様々な近代戦争
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アメリカの南北戦争を舞台にした作品ではスティーヴン・クレイン『赤い武功章』や、看護師として従軍したウォルト・ホイットマンの詩集『軍鼓の響き』(1865)などがある。普仏戦争において国民兵を志願したアルフォンス・ドーデは『月曜物語』で、戦争下のパリとアルザス地方の人々を描き、その中の「最後の授業」はよく知られる。エミール・ゾラを中心とした自然主義文学のグループは1880年に普仏戦争を題材とした小説集『メダンの夕べ』を刊行し、ゾラの「水車小屋攻撃」、召集されて従軍したギ・ド・モーパッサンの「脂肪の塊」、ユイスマンスの「背嚢を背負って」などが掲載された。ゾラは『ルーゴン・マッカール叢書』の中の長編の一つとして、戦争の実態と社会全体を描く『壊滅』も執筆し、モーパッサンも風刺的、反戦的な短編を書いた。またクリミア戦争将校の父を持ち自身も露土戦争に兵士として参加したフセーヴォロド・ガルシンには、兵卒としての経験に基づく作品として、野戦病院で書き上げた『四日間』(1877)や、『一兵卒イヴォーノフの回想より』(1883)などがある。イタリア統一戦争を背景に没落してゆくシチリア島の貴族を描いた、ジュゼッペ・トマージ・ディ・ランペドゥーサの死後発表された『山猫』(1958)は、世界的ベストセラーとして知られる。 アルゼンチンとウルグアイの抗争の中で、弾圧に抗して独裁政権と戦うガウチョやインディオの戦いを描いた、ホセ・エルナンデスや、アルゼンチン・ブラジル戦争などにも参加したイラリオ・アスカスビらのガウチョ詩人がいた。アレッホ・カルペンティエール『この世の王国』(1949)はハイチ革命にいたる戦乱を魔術的リアリズムで描いた作品で、同じ舞台でトゥーサン・ルーヴェルチュールを描いたアンナ・ゼーガース『ハイチの宴』(1949)や、メキシコ革命の戦乱を舞台にしたカルロス・フエンテス『おいぼれグリンゴ』(1985)などもある。 日本では、明治期には政治小説が流行し、その中で国権拡張や北進論、南進論などに基づく海外雄飛を主眼としたものには西欧列強との武力衝突を含むものもあり、東海散士『佳人之奇遇』(1885-88)ではアメリカ独立戦争やエジプトのアラービー=パシャの乱など各国様々な独立運動について論じ、矢野龍渓『浮城物語』(1890)はインドネシアの独立戦争を題材にしている。台湾出兵については中村地平『長耳国漂流記』(1941)、第二次台湾出兵については西川満『台湾縦貫鉄道』(1979)が書かれる。日清戦争では従軍記者であった国木田独歩のルポタージュ『愛弟通信』は世に知られ、朝鮮での戦闘を描く遅塚麗水『陣中日記』(1894)、戦争の不条理を描いた川上眉山『大村少尉』(1896)がある。米比戦争におけるフィリピン援助を目的として、山田美妙は独立運動家エミリオ・アギナルドを描く『あぎなるど』(1902)を発表した。 日露戦争では、桜井忠温が体験を元にした『肉弾』、日本海海戦を詳細に再現した水野広徳『此の一戦』(1911)が大きな影響を与えた。女性の視点による詩として与謝野晶子『君死にたまふことなかれ』、大塚楠緒子「お百度詣」が書かれ、反戦的との批判も受けた。田山花袋「一兵卒」は、従軍医としての体験に基づく自然主義的描写により兵士の悲惨さを描く。木下尚江の政治小説『火の柱』(1904)は、日露戦争の開戦に向かっていく政財界を批判した反戦小説となっている。この戦争で英雄となった東郷平八郎や乃木希典などの伝記も数多く作られ、乃木の元で参謀として参戦していた津野田是重『斜陽と鉄血』(1926)は、陣中の乃木の姿を描いて、漢詩「山川草木転荒涼」の作られた時の情景も記されている。また敵将として著名だったステパン・マカロフの戦死にも石川啄木が「マカロフ提督追悼」の詩を発表した。またC・W・ニコルはこの時代の海軍の人々を描く『盟約』(1999)を書いている。 明治時代の講談の流行の中では、新聞講談、正史講談と称して、明治維新や西南戦争を読むことも行われ、大和魂を養うために講談を推奨する論調も生まれて、日清戦争、日露戦争などを読んで高い評価を得た美当一調などがいた。
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