呼びかけ
『えぞおばけ列伝』9「魔の呼び声」 幽霊でも魔でも、人を呼ぶ時は1声しか呼ばない。山でも里でも沖でも、1声しか呼ばれなかったら、決して返事をするものではない。3度目に呼ばれて、いよいよ人間の声だとわかってから、はじめて返事をするものだという教訓が、どこのアイヌにもある。
狐の風(水木しげる『図説日本妖怪大鑑』) 狐は人間に化けても、1声しかしゃべることができない。往来などで、誰かから「もし」と1声だけ呼びかけられたら、それは狐だから返事をしないのがよい。逆に、人に声をかける時には、「もしもし」と2声以上言わないと、「狐ではないか?」と疑われてしまう。
『太平広記』巻352所引『北夢瑣言』 江河の辺にはチョウ鬼(=溺死者の霊)が多く、往々にして人の名を呼ぶ。これに返答すれば必ず溺れる。死者の霊が誘うのである。
船幽霊の伝説 船幽霊は海で死んだ者の魂で、仲間を海に引きこもうとして現れる。「人語につく」といわれるので、船幽霊がでたら静かにしているのがよく、呼びかけられても返事をしてはならない。
*魔や霊などの問いかけに、返事をしてはいけない→〔返答〕1。
*名前を呼ばれて返事をすると、瓢箪に吸い込まれる→〔瓢箪〕3の『西遊記』百回本第34~35回。
★3.呼びかけに答えて良い相手と、答えてはいけない相手がある。
火と死の起源譚(ブラジル・アピナイエ族の神話) 少年が猛獣ジャガーの養子になり、ジャガーの家に住む。少年が自分の村へ帰る時、ジャガーは「途中で、岩とアロエイラの樹の呼び声が聞こえたら、返事をせよ。しかし、腐った木の呼びかけには、答えてはならない」と教える。少年はジャガーの注意を忘れ、岩とアロエイラだけでなく、腐った木にも答えてしまう。岩とアロエイラにだけ返事をしていたら、人間は岩やアロエイラ同様に長生きできたはずだった。腐った木にも返事をしたため、人間の命は短くなった。
『妖怪談義』(柳田国男)「妖怪名彙(ニュウドウボウズ)」 三河(愛知県)の作手村でかつて「入道坊主」を見た、という話がある。はじめは3尺足らずの小坊主で、近づくにつれて7~8尺から1丈にもなる。まずこちらから「見ていたぞ」と声をかければ良いが、向こうから声をかけられると死ぬ、といわれる。
★5.化け物の呼びかけに返事をしてはならない、という俗信を利用した詐術。
『宇治拾遺物語』巻9-8 醜貌の若者が「天下の美男子」と偽り、長者の家の婿になる。婿の仲間が鬼に扮して、天井の上から「天の下の顔よし」と呼び、3度まで呼ばれて婿は返答する。長者から「なぜ返事をしたのか」と問われ、婿は「思わず返事をしてしまった」と答える(*これは、化け物に返事をしてはならない、という俗信があったからであろう)。鬼は婿に「お前の顔を吸い取ってやる」と言う→〔顔〕8。
『今昔物語集』巻19-14 にわかに発心した讃岐の源太夫が、西方に海をのぞむ峰へ登り、木の股にまたがり金(かね)を叩いて、阿弥陀仏を呼ぶ。それを見た寺の住持が、「(阿弥陀仏は)いかに答へ給ふぞ」と問うので、源太夫は「さは、呼び奉らむ。聞け」と言って、「阿弥陀仏よや、いどこ(=いづこ)におはします」と叫ぶ。すると海の中に微妙(みめう)の御声があって、「ここにあり」と(阿弥陀仏が)お答えになった→〔発心〕3。
頓呼法
頓呼法(とんこほう、英: Apostrophe)または呼びかけ(法)とは、語り手または作者が語りを休めて、そこに存在しない人物または抽象的な属性や概念に直接語りかける、感嘆の修辞技法のこと。戯曲や詩の中では、「O」という言葉(感嘆詞の「Oh」とは混同しないこと)とともに始まることが多い。語源はギリシャ語の「ἀποστροφή, apostrophé」(背を向ける)。
頓呼法は擬人化と関連があるが、頓呼法の中では、目の前に人がいるように語り手が話しかけることで、目的語と抽象名辞に、はっきりした人間の特質(たとえば思いやりのような)がほのめかされている。
ウィリアム・シェイクスピア『ハムレット』第3幕第3場のクローディアスの熱烈な語りのように、極度の感情を伝えるのに使われることが多い。
例
- O Romeo, Romeo! wherefore art thou Romeo?
- (O、ロミオ、ロミオ! なぜあなたはロミオなの?)
- -- シェイクスピア『ロミオとジュリエット』第2幕第2場
- Death, be not proud, though some have called thee
- Mighty and dreadful, for, thou art not so,
- (死よ、得意になるな、おまえのことを強いの恐れ多いのと言う者もいようが、汝はそうではないのだから)
- -- ジョン・ダン『聖なるソネット(神に捧げる瞑想)』10
叙事詩の中では、その詩の標準のスタイルを破って、作者が登場人物に語りかけることもよくある。ホメロスは登場人物への特別の愛着を示すために頓呼法を用いた。『イーリアス』の中の、死ぬ前のパトロクロスへの直接的な呼びかけ(第16歌483)はその最たる例である。
参考文献
この記事にはアメリカ合衆国内で著作権が消滅した次の百科事典本文を含む: Chisholm, Hugh, ed. (1911). "Apostrophe". Encyclopædia Britannica (英語). 2 (11th ed.). Cambridge University Press. p. 205.
呼びかけ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/09/12 14:23 UTC 版)
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「呼びかけ」の例文・使い方・用例・文例
- 知事は自転車乗りたちに、ゴミ拾いに参加するよう呼びかけた。
- 私はそれを彼らに呼びかけたい。
- 彼は二階から私に呼びかけた。
- 例えばベルベットモンキーは、輪を描いて呼ぶワシがいるとある種の呼びかけを用いるようになる。ワシはサルを捕食するのだ。
- 彼女が呼びかけてきたとき、私は飛び上がった。
- 彼は私ばかりではなく私の犬にも大声で呼びかけた。
- 地域参加を呼びかけてもしょせんは美辞麗句、どのみち市役所はやりたいことを勝手にやるに決まっている。
- 大統領は国民に貧窮や病気との戦いで団結するように呼びかけた。
- 大統領は国民に協力を呼びかけた。
- 先生は、手を振りながら、私に呼びかけた。
- 警官はすりに対する注意を呼びかけた。
- 遠くから誰かが私に呼びかけているのが聞こえた。
- トムは通り越しに彼女に向かって呼びかけた。
- アメリカは条約違反国に対する武器の輸出禁止を呼びかけています。
- <乗客への呼びかけ>(バスの)中へお詰め願います。
- 終焉が近づくにつれ, 妻の呼びかけにもほとんど反応を示さなくなった.
- 会社は社員に出勤時間をずらすように呼びかけている.
- 彼らの呼びかけに応じるかどうか迷った.
- 呼びかけられて振り返った
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