギングの両方を動きを許さない構造であったが、現在のものは、ローターのハブまたはブレードの付け根の部分を、曲げ剛性を小さくしてたわみ易い部分とし、弾性変形することでヒンジの機能を果たすことにより、ブレードのフラッピング・ドラッギングの両方を動きが可能となっているが、半関節型ローターと同じく、飛行中でのフラッピングにより発生するコーニングではブレード根元に大きな曲げ応力が掛かるので、元からハブにコーニング角を持たせる「プリコーニング」により曲げ応力を軽減している他、それ以上のコーニング角の変化は、ブレードの付け根の部分をたわみさせることで対応している。この方式は、ブレードの根元に大きな曲げモーメントがかかるため、1970年代に複合材料による強靭なブレードの製造技術の完成によって初めて実現出来た。欠点として、同じ理由で、ある程度以上大型のヘリコプターには採用困難なこととブレードから機体に伝わる振動が増えがちな点があげられる。2008年時点では、無関節型だけに限らず、全関節型や半関節型でも複合材ブレードは一般的になっている。リンクスなどでは、ドラッグヒンジは無くともダンパーのみ備えている。 ベアリングレスローター(英: bearingless rotor) フラッピング・ドラッグキング・フェザリングの各ヒンジ類を全く持たず、完全な「無関節」となったローターヘッド。ブレードのフラッピング・ドラッギング・フェザリングの3軸の方向の動きは、ハブとブレード翼面の間の付け根付近の「カフ」部分に「ヨーク」と呼ばれる複合材で出来た板バネ機能を持つ部品が柔軟に弾性変形することでヒンジの機能を果たすことにより行われており、軽量化と長寿命化、安全性の向上と抗力減少、構造の単純化が実現出来る。テールローターから実用が始まり、その後にメインローターへの実用が始まっている。 CH-47の全関節型ローター ロビンソン R44のシーソー型ローター AH-64Dの無関節型ローターとレーダー AS355のベアリングレスローターとフェアリング
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