解散権の限界
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/13 20:28 UTC 版)
憲法上、内閣の衆議院解散権を制約する明白な規定はない。しかし、衆院選の一票の格差や在外選挙などの問題で最終審で違憲判決(または違憲状態)が確定した場合、違憲状態が明白のまま総選挙をしても、その後に最高裁で総選挙について無効とする事態が生じうることから解散権の行使についても政治上問題となる。 衆議院解散そのものについては内閣の裁量に属する。最高裁も解散権の行使そのものについては「衆議院の解散は、極めて政治性の高い国家統治の基本に関する行為であつて、かくのごとき行為について、その法律上の有効無効を審査することは司法裁判所の権限の外にありと解すべきことは既に前段説示するところによつてあきらかである。そして、この理は、本件のごとく、当該衆議院の解散が訴訟の前提問題として主張されている場合においても同様であつて、ひとしく裁判所の審査権の外にありといわなければならない」(最高裁判所大法廷昭和35年6月8日判決)としている。政府も違憲判決(または違憲状態)や震災は衆議院解散を制約しないと答弁している。ただ、一票の格差などの問題で違憲状態が続く場合にも、解散権そのものが制約されるわけではないが、違憲状態のまま衆院選が実施されれば司法において選挙について無効の判断が出る可能性があるため、事実上、首相の解散権を制約する可能性があることが指摘されている。 また、政治的には当初予算案編成・審議の時期にあたる2月から3月や、景気悪化等によって補正予算案編成など景気対策を行わなければならない場合や巨大災害で選挙が行えない被災地が存在する場合なども衆議院解散を控えるべきとされている。 天皇が外遊並びに病気療養中による不在で国事行為ができなくても、国事行為臨時代行で委任を受けた皇族(皇太子・皇嗣など)により解散することは可能だが、現行憲法下で行われたことは未だ一度もない。2009年7月の解散政局において天皇の不在時に解散は避けるべきとの与党内の意見に対して、麻生太郎首相は皇太子の代行で天皇不在時でも解散が可能とする見解を示していた。 また、内閣総理大臣臨時代理が衆議院解散をすることについて、内閣法制局は「内閣総理大臣の一身専属的な権能に属するためできない」と見解を述べている。 解散権をめぐっては憲法改正等によりに制限を設けるべきとの議論がある。同じ立憲君主制と議院内閣制であるイギリスでは2011年に議会任期固定法が成立し、2022年に議会解散・召集法が成立するまでは、庶民院の議決が無いと庶民院の解散権が制限されたが、2011年から2022年の間にイギリスの欧州連合離脱(ブレグジット:Brexit)をめぐってその意味が問われるようになった。イギリスの欧州連合離脱の議論では、ボリス・ジョンソン首相が無謀な計画を解散権をちらつかせて推し進めることへの歯止めとして機能したという分析がある一方、解散総選挙によって首相の意思で民意を問うことができなくなり、国民投票から政界や議会での混乱が解消できない政治のレームダック化が問題点として指摘された(結果的に3回の解散総選挙構想が議会で否決された末に同意なき離脱を延期させる案が議会で可決成立した後で4回目の解散総選挙構想が議会で可決されるという経過を辿った)。日本においても解散権を制限的に捉える見解がある一方、前回の選挙の際に直接争点にならなかった重大な政治問題が生じた場合には任期満了前に解散総選挙により国民の意思を問う必要があるという指摘もある。これは政治的問題により国会での統一的意思形成に支障を生じている場合などに、内閣が責任ある政策形成を維持するため、このような場合に解散によって国民の意思を問うことは国民主権の趣旨に沿うとともに内閣による責任ある政策形成を制度上可能にするとの見解である。なお、2017年時点で経済協力開発機構(OECD)加盟35カ国で政権の自由裁量による議会解散が一般化しているのは日本を含めカナダ、デンマーク、ギリシャの4カ国である。
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