環境問題による工事中断
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「南方貨物線」の記事における「環境問題による工事中断」の解説
しかし、南(大府方面)から開始された工事が名古屋市内に進んできた1971年(昭和46年)ごろから、沿線住民たちが南方貨物線の建設を「新幹線公害との複合公害になる」と問題視していた。当該区間は東海道新幹線と並行して敷設される予定だった南区豊田(山崎川付近)から熱田区四番町にかけての区間(約2.9 km)で、これらの地域住民の間では、以前から新幹線の騒音・振動への不満が高まっていたところ、貨物線の騒音に対する懸念や、土地を奪われることへの反発も重なり、公害反対運動が活発化していた。同年4月、名古屋市政懇談会にて「新幹線公害反対運動が行われている地域に新幹線と並行して南方貨物線の建設が進められているが、これが開通すれば、すでに新幹線で被害を受けている生活環境がさらに悪化することは必至である。したがって市として国鉄に対し強く公害対策を要望するように」との意見が出た。この沿線住民の要望を受け、名古屋市は同年5月 - 1972年(昭和47年)5月にかけ、国鉄岐阜工事局長に対し、以下6点を要望した。 列車開通時の騒音・振動対策 工事中の公害対策 沿線住民に対する説明 列車開通時のテレビ障害対策 鋼桁の騒音対策 夜間運行の減少 それらの要望に対し、国鉄は防音壁の設置・ロングレールの使用などといった対策を示したが、1972年7月には名古屋新幹線公害対策同盟の会員が中心となって「南方貨物線公害追放委員会」を結成した。「追放委員会」は国鉄に対し、「南方貨物線の建設を否定するものではないが、沿線住民が納得できる公害対策を要望する」と表明。同年8月、名古屋市長は国鉄本社で担当常務理事に対し、南方貨物線の公害対策について要望した。これに対し、国鉄側は「深夜運行の禁止は実施困難だが、鋼桁橋はコンクリート橋に変更して騒音対策を実施する。その他の騒音・振動対策も実施・努力する」と回答した。 1973年(昭和48年)4月には、名古屋市立明治小学校(南区)にて開かれた住民大会で、「市は南方貨物線問題について、公害防止協定を国鉄との間で締結してほしい」との要望が出されたため、同年7月に名古屋市は国鉄に対し「沿線の生活環境を良好に維持できる公害防止協定の考え方を示すこと」「公害防止協定が締結されるまで、工事を一時中止すること」を要望した。国鉄側は「公害防止協定については全国的な問題であるため、関係方面と打ち合わせに向けて努力するが、工事の一時中止はできない」と回答したが、同月には一部の工事が中止された。名古屋市長は同年9月に再び国鉄本社へ出向き、国鉄総裁に対し「緩衝地帯の設置」「夜間の運行速度の提言」「軌道構造による騒音振動防止」「沿線住民との公害防止協定の締結」を改めて要望した。同年以降、工事は事実上中止され、翌1974年(昭和49年)3月に地元住民から提訴された新幹線の減速・損害賠償請求訴訟のあおりも受けたことで、工事は大幅に遅延。住民による環境対策面での合意が成立するまで、工事は中断された。国鉄側は公害防止対策・環境保全対策に加え、いったん提出した土地収用法に基づく事業認定の申請を取り下げるなどの措置を講じたが、地元住民の理解を得るには至らず、用地買収なども著しく難航した。 結局、工事が凍結されていた笠寺 - 八田貨物駅間の工事は、裁判闘争も踏まえながら、国鉄が名古屋市と環境対策について交渉を続けた。その後、国鉄は名古屋市および「公害追放委員会」と公害防止協定の締結に向けて議論したが、具体的な進展がなかったため、それに代わる措置として、名古屋市が国鉄に対し環境アセスメントの実施を求めた。国鉄もこれに応じ、名古屋市が開発・指導した新型の防音壁を採用したところ、大幅な騒音低減効果が得られたため、1979年(昭和54年)暮れには環境対策で住民らとの和解が成立。1980年(昭和55年)1月には国鉄から名古屋市長宛てのアセスメント書が提出され、同年2月から工事が再開された。名古屋市公害対策局 (1982) はこのような経緯で建設再開の合意に至った南方貨物線の事例について、「(沿線の)住民、国鉄、地方公共団体が三位一体となって(住民合意に向けて)努力した成果であり、全国的に見てもめずらしいケース」と述べている。 また、同年10月には八田貨物駅(建設期間約12年・総工費約300億円)が「名古屋貨物ターミナル駅」として開業。名古屋鉄道管理局は1981年(昭和56年)に発表した『PLAN80』で、名古屋貨物ターミナル駅をコンテナ基地・笹島駅を車扱貨物基地として位置付けると同時に、南方貨物線を「名古屋圏での貨客分離を実現する機関ルートとして、早期竣工する」と表明し、名古屋・衣浦の両臨海鉄道と南方貨物線を直結する輸送体系の確立も求めていた。
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