経営母体の移動
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/19 14:49 UTC 版)
大沼は、郊外への量販店の進出やインターネット通販などの普及によって、2017年2月期決算では85億円の売上を計上していたが、4期連続の赤字に陥り、同年5月25日には決済資金が不足する事態に陥る。こうしたことから、独力での経営改善は困難と判断。山形銀行、ファイナンシャル・アドバイザリー会社、後に破産申請代理人となる弁護士を中心に再建に関する協議が行われることになり、複数の企業にスポンサー支援を打診したが、再生スポンサー候補は最終的に投資会社4社に絞られることになった。この時点で、大沼幹部は破産もしくは会社更生法申請を視野に入れていた。 投資会社4社は、米沢店並びに保険事業を継承するか、会社分割もしくは第二会社方式での再建を訴えたが、酒田市に工場を設置する本間ゴルフや、岩手県盛岡市の商業施設「Nanak(ななっく)」(旧中三盛岡店)、兵庫県姫路市の百貨店「ヤマトヤシキ」などの再建を手掛けるマイルストーンターンアラウンドマネジメント(MTM、東京都)が二次破綻のリスクは残るものの、一般債権者に影響を及ぼさない私的整理を提案したことから、2017年秋にMTMを支援先に選定した。大沼も、交渉が不調に終わった際に備えて破産もしくは会社更生法申請を検討していたほか、取引金融機関も、会社更生法申請を検討していたという。同年12月25日にMTMから、出資を含む経営支援を受ける覚書を結んだと発表した。2018年内をめどに再建計画を立てるとしていた。大沼は資金支援を受けた後、MTMに経営権を譲る予定と報じられる。また支援先をMTMに決めた山形銀行は『山形コミュニティ新聞』の取材に「(MTMを選んだ理由については)コメントできない」と回答している。 大沼は、2018年4月23日に臨時株主総会を開催。株式の100%減資と創業家出身の児玉賢一社長のほか全役員の退任、並びにMTMによる増資の引受および早瀬恵三同社社長が大沼社長に就任したとする新経営体制を発表した。MTMの大沼に対する出資額は6億円程度と見られているほか、20億円超の借入金に関しては山形銀行など取引金融機関が債権放棄に応じた模様と報じられている。新経営体制の発足に沿って、米沢店が同月25日に改装工事の第1弾を終え、リニューアルオープンした。 同年5月には早瀬社長が代表取締役となり、新社長には新銀行東京で執行役員を務めた長沢光洋が就任した。だが、同年9月20日に開催の臨時取締役会で長沢社長が解任され、早瀬代表取締役が社長に就く人事を決定した。 さらに、MTMとは無関係の投資会社がスポンサー就任をMTMが断った際に、投資会社と大沼の一部幹部による妨害工作が開始され、投資会社が「当社にスポンサーを譲らなければ、MTMによる出資金還流問題をマスコミに流す」とMTMに通告し、投資会社が実際に金融機関、出資元、マスコミに流したために資金調達が困難となり、同年7月には早くも資金不足に陥って買掛金の支払いも困難となった。以降、再建方針を巡ってMTM側と一部幹部間で対立するようになった他、取引先や社員の間からもMTMに対する不信感を募らせるようになっていた。MTMに出資している銀行の代理人は、同年12月にMTMに対して出資金還流の説明を求めた。2019年2月18日に行なわれた大沼と金融機関との会議の席では、金融機関側が「MTMに流れた金はいつ返還されるのか」「追加融資はいつになるのか」などと早瀬社長に詰め寄る場面もあったという。山形市の佐藤孝弘市長も同年2月20日に「資金が想定外の動きをしている。正常な経営といえない」と会見し、MTMを批判した。MTMが同年2月28日に盛岡市で行った「Nanak(ななっく)」閉店会見で、MTMの財務状況が悪化していることが明らかとなった。 予定していた山形本店の改装が実施されておらず、地元のMTMに対する不信感、資金不足による仕入代金における支払の遅れなど、大沼の再建は2019年3月時点で進展していなかった。そんな中、2019年3月22日に臨時株主総会と取締役会が開催され、大沼投資組合がMTMが保有する大沼全株式を担保とする債権者から全株式を取得し、早瀬恵三社長など役員4人並びに監査役1人を解任した。新社長には同日付で取締役執行役員の永瀬孝が就任したほか、大沼投資組合から相談を受けた創発ビジネスパートナーの野又恒雄社長や大沼の幹部社員も取締役並びに監査役に就任した。新経営陣は「MTMによる経営に危機感を感じた。従業員の手に取り戻す行動に出た。MTMに対する不信感は募る一方だった」「もう一度原点に戻り、自らの足元を厳しく見つめ直し、収益力と財務力の良化を早期に実現する」などとコメントした。大沼投資組合は、MTMによる再建計画を見直した上で新再建計画を策定し、米沢店を2019年8月15日に閉店するなど、経営再建を図った。 同6月7日付けで、MTMから社長に送り込まれたものの解任され、取締役も退任させられた長澤光洋が代表取締役として大沼に復帰。代表権は長沢と永瀬社長の2人が持つ体制となった。加えて閉店を予定していたギフトショップの新庄店は黒字が続いていたため、老朽化した従来店舗から賃貸店舗に移転して営業を継続することになった。大沼では経営母体を変更以降、売上が好調な、首都圏で仕入れた個性的商品の販売を続けるほか、地元産品を掘り起こし販売する「地域商社」を新事業の柱に、脱百貨店で活路を見出したいとしていた。また両代表取締役は、同12日に山形新聞社を訪れた折、早期に新たな再建計画を作成し、3億円をめどに第三者割当増資を募った上で、長く変わっていないブランドを入れ替えたいとの意向を示した。その一方で、新体制になっても大沼の資金状況を懐疑的に見ている取引先も少なくはなく、不安定な経営が続いており、7月12日には取締役の1人が解任された。さらに9月30日付けで、経営再建の遅れによる支援者らの意向を理由に永瀬社長が辞任。代表権を持つのは取締役の長澤だけとなった。
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