リキッドチャージ式エアソフトガンの誕生
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/19 15:28 UTC 版)
「MGC (トイガンメーカー)」の記事における「リキッドチャージ式エアソフトガンの誕生」の解説
タカトクSS-9000やマルゼンKG-9といったエアソフトガンのヒットともにエアソフトガンを趣味とする人口が増え、反比例するようにモデルガン人気に陰りが出てきた。弾が出るトイガンを否定していたMGCは他のモデルガンメーカーが次々とエアソフトガン製品をリリースをしていく中、モデルガンとシューターワンだけで孤軍奮闘していた。MGCはエアソフトガンの危険性を訴え、市場からの排除を図るものの効果は全くなく、ブームは加速する一方であった。そうした中、同じくエアソフトガン否定派であったライバルメーカー東京CMCはモデルガンの未来に見切りを付け廃業してしまう。MGCはモデルガンに固執しこのまま業界で取り残されるか、トレンドに乗り禁断のエアソフトガン製品を開発するか、という難しい選択を迫られる事になった。結局のところ存続のためには市場のニーズに対応し、売れる商品を販売しなければならないという市場論理が優先され、ついにエアソフトガン開発を行う事となった。 新製品はモデルガンメーカーとしての矜持から安全対策には特に注意が払われた(後述)。またエアーソフトガンメーカーとしては後発という点からMGCならではの独創性も重要視された。当時のエアソフトガンはコッキング式が主流で1発撃つ毎にコッキングしなければならない単発構造であり、トリガープルも非常に重いという特徴があった事から、MGCは軽快なトリガーアクションだけで連射できる製品が目標とされた。 そこで軽いトリガープルを実現するパワーソースとしてフロンガスに着目された。コッキングガンのスプリングによる圧縮空気とは違い、気化ガスそのものの圧力を利用する事で圧縮スプリングを廃してトリガープルを劇的に軽くする事ができただけでなく、連射の可能性が開かれた。最終的にモデルアップされたのはベレッタM93Rだった。 最初に開発・採用されたマガジンは現在一般的に見られる「リキッドチャージ(液体ガス充填)式」とは異なり、マガジン頂部に取付けられた注入バルブを正立させたガスボンベに押し付けて「気化ガスのみを充填」するものだった。M93Rが選ばれた理由の一つに元々実銃が多弾数マガジンが装着されていた為、連射の肝となるマガジン内ガスタンクの容量が確保しやすかったという事が挙げられている。 この蓄気方式は[エアーチェンバーシステム]と命名され初代のM93R-APに採用された。装弾数は15発で、蓄気が完了するとマガジン底部に一種のローディングインジケーターが視認できる構造だった。マガジンはフロンガスの温度上昇の伴う圧力上昇に備えて肉厚の亜鉛合金製とされかなりの重量があった。この事は銃本体がハリボテ状態で非常に軽かった事を相殺する以上に重厚感を持たせる役割も果たしていた。※M93R-APの取り扱い説明書において故障の原因となる液ガス充填は厳禁とされていた。 その後マガジンの軽量化と多弾数化の要望を満たした40連マガジンが発売され、M93Rエクストラの標準装備マガジンにもなった。これはマガジン本体をプラスチックに改め軽量化すると共にBタイプという専用ボンベをマガジンに内蔵する物で、リキッドチャージ式の前身に当たる。だが、このマガジンはフロンの気化冷却による収縮やプラスチックの弾性低下の為のヒビ割れが発生し易くガス漏れが起こる事が多く、また、容量が少なく割高のBタイプボンベマガジンを別途に購入しなければならない等の理由から比較的短命だった。 40連マガジンの発売と同時期に、専門店の独自カスタムとしてエアチャンバーシステムの15連マガジンに直接液ガスを注入(すなわち「リキッドチャージ(液体ガス充填)式」)できるようにする改造を施した物が市販されるようになった。一回のガスチャージによる発射可能数が飛躍的に増える上に取り回しはノーマルと同じという事で、サバイバルゲーム愛好家をはじめとして広く受け入れられ、多数が市場に出回った。 この事実に触発され40連マガジンに続いて発売され、同時に特許の申請がなされたのがリキッドチャージ式。30連マガジンとして、エアチェンバーシステム15連と同サイズの30連ロングタイプと、フレームから飛び出さない30連ショートタイプの二種類があり、40連マガジンの反省からボディはエアチェンバーシステム15連と同じ亜鉛合金製に戻された。これに相前後してエアチェンバーシステム15連のリキッドチャージ版もリリースされた。 M93RはBB弾を発射するためのガス放出にハンマーの打撃力を利用したが、実銃同様にハンマーを撃発機構の一部に取り入れるに当たって改造防止策に特段の注意が払われた。すなわちハンマーが直接バルブを叩く構造とはせず、リリースとバルブリフターという二つの部品によって伝達されるだけでなく、力の方向も水平方向から垂直方向へ変換する方式を取り、更にはハンマーの慣性を使う響き打ち機構も取り入れるという徹底した対策が採られている。その他に内部構造は極めて単純化され、金属部品点数も極力抑える事で、事実上改造不可能とも言える域に達していた。 製品外観はモデルガンメーカーらしくエッジの効いたフォルムだったものの安全対策の絡みもあってプラスチックを多用した玩具然とした見た目となった(初期のショルダーストックもガラス繊維混入のプラスチック製だったが、エクストラ以降は亜鉛合金とスチールプレスの混成となった)。開発当初は独自規格の7mmBB弾を採用する予定だったが、パワーが上がりすぎる等の問題から一般的な6mmBB弾を採用した。 「ベレッタM93R -AP」と名づけられたMGC初のエアソフトガンは実銃がブローバックにもかかわらず固定スライド、実銃の特徴である3点バーストショット(3連射)も省略され(セレクターとセーフティが一体化されていた)セミオートのみだったものの、「軽いトリガープルで連射できる」という当時としては画期的なエアソフトガンとして絶大な人気を得た。このM93Rの成功によりエアソフトガンメーカーとしては後発だったにも関わらず業界の先頭集団に躍り出る事に成功した。発売時にはフランス映画「パリ警視J」とタイアップし、広告戦略にも余念がなかった。都合5種類にのぼったマガジンは最終的にリキッドチャージ式に一本化され、以降のMGCガスガンシリーズ全てに採用されただけでなく、業界の標準的マガジン形式に成長・発展していく。 M93Rの発売は競合他社にも多大な影響を与え、次々とフロンガス使用のエアソフトガン市場に参入する事になった。しかしマガジン内に液体ガスを注入する(リキッドチャージ)方式はMGCの特許であり、それ以外の方式の模索を他社は強いられ、同社は市場で圧倒的に有利であった。この状況はウェスタンアームズのように使用権を得る以外、MGCの衰退まで続いた。市場では「フロンガス使用のエアソフトガン」という新しいジャンルの製品が加わった事により、従来のコッキング式を「エアガン」「コッキングガン」、フロンガス式を「ガスガン」と呼び分けるようになった。
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