精油の作用・研究
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/09 02:14 UTC 版)
「嗅覚」および「精油#薬理効果・臨床研究」も参照 精油が心身に働きかける経路は、次の3つがあると言われる。 気化したものを吸入し、嗅覚刺激として中枢神経系に働きかける経路(吸入した場合、肺から血液にも溶けこむ) 皮膚に精油を塗った場合に、皮膚を通過して血流に乗り体内に入る経路 経粘膜投与(経直腸、経膣投与、うがい液としての使用)、経口投与で、胃や腸などの粘膜から吸収されて血液に溶け込み、全身へ行きわたる経路 精油は数十から数百の揮発性化合物の混合物であり、ひとつひとつの成分がどのように人体へ影響するのかを追跡するのは容易ではなく、人体への影響の詳細は不明な部分が多い。同じ精油・同じ薬理成分でも、使用法の違い、精油が吸収される経路の違いによって薬理作用は異なり、人体に与える影響はかなり異なることが分かっている。例えばサンダルウッドの精油は、吸引すると刺激作用が、マッサージに用いると鎮静作用が見られた。内服を除いて、どの方法でも人体に吸収される精油はごく微量である。 精油を吸入した場合、におい分子が嗅覚器で神経インパルスに変換されて脳に伝わり、心身に影響を与える。嗅覚は感情に密接に結び付いた、基本的な感覚である。蒸散した精油の芳香成分は鼻で感知され、嗅覚刺激として視床下部から下垂体にかけた領域、いわゆる大脳辺縁系に到達する。大脳辺縁系は、脳の中でも原始的な部分であり、扁桃体と海馬が神経インパルスにより活性化するが、この2つは記憶、性欲、感情、想像力の中枢であることがわかっている。(匂い情報の脳への伝達、脳への影響の詳細は解明されておらず、煩雑になるため省略する。)香りの吸入で、体内に変化が起こり、血圧の変化など複数の生理反応が誘発される可能性がある。心理面への芳香の影響の研究は、1983年から嗅覚研究所(SSI)とエール大学の共同研究が行われた。 アロマ・マッサージでは、精油はわずかに経皮吸収され、血液に溶け込むと言われる。ただし、生化学者のマリア・リサ・バルチンは、精油を植物油で希釈してマッサージを行った場合、ほとんどの精油成分は経皮吸収されずに、皮膚に残留する可能性が高いと述べている。 アラビア・ヨーロッパでは、古くから精油が治療に用いられてきた。ヨーロッパで精油が効果を発揮するメカニズムの研究が進められているかというと、必ずしもそうではなく、かつての漢方薬同様、効果や適応は伝承や経験による部分が大きい。用法や安全性に関する検証も、十分には行われていない。 聖路加看護大学の鈴木彩加・大久保暢子は、医学中央雑誌におけるアロマテラピーに関する150の論文(1983年 - 2008年6月)の内、精油の種類が記載されていない又は詳細不明のものが20件あり、実験研究は6論文と少なくアロマテラピーの有用性を示すには十分といえないと指摘している。アロマテラピーはランダム化比較試験の実施が極めて難しく(香りがすれば被験者にも分かってしまうため)、また主に医療の補助的手段として用いられるため、単体でははっきりした結果が得られないことも多い。精油の偽装が広く行われているため、臨床研究で使用された精油が100%天然でない、または材料植物が表示と異なる可能性も否定できないなど、評価が難しい面がある。不十分な研究や個人的な経験がエビデンスとして取り上げられることもあり、質の高い臨床研究と、そのための研究デザインの作成、使用される精油の質・材料植物の品種の保証が必要とされている。 医療では、看護師ががん患者や妊産婦に対して、睡眠促進、浮腫の軽減、筋肉の緊張の緩和などの目的で行っている。精油を用いたマッサージや足浴などが、浮腫や不眠等の症状緩和に有効なことは経験的に認められており、活用されていが、エビデンス確立には至っていない。 アロマテラピーの書籍や民間資格でいわれる精油の効能は、ハーブや精油の民間療法の伝承がベースであるものも多く、広く知られた効能でも科学的根拠が存在しない「都市伝説」のようなものもある。古いイギリスの本草書などにあるハーブ療法で、チンキ(水溶性・油溶性成分を含む)やティー(水溶性成分を含む)の形で使われた情報を引用している場合もあるが、精油には水溶性成分が含まれないため、ハーブの効能をそのまま利用することはできない。また、生化学博士のマリア・リス・バルチンは、コモン・ラベンダー(Lavandula angustifolia)やテンジクアオイ属の通称ゼラニウム(Pelargonium graveolens)の精油は、別の植物の効能などが間違えて引用され、情報が混乱していると指摘している。精油販売業者が無根拠な薬効を主張することもあり、世界中で精油の連鎖販売取引(マルチ商法)を行うヤングリヴィングとドテラは、医薬品として認証されていない自社精油を、エボラ出血熱などに治療効果があると主張して販売したとして、2014年にアメリカ合衆国の政府機関・アメリカ食品医薬品局(FDA)から警告を受けている。
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