ヤマノイモ 利用法

ヤマノイモ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/19 14:17 UTC 版)

利用法

じねんじょ 塊根 生[14]
100 gあたりの栄養価
エネルギー 506 kJ (121 kcal)
26.7 g
食物繊維 2.0 g
0.7 g
飽和脂肪酸 0.11 g
一価不飽和 0.04 g
多価不飽和 0.11 g
2.8 g
ビタミン
チアミン (B1)
(10%)
0.11 mg
リボフラビン (B2)
(3%)
0.04 mg
ナイアシン (B3)
(4%)
0.6 mg
パントテン酸 (B5)
(13%)
0.67 mg
ビタミンB6
(14%)
0.18 mg
葉酸 (B9)
(7%)
29 µg
ビタミンC
(18%)
15 mg
ビタミンE
(27%)
4.1 mg
ミネラル
ナトリウム
(0%)
6 mg
カリウム
(12%)
550 mg
カルシウム
(1%)
10 mg
マグネシウム
(6%)
21 mg
リン
(4%)
31 mg
鉄分
(6%)
0.8 mg
亜鉛
(7%)
0.7 mg
(11%)
0.21 mg
他の成分
水分 68.8 g
水溶性食物繊維 0.6 g
不溶性食物繊維 1.4 g
ビオチン(B7 2.4 µg
有機酸 0.4 g

ビタミンEはα─トコフェロールのみを示した[15]。廃棄部位: 表層及びひげ根
%はアメリカ合衆国における
成人栄養摂取目標 (RDIの割合。

主に地下に出来る長いイモの部分を食用にし、ムカゴも食用にする[9]。根茎(芋)とされる担根体は、昔から滋養強壮がつくとして食用・薬用に利用されており、根茎にはデンプン、粘液質のムチレージアミラーゼ(ジアスターゼ)、マンニットコリンアルギニンアミノ酸サポニンなどが含まれている[16]。根茎の汁が肌につくとかゆみを感じるときがあるが、根茎に含まれるサポニンによって肌が刺激されるためで、アレルギー体質の人は強く感じるときがある[16]。ムチンは、たんぱく質の吸収を促して、血糖値の上昇を抑制し、コレステロールの低下にも効果がある[4]。栄養素としてはビタミンB群、ビタミンCカリウム食物繊維を含む[4]

食用

地中に長く伸びる芋(担根体)をすりつぶしてとろろにして食用にする[17]。自生するものは自然薯(じねんじょ)とよばれ、栽培種のナガイモ(長いも)よりモチモチした食感で粘りが強い[17]。すりおろしたイモを海苔で巻いて油で揚げた磯辺巻き、粗い千切りにしてサラダ天ぷらにする[13]

むかごは、主に加熱調理して塩茹でや、少し塩味をつけて炊き込みにして食用にするが[2]、生食もできる。そのままの状態だとカリカリという食感が楽しめ、すりおろすと芋同様の強い粘りがある。むかごは、時間をかけてよく茹でたあとに塩を振ったり、フライパンで塩焼きにして食べられていて、とろろ芋同様に滋養強壮によいといわれている[11][17]。むかごを米と一緒に炊いた「むかご飯」は風味豊かで、日本料理でしばしば出る高級料理でもある[17]油炒め唐揚げにしても良い[13]

生食の可能な理由はヤマノイモが多量に含む消化酵素アミラーゼがデンプンの消化を促進するためといわれている[4]。ただし近年の研究では、これを否定する研究発表もなされている[18]

とろろ
すりおろしてから白醤油出汁などを加えてのばしとろろにするのが代表的な調理法である。ナガイモのとろろと比較すると遥かに粘り気が強い。
とろろを伸ばして麦飯ないし麦入り米飯にかけた「麦とろ」があり、東海道五十三次鞠子宿(現、静岡県静岡市駿河区丸子)の名物とされたが、鞠子宿のとろろ汁は、自然薯を味噌でのばしたものが供される[19]岡本かの子の随筆「東海道五十三次」にも、丸子で食したとろろ汁について「炊き立ての麦飯の香ばしい湯気に神仙の土のような匂いのする自然薯は落ち付いたおいしさがあった」とある[注 1][20][21]。この宿駅のとろろ汁の店は「丁字屋」(慶長元年(1596年創業))であるとその名が『東海道中膝栗毛』に明記されており、この店は浮世絵師歌川広重によっても描かれている[20]松尾芭蕉に「梅若菜、鞠子宿のとろろ汁」という俳句があり、店のそばの句碑は文化11年(1814年)に建てられたものである[20]
とろろ芋をすりおろしたものを「山かけ」と称し、「まぐろの山かけ」や「山かけ蕎麦」があるが[22][23]、こうした山かけの料理や、うどん等にあえて自然薯のとろろ使用をうたった飲食店もある[24][25]。また、自然薯をそば粉に練り込んで打った自然薯そばもそば処で出されている[注 2][23]
伝統料理
芋粥は、平安時代を背景とする物語(芥川龍之介の小説『芋粥』やその原典『今昔物語集』中)に登場するが、これは皮を剥き薄切りにしたヤマノイモを、アマヅラの煮詰め汁で炊いたものであり、現代のサツマイモ入りの穀物粥であるいわゆる芋粥とは根本的に違う[26][27]。これは『群書類従』に収録された鎌倉時代の宮中料理次第事典『厨事類記』の、菓子の部類についてのうちにその調理法などが記載され、文章は以下である[28]
薯預粥ハ ヨキイモヲ皮ムキテ ウスクヘキ切 <天> ミセン(味煎)ヲワカシテイモヲイルヘシ イタクニルへカラス 又ヨキ甘葛煎ニテニルトキハ アマツラ一合ニハ水二合ハカリイレテニル也 石ナへ(石鍋)ニテニル チヒサキ銀ノ尺子ニテモリテマイラス云々 銀ノ提ニ入テ銀ノ匙ヲク(具)シテマイラスヘシト云々
厨事類記
ヤマノイモを利用した米粉の麺類である薯蕷麺は、『日葡辞書』(1604年)に「Ioyomen ジョヨメン」記載があり[29]江戸時代後期に塙保己一(1821年没)が著した叢書続群書類従』(料理物語 - 飲食部)の章にて「しよよめん(薯蕷麺)」を紹介している。内容は端的に食材料理法を載せ、文章は以下である。
山の芋を細かにおろし、もち米の粉六分、うる米四分をこまかにはたき。山の芋にてよきころにこね。玉をちいさうして、きりむぎうち申ごとくに、うち候。茹で加減は、にまううきあがる時節。是も汁は切麥同前。
塙保己一、続群書類従
現在は薯蕷麺(いもめん)と呼び、『続群書類従』同じくもち米うるち米の粉、ヤマノイモを原料とした麺を言う[30]
ヤマノイモは、薯蕷饅頭(じょうよまんじゅう)、かるかん栗きんとんなど、和菓子の材料にもなる。製菓用の粉末状の製品もある。
その他
とろろを出汁でのばさずに海苔に包んで揚げる料理もあり、磯辺揚げと呼ばれている。
ヤマノイモを生のまま短冊切りなどの食べやすい形に切って、他の生野菜と共にサラダにする食べ方も現代では行われている。断面に若干の粘り気があり、オクラのような食感が楽しめる。

薬用

古事記』(712年)や『日本書紀』(720年)の時代から薬用として使われていたとみられている[4]

皮をむいて天日乾燥した担根体(根茎)は、野山薬(のさんやく)または土山薬(どさんやく)と称され、生薬になる[5]山薬(さんやく)は本来は中国原産で栽培されるナガイモ(通称:トロロイモ)の漢名であるが[5]、ヤマノイモまたはナガイモの担根体を生薬にしたものもこう呼ばれており[10]、栽培種も同様に用いられる[10]。これは日本薬局方に収録されており[31]滋養強壮、止瀉、止渇作用があり、腸炎による下痢止め、夜尿症頻尿寝汗喘息腰痛に効用があるといわれており[5][10]、薬効はナガイモ(山薬)も同じである[5]漢方では滋養強壮の目的で処方され[13]八味地黄丸(はちみじおうがん)、六味丸(ろくみがん)などの漢方方剤に使われる。生薬にする根茎は、秋にヤマノイモの葉が黄変してから冬季にかけて根茎を掘り採って、頭の部分を切り取って水洗いし、竹べらで皮を剥ぎ取って、長さ10センチメートルくらいに切り、天日で乾燥して調整される[5][10]

民間療法では、乾燥した根茎1日量3 - 10グラムを水400 ccで4分の3になるまで煎じ、3回に分けて服用する用法が知られる[5][10]。また、生食しても同様の薬効が期待できる[5]。咳、喘息には痰が切れにくくカラ咳の人によいとされ[5]、生の根茎をすり下ろして、砂糖を加えて熱湯を注いで飲む[10]。寝汗や夜尿症に、生のイモをアルミホイルで包み焼きにし、毎日食べると効果があるといわれる[13]乗り物酔いする人や、吐き気のある人への服用は禁忌とされている[5]。滋養強壮には根茎をそのまま生食するか、山薬酒をつくって就寝前に1日盃1杯飲用する[16]。山薬酒は、山薬を細かく砕いて200グラムあたりホワイトリカー1.8リットルに漬け込み、2 - 3か月冷暗所に保存しておいてから、漉して作られる[16]

保存

晩秋から冬に掘り上げた生いもは、凍らせない程度に保存し、随時使用する[10]。皮をむき、せん切り、輪切りなどを使いやすい大きさに切り、酢水につけてから水気をふき取り、冷凍保存袋にいれて保存する。保存期間は2週間[32]


注釈

  1. ^ あえて薬味の青のりをふりかけなかった、とも描写されている。
  2. ^ 箱根の「はつはな」など。

出典

  1. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Dioscorea japonica Thunb. ヤマノイモ(標準)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2023年9月16日閲覧。
  2. ^ a b c d e f g h i 吉村衞 2007, p. 120.
  3. ^ a b c 高野昭人監修 世界文化社編 2006, p. 110.
  4. ^ a b c d e 猪股慶子監修 成美堂出版編集部編 2012, p. 124.
  5. ^ a b c d e f g h i j k l m 貝津好孝 1995, p. 73.
  6. ^ a b c d e f g h 篠原準八 2008, p. 108.
  7. ^ 北海道南西部桧山地域に生育するヤマノイモの遺伝的特性
  8. ^ a b c d 鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文 2012, p. 220.
  9. ^ a b c d e 近田文弘監修 亀田龍吉・有沢重雄著 2010, p. 214.
  10. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p 馬場篤 1996, p. 112.
  11. ^ a b c d e f g h i j 田中孝治 1995, p. 211.
  12. ^ 板木利隆『図解やさしい野菜づくり』家の光協会、1996年10月、257頁。ISBN 978-4259533946 
  13. ^ a b c d e f g h i 高野昭人監修 世界文化社編 2006, p. 111.
  14. ^ 文部科学省日本食品標準成分表2015年版(七訂)
  15. ^ 厚生労働省日本人の食事摂取基準(2015年版)
  16. ^ a b c d 田中孝治 1995, p. 212.
  17. ^ a b c d 篠原準八 2008, p. 109.
  18. ^ 団野源一「ヤマノイモを生で食することができる理由は生でんぷんの消化性によるものではない」『大阪青山大学紀要』第2巻、大阪青山大学『大阪青山大学紀要』編集委員会、2009年3月、29-31頁、CRID 1050564288823221632ISSN 18833543国立国会図書館書誌ID:10905743 
  19. ^ 徳力富吉郎東海道53次』保育社、1992年、37頁https://books.google.com/books?id=FLeXGx7AGLMC&pg=PA37 
  20. ^ a b c 清水茂雄「静岡市とその周辺の文学」『国文学年次別論文集 国文学一般平成10(1998)年』、42–43頁2000年https://books.google.com/books?id=oFAjAQAAMAAJ 
  21. ^ 岡本かの子『東海道五十三次』1939年
  22. ^ 見坊豪紀山かけ」『三省堂国語辞典』、1152頁1982年https://books.google.com/books?id=Hge5AAAAIAAJ 
  23. ^ a b 植原路郎『蕎麦談義』東京堂出版、1973年、61頁https://books.google.com/books?id=b6YCAAAAMAAJ 
  24. ^ マグロ祭りきょうから 都留」『読売新聞』2019年3月16日https://www.yomiuri.co.jp/local/yamanashi/news/20190315-OYTNT50101/ 
  25. ^ 自然薯の栽培を10年前に始め自然薯料理店「みや古」、玉城町に」『伊勢志摩経済新聞』2014年2月23日https://iseshima.keizai.biz/headline/1968/ 
  26. ^ 赤井達郎京の美術と芸能: 浄土から浮世へ』京都新聞出版センター、1985年、89頁https://books.google.com/books?id=f9BMAAAAMAAJ 
  27. ^ 谷口歌子「′85短歌セミナ--2-古典文学にみる食物--奈良・平安期を中心として」『短歌研究』第42巻、第2号、313頁、1990年https://books.google.com/books?id=nCtmAAAAIAAJ 
  28. ^ 『群書類従 厨事類記』国立公文書館デジタルアーカイブ
  29. ^ 林文子「『日葡辞書』が語る食の風景(1)」『東京女子大学紀要論集』第58巻第2号、東京女子大学、2008年3月、134頁、CRID 1050001337659479552ISSN 04934350 
  30. ^ 歴史民俗用語辞典「薯蕷麺イモメン(imomen)」 日外アソシエーツ 2015年09月19日閲覧
  31. ^ 第十八改正日本薬局方”. 厚生労働省. p. 生薬-166. 2021年4月5日閲覧。
  32. ^ 『作りおきおかずで朝ラクチン!基本のお弁当300選』180頁。
  33. ^ 自然毒のリスクプロファイル:高等植物:グロリオサ 厚生労働省
  34. ^ 主婦の友社編『野菜まるごと大図鑑』主婦の友社、2011年2月20日、204 - 205頁。ISBN 978-4-07-273608-1 
  35. ^ 吉村衞 2007, p. 121.
  36. ^ a b 近田文弘監修 亀田龍吉・有沢重雄著 2010, p. 215.
  37. ^ 鈴木晋一 『たべもの史話』 小学館ライブラリー、1999年、195 - 201頁






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