フェズ‐エル‐バリ【Fez el Bali】
フェズ・エル・バリ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/12/30 08:19 UTC 版)
フェズ・エル・バリはチュニジアのケルアンからの移住者の居住区が元となったフェズ川西岸のカイラワーン地区と、イベリア半島からの移住者の居住区が元となった東岸のアンダルス地区で構成され、二つの地区は川をまたぐ市壁に囲まれている。フェズ・エル・バリと市外を隔てる厚い市壁には、8つの門が設けられている。 ブー・ジュルード門 ハディード門 ジャディード門 フトウ門 クウーカ門 シディ・ブー・シダ門 ギッサ門 ショルファ門 8の門のうち、西に建つブー・ジュルード門が旧市街の正門とされており、ギッサ門とハディード門はフェズの建設初期から存在していたと考えられている。城門は交易上重要な方角に設置されており、フトウ門は東のアラブ世界、ギッサ門は北のイベリア半島、ブー・ジュルード門は西のメクネスやラバトに面している。ブー・ジュルード門の外壁と柱頭は幾何学模様のズッリージュ(コバルトの陶製タイル)で彩られ、主門と脇門には馬蹄型のアーチが架かる。ブー・ジュルード門の周辺には、肉や野菜といった生鮮食品を扱う店が集まっている。 門から町の中心に向かう主要街路が伸びており、ブー・ジュルード門から北東に伸びるタラー・ケビラとタラー・セビーラの二本の道路がメインストリートといえる。タラー・ケビラはタラー・セビーラに比べてやや広いが傾斜は急で、通りの途中には階段になっている部分もある。タラー・ケビラよりも新しいタラー・セビーラはやや緩やかだが道幅は狭く、どちらの大通りもカラウィーン・モスクに通じている。南のジャディード門から伸びるアーメド・ベン・エル・アラウィー大通りは、旧市街を通る唯一の自動車道である。8つの主要街路は枝分かれした街路によって互いに接続され、街路から伸びた袋小路の先には個人の住宅が現れる。旧市街の街区は門やアーチで区切られており、長い袋小路の中には街区として設定されているものも多い。中庭の確保と交互に配置された入り口による住居のプライバシーの確保、通りに面して作られた建物に併せて住宅や路地を建設する工程のため、フェズの旧市街には曲がりくねった路地や袋小路が多く現れた。 道は曲がりくねっている上に高低差があり、見通しも悪い迷路のような形状になっている。道幅は広い部分で6m余り、狭い部分では1m以下で、広い通りは少なく狭い通りが多い。狭い通りや路地の両側は高い壁に挟まれていることが多く、家屋の入り口となる扉がまばらに見られる。坂の傾斜が緩やかな地形には、モスク、ザーウィヤ(霊廟)、ハンマーム(公共浴場)、フンドゥク(隊商宿)などの大規模な施設や、大きい邸宅が建てられている。複雑な路地と100m以上の高低差による立体的な迷路性が合わさって、旧市街に入り込んだ人間を混乱させると言われている。地形の高低差があるフェズには、街路にまたがって建てられたモスクも見られる。 地区内のところどころに小さなモスクやハンマーム(公共浴場)、小規模の店舗がまとまって配置され、いくつかの主要街路は道の両側に商店が並ぶスーク(市場)となっている。スーク内の店の敷居は通りよりも高く、業種の同じ店が固まっている。フェズ川沿いにはなめし皮職人街であるシュアラが広がり、シェッラティーン通りには民族衣装を扱う店が並んでいる。ハンマームの構造は地形の高低が生かされており、湯を沸かすために火を使う場所を低地に置き、入り口は高い場所に設けられている。 フェズ・エル・バリの家屋の多くは中庭を持ち、それぞれ異なる形や敷地面積を有している。基本的に家屋にファサードは設けられておらず、入り口の扉だけが街路に面していることが多い。家屋の入り口の扉は対面の家の入り口と真っ直ぐ向かい合わないように作られており、お互いの家の中を覗き込まないように工夫されている。邸宅の増改築について、かつては工事を手がける職人と一部の住民の間に共通の規則が存在しており、工事にあたって住民間のプライバシーの確保、住宅地と公共施設の分離が徹底されていた。入り口の扉は木の細工と鋲で飾り付けられ、多くの扉には「ファーティマの手」と呼ばれる魔除けのついた2つのノッカーが取り付けられている2つのノッカーが付けられている理由について、家人と来客の区別をするため、徒歩で訪れた客と馬で乗りつけた客の両方に応対するため など諸説ある。 住宅の敷地の形状や大きさはそれぞれ異なり、街区の奥に進むほど豪華な造りの住宅が見られるようになる。中庭が住宅の中心となっており、建物の配置はロ字型、コ字型、二時型、L字型に分類できる。敷地に余裕がある豪邸ではロ字型が採用されていることが多く、面積が狭まるにつれてコ字型、二時型、L字型とスペースを節約できる構造が採用されるようになる。いずれの構造の住宅でも左右対称性が重視されており、向かい合う部屋の大きさはほぼ同じであることが多い。中庭が小さい割に周りを囲む建物は高く、部屋は奥行きが狭く横幅が広い。中庭の面積と比べて周囲の壁面が高い構造は、古代ローマの住宅(ドムス)と共通している。中庭の周囲の構造は、列柱が並ぶ2階建ての回廊が中庭を囲むギャラリー型が最も多く、他に2階が吹きさらしのテラスになっているテラス型、部屋の壁が直接中庭に面しているウォール型の二種が存在する。シリア、イラン、イラクの住宅と比べて、フェズ旧市街の住宅では中庭が室内空間として積極的に利用されており、中庭の上に簡素な屋根が取り付けられるとその傾向はより顕著になる。中庭を積極的に利用して開放感を高めようとする構造は、人口密度が高いフェズの住民が生み出した生活の知恵とも言える。
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