福島県庁の調査・誘致活動
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「福島第一原子力発電所」の記事における「福島県庁の調査・誘致活動」の解説
この間、福島県庁は東京電力とは別に、独自に原子力発電事業の可能性について調査を実施していた。松坂清作によると、福島県庁が調査研究を始めたのは1958年である。これに先んじて1952年には、当時福島県議であった天野光晴(浜通りの長塚(双葉町)出身)が、福島県庁建て替えの寄付の為に、当時東京電力常務であった木川田一隆(中通りの梁川出身)を訪問した。これにより、天野と木川田が親密になり、東京電力の原子力発電所が長塚に誘致される要因になった。 1958年当時の福島県知事は佐藤善一郎(中通りの福島市出身)であり、天野光晴は福島県議から国会議員に転身し、後に福島県知事に転身する木村守江(浜通りの四倉出身)は当時国会議員であったが、浜通りの夜ノ森周辺の自治体より産業誘致の相談を受け、東京電力社長の木川田に話してみたところ、「原子力発電所が好いのではないか」との回答を得た。しかし、木村が誘致の姿勢を示すと木川田は曖昧な態度を取り、1961年になって木川田の側から用地についての取りまとめを依頼してきたという。当時双葉町長であった田中清太郎によれば、当時、放射能に対するアレルギーは浜通りに無かったものの、発電所建設の下見のため木村や佐藤善一郎(木村守江の前任知事)が視察にやってきた際は目立つハイヤーではなく、ジープを用意してきた。当時の大熊町長・志賀秀正によれば、県の企画開発課から人が来た際にも、風体を山師のように装っていたという。 『福島県史 第18巻』によると外房の沿岸は砂丘地帯が連なり強固な地盤が無かった。このため、立地の適地は関東沿岸を北上し、「東海村近く」の「茨城県北部より宮城県南部の当福島県海岸は、非常に好適地」と見なしている。県庁が実施した調査の結果からは、県内の海岸地帯が(1)小名浜周辺、波立海岸周辺、松川浦周辺を除いて単調、(2)人口希薄、(3)30m程度の断崖になっていた、の3点から適地であると判断し、旧標葉郡の3か所を選定した。 大熊町、双葉町に跨がる地点 双葉町 浪江町 この調査結果は1959年の某日東電の常務会でも田中直治郎より報告され、木川田は買収を前提にお忍びで現地の視察を命じた。また『福島県史 第18巻』によると、浜通りは送電線の建設コストでも北東北の適地よりは有利であった。 また、福島県庁は当初東北電力にも打診したが、当時は奥只見水力発電所の開発が終了したばかりで供給力は過剰気味であったため、乗り気ではなかったという。県庁が提示した調査結果ではいくつか不足の点があったため、東京電力は追加調査を県に依頼した。これを受け1961年に発足したばかりの県開発公社では工業用水調査、航空撮影調査、地質調査などを実施した。1963年には大熊町に原子力発電所を建設する意向が内定した。 これと併行して、福島県庁は1960年5月に日本原子力産業会議に加盟した。知事の佐藤は企画開発部を動員して綿密な科学的調査を実施させた。企画開発部にて調査研究を担当したのは技師職に就いていた酒井信夫(後福島公害防止センター長)だった。当時酒井は次のような方針を立てて調査を実施した。 人間の知識で防止できるものは、最高水準の知識を使う。 人間が考えられる異常な現象をも組み入れて設計すること。 当時酒井の関心も誕生したばかりのBWRの安全性が確保出来るかどうかに向けられており、調査の焦点もそこに絞り込まれた。原子力産業会議に県が参加したのは調査のための情報収集を目的としており、同会議を通じて各国のレポート、政府当局、電力各社の動向などをモニターし、1961年には国際原子力会議にも出席して資料収集を続けた。 なお、県側の情報収集については酒井個人の役割を強調するコメントもあり当時担当した職員の一人は「酒井主査は原子力産業に関する情報を独力でかき集めていました。(中略)庁議にもかけ県首脳部の了解を得て地域開発の一環として東京電力に話を持ち込んだのです。東京電力と話し合いをしましたところ、あそこに水が出るなら、考えてもいいということになったんです。それで開発公社の資金を利用して酒井君に地下を掘らせたんです」と述べている。 福島県庁より正式に誘致を申入れたのは1960年5月であったという。その後佐藤の病死により公示された選挙戦を勝利した木村守江は佐藤の方針を踏襲し、福島県は1961年9月より東京電力と交渉を始めた。9月30日には双葉町議会、10月22日には大熊町議会が誘致を議決した。発電所誘致には両町議会共全員賛成であった。もっとも、恩田勝亘によれば、町議達には東電からの猛烈な接待攻勢がかけられたとしている。
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