りゅうこう‐びょう〔リウカウビヤウ〕【流行病】
流行病
風土病 1は、人口の相当多くの部分に恒久的に影響を及ぼすものであるのに対して、流行病 2はかなり短期間に広がり、そして消滅するものである。流行病が多くの国に発生した場合は世界的流行病 3と呼ばれる。ある種の感染症 4あるいは伝染病 4は、比較的短期間に多くの人に感染するために特別の注意が払われている。このような場合は流行病 5といわれ、その発生率を調べるために特別な疫学統計 6が作成されている。これらの病気についてはその報告が法律によって義務づけられている国が多いため、色々な国でその情報を集めることが可能である。したがって、それらは届出伝染病 7と呼ばれている。慢性病 8と急性病 9の区別がなされることもある。これらの用語に明確な定義はないが、急性病は一般に突然発症し罹患期間が短いと理解されているのに対して、慢性病は緩やかに発症し罹患期間も長く、しばしば長期の障害の原因となる。
- 2. 流行病epidemic(名):形容詞としても使われる。
- 4. 感染症のinfectious(形);感染させるinfect(動);感染症infection(名)。伝染病communicable diseases, contagious diseasesおよび感染症infectious diseasesは同義語ではない。英語のcontagious diseaseは人から人に伝染する場合に限られ、したがってマラリアは伝染病communicable diseaseであるがcontagious diseaseではない。さらに、一定の感染症infectious diseaseは伝染病communicable diseaseではない。
- 6. 疫学epidemiology(名):流行病を扱う科学;疫学者epidemiologist(名):疫学の専門家;疫学のepidemiological(形):疫学に関すること。これらの用語の意味は現在大幅に拡大し、今日の疫学は生物学的または医学的現象と、たとえば“肺がんの疫学”におけるタバコの喫煙のような様々な要因との関係の研究、あるいは保健衛生に関する地域差の統計的分析といった分野も含んでいる。
疫病
(流行病 から転送)
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/12/29 02:29 UTC 版)
疫病(えきびょう、やくびょう)とは、集団発生する伝染病・流行のこと。
概要
日本の歴史上、疫病として流行したと考えられているものに、痘瘡(天然痘)・麻疹(はしか)・赤痢・コレラ・インフルエンザ・癩・結核・梅毒・コロナウイルスなどがあげられる。こうした病気は元々特定の地域の風土病であったが、文明・文化・社会の発展と異世界との交流拡大による人や文物の往来に伴い、これまで同種の病が存在しなかった地域にも伝播し、中には世界的に流行するようになったと考えられている。例えば、コレラは日本では19世紀に初めて発症したとされ、それ以前には存在しなかったとされている。
『日本書紀』には崇神天皇の時代に疾疫が流行し人口の半数が失われてていたこと[1]と亀卜と沐浴斎戒を経て神託を得て大物主大神を祭ることで疫病が止み民が栄えたこと[2]が記され、『倭名類聚抄』には“疫”の字の意味について「民が皆病むなり」とある。
前近代においては疫病の原因として、荒振る神・疫神(疫病神)・疫鬼・怨霊の仕業とか仏罰・神罰によるものであるという超自然的なものに原因を求める考え方が一般的であり、平安時代ごろから全国で疫病の終息の願う加持祈祷や各種祭礼(鎮花祭・道饗祭・四角四境祭・鬼気祭・疫神祭・御霊会など)が行われていた[3]。現代でも疫病に関わる民俗・風習が各地に残っている。
一方、漢方医学の分野では天地の気の乱れや陰陽不順による邪気・寒気・悪気が毛穴や口鼻を通じて体内に侵入して生じると考えられ、鍼灸や薬によって体内の陰陽のバランスを回復させることに主眼が置かれていた。疫病の原因がはっきりとするのは19世紀後期(日本では幕末から明治)に細菌学が進歩した後のことであったが、江戸時代には病気が病人から伝染することが漢方医の間でも知られており、香月牛山の『国字医叢』の中にも中国大陸から今まで知られていなかった病気が日本に伝わってきたことや病が伝染するものであることが記されている。
政治的には朝廷が典薬寮の勘申を受けた太政官符や幕府医官の意見を受けた江戸幕府の御触書(時疫御触書)を出して、薬療・食療による治療が奨励された。
明治政府が内務省・厚生省を中心として公衆衛生の強化を図ったことで疫病の流行が減少し、神事なども行われなくなった[3]。
人類のグローバルな活動で病原体が拡散し続けていることから、疫病は今も人類への脅威であり続けているといえる。
病原体の発見
感染症のうち細菌が引き起こすものについては、19世紀後半から20世紀初頭にかけての時期に病原菌の多くが発見されている[4]。
病名 | 発見年 | 病原菌発見者 |
---|---|---|
ハンセン病 | 1875年 | アルマウェル・ハンセン(ノルウェー) |
マラリア | 1880年 | シャルル・ルイ・アルフォンス・ラヴラン(フランス) |
腸チフス | 1880年 | カール・エーベルト(ドイツ) |
結核 | 1882年 | ロベルト・コッホ(ドイツ) |
コレラ | 1883年 | ロベルト・コッホ(ドイツ) |
破傷風 | 1884年 | 北里柴三郎(日本)、アルトゥール・ニコライエル(ドイツ) |
ブルセラ症 | 1887年 | デビッド・ブルース(イギリス) |
ペスト | 1894年 | 北里柴三郎(日本)、アレクサンドル・イェルサン(フランス) |
赤痢 | 1898年 | 志賀潔(日本) |
梅毒 | 1905年 | フリッツ・シャウディン(ドイツ) |
百日咳 | 1906年 | ジュール・ボルデ(フランス) |
発疹チフス | 1909年 | シャルル・ジュール・アンリ・ニコル(フランス) |
一方、ウイルスについては理解が遅れ、存在は知られるようになったのは19世紀末から、その正体が明らかになるのは20世紀中葉になってからである。新型インフルエンザやCOVID-19のように新たに出現する疫病(新興感染症)も存在し、これからも発見が続くものと考えられる。
脚注
参考文献
- 杉田暉道「疫病」(『国史大辞典 2』(吉川弘文館、1980年) ISBN 978-4-642-00502-9)
- 立川昭二「疫病」(『日本史大事典 1』(平凡社、1992年) ISBN 978-4-582-13101-7)
- 新村拓「疫病」(『日本歴史大事典 1』(小学館、2001年) ISBN 978-4-095-23001-6)
- 蔵持不三也『ペストの文化誌-ヨーロッパの民衆と疫病-』朝日新聞社<朝日選書>、1995年8月。ISBN 4-02-259633-3
関連項目
「流行病」の例文・使い方・用例・文例
- 不潔にすると流行病などが起こる
- 流行病が市の大部分を冒している
- 流行病が多くの命を取る
- 流行病蔓延の兆あるによって警視庁においては警戒中なり
- この流行病は軍隊に多い
- 流行病蔓延の虞れあり
- 流行病蔓延の虞れあれば警戒す
- 流行病が発生する
- 流行病が蔓延する
- 流行病を撲滅する
- 流行病にかかる
- 流行病で人が死ぬ
- 流行病の予防策を講ずる、予防策を施す
- 流行病の予防策として下水工事を起こした
- 動物間流行病
- 広い地理的な領域にわたる流行病
- 流行病を蔓延させ、引き起こす可能性のある
- 流行病の感染と抑制を研究する医学者
流行病と同じ種類の言葉
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