レシプロ内燃機関
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2020/07/18 03:39 UTC 版)
ポペットバルブはクランクケース圧縮式のガソリン2ストロークエンジンを除く現代のほとんどのレシプロエンジンで使用されていて、シリンダーヘッドの吸気ポートと排気ポートに配置されている。バルブステムがシリンダーヘッドのバルブガイドに通されており、気流を制御するための弁の開閉はカムシャフトのカムによって行われる。ポペットバルブはバルブリフターを介しカムに押されるか、タペットを介してカムシャフトで作動するロッカーアームに押されることで押し開かれる。 イタリアのオートバイメーカー、ドゥカティのエンジンではバルブスプリングを持たず、カムシャフトが機械的にポペットバルブを閉鎖するデスモドロミックを採用している。これは超高回転域に置けるカムへの追従性悪化によるバルブサージングを防止するための機構である。通常のエンジンでは閉じ側にコイルスプリングを使用することが多く、サージング防止のため、摩擦の増大と引き換えにばね定数を高める、固有振動数が異なる2つのスプリングを組み合わせる、スプリングそのものを不等ピッチや円錐状とする、などの対策で共振を防いでいる。常用回転数が18,000 rpmに達したF1用エンジンなどでは、コイルスプリングで共振を防ぐことは難しく、共振周波数の高いトーションバースプリングや、高圧の気体を用いてバルブを閉じるニューマチックバルブスプリングを用いている。 ポペットバルブは鋼鉄などの頑丈な金属を用いて製造されるが、一部の高出力エンジンではバルブの材料にチタンを用いることもある。これはポペットバルブの慣性質量を減らすための措置であり、バルブコッターやリテーナーも同様に軽量化が行われることも多い。また、部位によって要求される性質が異なるため、ステムやステム端部と傘部を別々の材料で作ったりすることがある。高出力エンジンの場合、特に高い温度の排気に晒される排気バルブの熱伝導特性を改良するため、ナトリウム封入バルブを用いることがある。ステムをドリル切削するなどして中空構造とし、この半分程度にナトリウムを封入したものである。ポペットバルブの往復によりナトリウムがステム内を往復し、燃焼室側からバルブガイドへと熱を逃がしやすくする。また、中空化と鋼より密度の低いナトリウムを使用することでポペットバルブの軽量化も見込める。排気バルブには耐熱性を高めるためインコネル等の耐熱合金を使用することもある。 ポペットバルブは吸気と排気に1シリンダーあたりそれぞれ1本以上ずつ用いられる。OHVやSOHCが主流の時代には吸排気効率向上のためにポペットバルブの外径を大きくするビッグバルブが用いられたが、バルブの慣性質量の増加で高回転での追従性が悪化し、その割に開口面積がさほど拡大されず効率が上がらないため、後に吸排気それぞれに複数のバルブを配置するマルチバルブ構成が普及した。初めは吸気2・排気1の3バルブ構成、後にDOHCの普及とともに吸気2・排気2の4バルブ構成が一般化し、一部には吸気3・排気2の5バルブのエンジンもある。1シリンダーあたり最大のバルブ数を持つ現在までに市販されたエンジンは、楕円ピストンの採用で吸気4・排気4の8バルブとしたホンダ・NRのものである。 また、吸気バルブの開閉タイミングやリフト量を回転数や負荷に応じて可変させることで燃焼室への混合気流入速度を変化させ、高回転域での出力と低回転域での実用トルクの両立を実現した可変バルブ機構は、近年では軽自動車や大衆車などでも自動車排出ガス規制などへの対応や燃費向上のためにごく一般的に使用されるようになった。さらには吸気バルブのタイミングやリフトの可変量を拡大して、その制御でスロットルバルブに代わって出力を制御するバルブトロニックのような技術も現れている かつての鋳鉄製シリンダーヘッドでは、シリンダーヘッドに穿たれたバルブ穴にポペットバルブが直接差し込まれていたが、後に摩耗を抑えるために鋼鉄やリン青銅などで製作されたバルブガイドがヘッドに挿入されるようになり、燃焼室側にも傘部との接触面にバルブシートが取り付けられるようになった。 ポペットバルブのステムはヘッドカバー内に直接突き出る形になるため、そのままでは吸排気ポートのガスがカムシャフト側に吹き抜けたり、カムシャフトルーム内のエンジンオイルが吸排気ポート内に吸い出されるオイル下がりが発生する。そのため、バルブステムには熱と摩擦に強いフッ素ゴム製のバルブステムシールが挿入され、密封性を保つようになっている。 バルブガイド、バルブシート、バルブステムシールともに今日では消耗部品の一つであり、これらが摩耗・劣化することでオイル下がりが起こる。このような状態の車両はシリンダー内でエンジンオイルが燃えるため、始動時やエンジンブレーキ使用時に排気が白煙となり、オイルの燃える臭いもするので判別が可能である。
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