氷河・氷床
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/12/03 14:10 UTC 版)
氷河と氷床は密で硬い陸地にもたれた形で存在する、流れる氷の塊である。これらは雪の涵養、表面部と底部の融解、周りを囲む海洋や湖への氷山分離、そして内部動力学によって調節される。氷河は氷体内部で重力によって引き起こされるクリープ流(「氷の流動」)と氷河の下にある陸地への滑動によって生じ、その滑動は氷河を薄くし水平方向に広げることにつながる。質量の増加・減少と流動による移動との間に関するこの力学的不均衡は何であれ、氷体の成長あるいは萎縮を生む。 氷床は世界で最も大きな淡水の源になりうるものであり、世界の淡水の全量のおよそ77%を占める。これは世界中の海洋の深さ80m分に相当し、全体の90%は南極大陸が、残り10%の大部分はグリーンランドが占め、その他の氷体や氷河は0.5%も占めていない。1年で雪が積もるあるいは融ける速度に関連して、氷河の大きさゆえに氷床に水が留まる時間は10~100万年にも及ぶ。その結果、気候の摂動はゆっくりとした応答反応を示し、氷期・間氷期の時間規模で起こる。一方谷氷河は気候変動に対して10~50年というごく普通の時間間隔で素早く反応する。しかしながら、個々の氷河の反応は、それぞれの長さ、高度、勾配、移動速度の違いのために同じ気候的外力に対しても同時に反応するわけではない。オールレマン(1994)は100年に0.66 ℃の割合で直線的に気温上昇する温暖化によって説明されうる、世界規模の氷河の後退に関する明瞭な証拠を示した。 氷河の変化は世界の気候に最小限の影響しか与えない傾向がある一方で、氷河の後退は20世紀に観測された海面上昇に2分の1から3分の1程度寄与している。さらに、氷河湖からの流水を灌漑や水力発電に利用している北アメリカのコルディレラ山系西部で観測されているような氷河の後退の広がりは、重要な水文学的・生態学的衝撃を伴う可能性が極めて大きい。そのような地域での水資源の効果的な利用計画と衝撃緩和は、氷河の氷の状態やその変化を引き起こすメカニズムに関する高度な知識をどれだけ発達させられるかによる。また、進行中のメカニズムの明快な理解は、氷河の質量収支の記録の時系列に含まれる世界規模での変化の信号をとらえるのに極めて重要である。 巨大な氷床の氷河の質量収支の総合推定は20%ほどがはっきりしていない。降雪と質量流出の推定に基づいた研究は、氷床は均衡がほぼ保たれているかあるいはいくらかの水を海洋から受け取っていることを指摘する傾向がある。棚氷の研究 によって、南極大陸による海面上昇あるいは氷床底部の急速な融解が示唆されている。 著者によっては、観測された海面上昇速度(およそ2 mm/年)と、山岳氷河の融解、海洋の熱拡散などによる海面上昇速度の理論値(およそ1 mm/年またはそれ以下)の違いは、南極大陸のモデル化された不均衡(およそ1 mm/年の海面上昇)(ハイブレクス 1990)と類似していると提唱し、南極大陸による海面上昇への寄与を示唆している人もいる。(パターソン 1993; アレー 1997) 世界の気候と氷の面積範囲との関係は複雑である。地表の氷河や氷床の質量収支は、おもに冬に生じる雪の涵養と、おもに暖候季に生じる、正味放射と(暖気移流によって強まった)乱流熱フラックスによる氷や雪の融解を主な原因とした消耗(ablation)とによって決まる(マンロー 1990)。しかし、南極大陸の大部分は表面融解が決して起こらない 。海洋で氷の質量が消滅するところでは、氷山分離が質量損失の主要な要因である。この状況下では、ロス海のように氷の縁の部分が浮いている棚氷として深水域に向かって広がってゆく。地球温暖化がグリーンランド氷床の減少を生じさせたという可能性が南極氷床の増加によって相殺されるにもかかわらず 、西南極氷床の崩壊の可能性が主に心配されている。これは、西南極氷床は海面下の岩盤上に築かれていて、その崩壊は数百年のうちに世界中の海面を6~7m上昇させる可能性があるためである。 西南極氷床の流出の大部分は、ロス棚氷に流れる5つの主要な氷流(より速く流れる氷)、ウェッデル海のフィルヒナー・ロンネ棚氷に流れるラットフォード氷流、アムンセン棚氷に流れるシュワイツ氷河やパイン島氷河を介している。データが足りないというのが主な原因でこれらの氷流システムの現在の質量収支に関しては意見が統一されていない(ベントレー 1983, 1985)。西南極氷河はロス棚氷が側面の境界の横方向の引張応力によって圧迫されたり局所的な海底への接触により押さえられたりする限り安定している。
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