アメリカ合衆国の保守合同
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/10 09:12 UTC 版)
「新保守主義 (アメリカ合衆国)」の記事における「アメリカ合衆国の保守合同」の解説
アメリカ合衆国の保守の立場を採る組織や個人の間では、必ずしも利害が共通しているわけではなかった。特に伝統主義とリバタリアニズムはしばしば対立する。例えば、キリスト教精神に重点を置く伝統主義者やキリスト教原理主義者と、完全なる自由競争を唱えるリバタリアニズムの間で、政治的対立を引き起こした。しかしリバタリアニズムを信奉する人物がキリスト教の中絶・ゲイ反対に賛同していることからもわかるように、必ずしも両者が激しい意見の相違があると決め付けるのは誤りである。 また、外交政策や安全保障政策に重大な関心を払わない(モンロー主義や孤立主義を提唱する)伝統主義者や、リバタリアニズムの対外不干渉主義は、反共主義者の積極介入主義との間で、極めて深刻な政治対立を引き起こした。 この保守思想の分裂を1つの大きな「保守主義」としてまとめあげることに成功したのが、1955年に創刊された『ナショナル・レビュー(英語版)』という雑誌である。この雑誌は伝統的な保守派だけでなく、リバタリアンやウィルモア・ケンドール(英語版)、ウィリー・シュラム(英語版)、ジェームズ・バーナム、フランク・マイヤー(英語版)のような元共産主義者や元左翼も集結させた点が特徴であった。この雑誌の編集者のウィリアム・バックリー・ジュニアは、上記3つの保守派に対し、それぞれの問題の起因はリベラリズムにあると主張した。「リベラリズムは反共主義者の嫌う共産主義を容認し、リベラリズムは伝統主義者の嫌う伝統の破壊者であり、リベラリズムはリバタリアニズムの嫌う大きな政府の支持者である。」とし、リベラリズムと対立する3つの異なる保守の合同に成功したのである。この試みは、1960年代のアメリカの保守主義運動と連動して、1つの潮流を作り出した。 1964年、共和党大統領候補バリー・ゴールドウォーターの有名な演説が行われた。 「自由を守るための急進主義は、いかなる意味においても悪徳ではない。そして、正義を追求しようとする際の穏健主義は、いかなる意味においても美徳ではない」 保守派はこの演説を大歓迎した。そして、このゴールドウォーター演説に影響された多くの保守派の政治家が、アメリカの次代を担うことになる。 また重要な指摘として、それまでの共和党は、現在のような保守主義ではなかったという点がある。共和党が保守派を利用したのではなく、保守派が共和党を利用したというのである。これにより、共和党の保守化が進み、1980年代のレーガン政権誕生へとつながっていくこととなる。その後の、ジョージ・H・W・ブッシュ政権ではドナルド・ラムズフェルド、ディック・チェイニーやコリン・パウエル等のネオコンが大きく関与して湾岸戦争を行った。 1992年に誕生したビル・クリントン政権では人道介入主義リベラルホークを代表するチェコ出身ユダヤ人であるマデレーン・オルブライト国務長官の元に、ユーゴ空爆やコソボ紛争に関与した。 2001年、それらの政治勢力に後押しされる形で元共産主義者で「思いやりのある保守主義の父」 と呼ばれるマーヴィン・オラスキー(英語版)を顧問にしていたブッシュ大統領が登場し、前述のような背景、思想を持つ人物がブッシュ政権の中枢を担いアメリカ同時多発テロ事件を奇貨とした不朽の自由作戦に始まる対テロ戦争、アフガニスタン紛争では主導的役割を担った。 2008年に誕生したオバマ政権では民主党系のネオコンであるリベラルホークが外交政策に深く関与し、ヒラリー・クリントン国務長官の元、代表的ネオコン論客ロバート・ケーガンの妻であるビクトリア・ヌーランドやサマンサ・パワー、アントニー・ブリンケンらが要職に就き、イラク戦争とアフガニスタン戦争の継続、リビア戦争、シリア内戦(生来の決意作戦)、ウクライナの政変、イエメン内戦等に大きく関与し数々の新たな戦争を行った。 その後、2017年にドナルド・トランプ政権が誕生し、トランプ大統領の政策は世界各国に駐留する米軍の撤退を主張やNATOの軽視等モンロー主義、孤立主義的であり政策的には共和党政権でありながらネオコン色は薄まったが、ジョン・ボルトンやマイク・ペンス、マイク・ポンペオ等のネオコン色の濃い共和党の人物を登用しており、中東ではネオコンのエリオット・エイブラムス(英語版)を対イラン特使に任命してシリアのシャイラト空軍基地攻撃、シリアへの2018年のミサイル攻撃(英語版)、イラン・ソレイマーニー司令官暗殺など単発的とはいえ軍事攻撃に踏み切って前オバマ政権と打って変わって強硬なネオコン的手法を取った他、中南米ではベネズエラやキューバ等の左派政権と緊張関係になり、東アジアでは香港民主化デモを支援して中華人民共和国への圧力も強めた。ドローン攻撃による民間人の死者はオバマ政権の8年間を上回ったうえに、2017年北朝鮮危機では武力行使も示唆した北朝鮮の金正恩への接近や、トランプ政権の誕生にサイバー攻撃などを駆使して関与したとされるロシアのプーチンへも親和的で、強硬に見えた対中政策でも中国との取引を重視して貿易協定を優先したトランプ自身は香港のデモ支援に消極的で新疆ウイグル再教育収容所の設置を容認する発言をして中国側へ自分の再選のために米国の農産物を買うように持ちかけたり、必ずしも全ての政策で一致があったわけではない。 2021年に誕生したジョー・バイデン政権ではネオコンと類似するオバマ政権時代の民主党系のリベラルホークが復権し、ビクトリア・ヌーランドやアントニー・ブリンケン、サマンサ・パワーらが要職に復権した他、国防長官には元アメリカ中央軍司令官で巨大軍需企業のレイセオン・テクノロジーズ取締役のロイド・オースティンが就任している。副大統領に就任したカマラ・ハリスも対外強硬派でありその思想はネオコンに近いとされる。
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