聖蹟指定の本格化
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1928年に史蹟名勝天然紀念物保存が内務省から文部省に移管されてから、明治天皇聖蹟の保存が本格化する。のちの精神運動のさきがけとなった。聖蹟指定は、老朽化し忘却されていく施設を保護する以上に、国民教化を目的とする精神運動の面が濃かった。政治的バイアスを伴うものであったが、一方で明治天皇の足跡そのものには明治以後の皇室と地域との関係が集約されている。 機関誌『史蹟名勝天然紀念物』は1926年に再刊されるが、明治天皇史跡指定運動を推進する人脈には断絶がある。1928年史蹟名勝天然紀念物保存が内務省から文部省宗教局保存課へ移管されたのに伴い、史蹟名勝天然紀念物保存協会の事務局も同課へ移転した。明治天皇聖蹟の保存が本格化したのは聖蹟保存が文部省に移管され、国民教化が推し進められたことによる。何の形態も示さないで聖蹟だけを顕彰することが国民教化に一層効果的であった。民間では地方名望家層が聖蹟保存に積極的に動いた。 明治天皇聖蹟保存会が1930年に設立され、明治天皇史跡の調査の中心になった。明治天皇聖蹟保存会の設立の趣旨は、聖蹟を調査し、その保存の途を講じ、あわせて聖徳を顕揚し、もって君国に貢献せんとする、というものであった。全国の聖蹟の中には保存されたものもあるが、なかには荒れはてたものもあり、いま顕彰しなければ湮滅してしまう恐れがあるので保存会を設立したという。保存会の会長は侯爵西郷従徳(西郷隆盛の甥)である。保存会主事の大平己三郎が各地の聖蹟を実地に調査した。西郷会長によると、そもそも明治天皇聖蹟保存会が設立されたのは大平が非常に熱心に奔走した結果であった。また、矢吹活禅も明治天皇聖蹟保存会の主事で、同時に史蹟名勝天然紀念物保存協会の機関誌の編集発行人であった。明治天皇聖蹟保存会が史蹟名勝天然紀念物保存協会の中核になっていた。かつての「明治天皇御遺蹟」は今や「明治天皇聖蹟」と称されるようになった。神性を意識させる聖蹟という名称への移行は、明治天皇聖蹟が史蹟名勝天然紀念物保存法の中でも特別の位置を占めていたことを象徴する。 文部省は1933年度に帝国議会の協賛を得て予算を確保し、その年から聖蹟の指定を始めた。1,375か所にのぼる紀念址・駐輦址・行在所・野立所の中から国が指定する史蹟を選んだ。指定の基準は、顕著な聖徳事蹟であることと、行在所の建物が原位置でよく保存され指定に支障がないことであった。文部省は各府県につき2~3件づつ調査して選定した。1933年11月2日の第1次指定は行在所53、大本営5、行幸所10、小休所6、野立所10、その他2(旧芝離宮阯、旧静岡御用邸)、合計86件であった。これ以前に史蹟に指定された明治天皇聖蹟は、1926年10月20日に指定された広島大本営のみであった。 国による指定と並行して明治天皇聖蹟保存会が『明治天皇行幸年表』を発刊した。同書は聖蹟の所在を明らかにすることを主要目的として、保存会主事の矢吹活禅が編纂した。明治天皇紀の編修を行っていた臨時帝室編修官長三上参次が聖蹟について多年にわたり直接間接に教示した。保存会理事で臨時帝室編修官でもある上野竹次郎が保存会設立以来史料を提供した。同書の一半は上野のおかげであった。保存会理事で法学博士(かつ明治史研究家)の尾佐竹猛が年表編纂を指導した。 明治天皇聖蹟の指定について年別にみると、1933年に86件、1934年に70件、1935年に51件、1936年に55件、1937年に55件が指定された。その後の指定もあり、指定解除直前の1948年1月にも山梨県中初狩小安所が指定された。指定解除された明治天皇聖蹟377件のうち、広島大本営と中初狩御小休所とを除く375件は、1933年から1945年までの間に指定されている。県別内訳は、最多の新潟県が48件、次いで長野県22件、福島・栃木・東京・福井・愛知・滋賀の6府県が各15件以上であった。和歌山・鳥取・島根・徳島・愛媛・高知・佐賀・大分・宮崎・沖縄の10県には行幸がなかったため聖蹟が存在しなかった。東日本に遍在し、西日本に少ないのは巡幸のあり方を反映していた。 文部省は指定した聖蹟について『明治天皇聖蹟』各篇を出版し、図面・写真・指定理由を報告した。このほか、新潟、大阪、宮城、岡山、福島、千葉、長崎、東京、群馬などの各府県が編纂した聖蹟誌の記録が残されている。1940年には、東京府観光協会が写真帳『仰ぐ聖駕のみあと』を刊行した。東京府観光協会は東京府庁内に所在する東京府直結の外郭団体であった。同書に東京府内67件の聖蹟を掲載した。うち15件が国に指定されていた。
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