科学的視点
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/02 07:56 UTC 版)
エニアグラムは霊的探求の試みから、心理学的解釈や心理学の理論との関連付けが行われ、ビジネスや自己啓発、セラピー等の世界に進出した。大衆的エニアグラム理論家たちは効果が科学的に実証されていることを主張しており(例えば鈴木秀子は、20世紀後半以降スタンフォード大学の心理学者を中心に科学的検証が行われ、アメリカを中心に世界各国で科学的検証を経ていると主張している)、彼らの主張の科学的妥当性・有効性が問われている。エニアグラムの考えはある程度の人気を得ているが、エニアグラムは偽科学であり、解釈に左右されるもので、科学的に検証することが困難であるという批判を受けている。「信頼性や妥当性が実証されていない評価方法」との批判もある。科学的懐疑論者のロバート・トッド・キャロルは、「あまりに曖昧で融通が利くので、関連するものは何でも理論に合うように押し込むことができ、テストすることができない」と述べ、疑似科学理論のリストにエニアグラムを含めた。懐疑論者でビジネスコーチのパトリック・バーメレンは、エニアグラムは3つの人格センター、3つのステージの存在を主張するが証拠はなく、9つのタイプの理論付けがどこから来たのか科学的根拠が説明されておらず、支持者たちが、精神医学の診断に役立つ、顧客の理解に役立つ、よりよい経営者になるのに役立つといった強い主張の根拠はない述べている。また、ビッグファイブ性格特性のように現代的でよく研究された、信頼できる有効なツールを採用せず、科学的証拠に欠けるにも関わらずエニアグラムを支持するのは、自身の信念体系と確証バイアスの影響を受けているのではないかと批判的に推測している。 性格論の世界的権威であるオランダの心理学者ウィム・ホフステーは、「エニアグラムはまともな科学的モデルではない。エニアグラムは本格的な科学的モデルではなく、混迷し、急速に変化する「レイ・サイコロジー(直感的な素人心理学)」の分野に属するもので、盛んに金儲けをしているように見える。エニアグラムを扱うオランダ心理学者協会の会員である心理学者は、専門知識に関する職業倫理規定の第III.3条に基づいて苦情を受けるリスクがある。心理学者でない人の場合、もちろんそのような制限は適用されないが。しかし、エニアグラム業界は、科学的な研究者で専門家である私たちの人格についての明細書を作っているが、はっきり言って、それは単にナンセンスである。」と警告している。 アメリカ心理学会などの心理学団体の博士レベルのメンバー101人を対象としたデルファイ投票(英語版)では、エニアグラムは、メンバーの25%以上が人格評価として評価できないと判断した5つの心理療法やテストの中に含まれていた。エニアグラムに詳しい心理学専門家の評価スコアは平均4.14点(第1回調査では3.37点)で、ほぼ「おそらく信用できない」という評価である(3=信用できない可能性がある、4=おそらく信用できない、5=確実に信用できない)。 臨床精神医療における利用を模索する精神科医のブレント・シュニプケと医学生のモーガン・アレクサンダーは、エニアグラムを判断する補助的なテストであるRHETIを、個人のタイプを特定する目的で使用することは、研究目的では統計的に許容されると考察し、客観的な研究では限界があるものの、性格検査に使用される3つの基準、予測的妥当性、実証された有用性、および包括性を満たしているようであると述べている。一方バーメレンは、RHETIテストは、5段階のリッカート尺度を使用しているが、テストが優れた理論的構成要素を示すことを実証しておらず、基準の妥当性などが報告されていない。また、エニアグラム図では9つのタイプは円周上に等間隔で表され、各タイプの連続性を示唆しているにも関わらず、テスト自体は連続的な次元がなく、理論とテストに齟齬があると述べている。 シュニプケとアレクサンダーは、エニアグラムの診断結果が妥当であるかはともかく、人々が、自分自身の強み、弱み、傾向、成長について説得力ある洞察を得たと感じた体験は、有用性の貴重な指標になると評価している。 シュニプケとアレクサンダーは、DSM-5の補遺に収録されている人格障害の代替的モデルは、障害を特定の性質によって特徴づけており、それぞれの健全なレベルと不健全なレベルに注目するもので、エニアグラムと類似していると述べている。ナランホを含む多くのエニアグラム理論家が、エニアグラム各タイプの人が精神的に不健康になった場合に、特定の人格障害の特徴を示すという理論を提案しているが、その正当性を検証する研究はほとんど行われていない。シュニプケとアレクサンダーは、ある種の人格タイプが、特定の人格障害に向かう傾向があるとして、その逆は必ずしも正しくないかもしれないと指摘し、例えば、自己愛性パーソナリティ障害と診断される人が、必ずしもタイプ3のパーソナリティを持つ人であるとは限らないと述べている。 鈴木秀子は、カトリックの神父や神学者がわずか数年で数十万人の性格タイプの分類を試み、3万人は追跡調査まで行い、これにより、すべての人間にの本質には9つのタイプがあり、しかも各タイプの人間の数は世界中どの地域でもほぼ均等に9分の1である、というエニアグラムの公理が証明されていると主張しているが、こうした主張はほかのエニアグラム理論家にもみられない。
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