斜陽期
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/05/09 06:19 UTC 版)
各「シュプール号」ともダイヤが過密な路線における設定であり、さらに新宿駅など主要駅では発着駅の異なるシュプール号相互で乗り換えができるよう発着時間をそろえるといったサービスを図った結果、ダイヤ設定に無理が生ずることとなった。このため、時刻表において見かけ上は首都圏(山手貨物線・高崎線・中央本線沿線)もしくは京阪神近郊の主要駅とスキー場最寄駅間で直結となってはいても、実際は復路の列車を中心に定期特急などの待避や長時間の運転停車、さらには普通列車とほとんど変わらないような運転時分となった列車がほとんどで、安いが遅いというイメージが口コミなどで徐々に浸透し、利用を敬遠する層を生む結果も招くこととなった。 例えば上り「シュプール白馬」2号は定期特急列車の待避が4回もあり「あずさ」と比較すると白馬駅 - 新宿駅間で3時間近くも余計にかかっていた。下り「シュプール白馬」も急行「アルプス」(のちの快速「ムーンライト信州」)と近接したダイヤで運行され、定期・臨時あわせて最大で3本もの「アルプス」の待避を行うというダイヤ設定であったため、スキー客が「アルプス」に集中し、結果として「アルプス」の乗車率は満席に近い状態でありながら、「シュプール白馬」・「アルペン」は閑散、という日もあった。 首都圏からの発着では、1991年(平成3年)に東北・上越新幹線の東京駅延伸により東海道本線・中央線快速などからの乗り継ぎの利便性が向上するとともに、JR東日本がガーラ湯沢スキー場を開設したことから、同年から「JR ski ski」キャンペーンを展開。新幹線沿線にスキー場が点在するJR東日本では新幹線によるスキー客輸送強化に傾倒することとなり、やがて「ガーラ日帰りきっぷ」(2011年度で販売終了)など日帰りの往復新幹線とリフト券がセットされた特別企画乗車券も多種発売されるようになった。また、一部のシュプール号は線区によって普通列車扱いのため、期間によっては青春18きっぷの利用ができる夜行快速に取って代わられた。 しかし、こういった鉄道側の原因以上に大きかったのは、スキーブーム絶頂期から終息後の平成不況期にかけて普及したスキーバス(ツアーバス)の台頭である。旅客にとってはスキー場へ直行するため乗り換えの煩わしさがなく、バス事業者にとっては列車よりも少ない人数で採算が取れる上に同業者間の価格競争によりバス料金(運賃相当)に弾力性があることで、各旅行会社はより多くの集客と利益が期待できるスキーバスとリフト券等をセットにしたパックツアーをこぞって企画するようになり、可処分所得の少ない若者に支持されるようになる。それに反比例するかのようにツアーバスに対して1人当たりの運賃が高く、新幹線よりも速達性に劣るシュプール号を使った旅行商品の取り扱いは減っていった。 スキーの足としての自家用自動車の傾向は、1980年代は「赤いファミリア」に代表されるホットハッチとスペシャルティカー、1990年代は、積載性に優れたステーションワゴンや、雪道に強い四輪駆動車を中心としたRVブームの真っ只中であり、国産車メーカーから購買意欲を刺激する商品が相次いで登場したことで、重い荷物を持ち歩く必要もなく、機動性も高い自家用車でスキー場に向かう利用者が増えるようになった(これが酷い渋滞の原因でもあった)。さらに、長野オリンピックに合わせて上信越自動車道など志賀高原・妙高方面の高速道路が次々と整備された結果、交通手段が鉄道から相乗りすることで廉価となる自動車へ徐々にシフトするようになった。これに加えてスキーブーム終焉によるスキー人口の減少が続いたこと、シュプール号に使用されていた車両が老朽化で引退するようになったことから、「シュプール号」の運行本数も削減の一途をたどるようになった。 このような外的環境の変化を受け、上述のとおり新幹線によるスキー客輸送強化に傾倒していた東日本は2001年(平成13年)度を最後に運行を終了。JR東海やJR九州も各種「シュプール号」の運行を取りやめ、JR西日本だけが「シュプール号」の運行を継続したが、2005年(平成17年)度シーズンをもって利用客の減少を理由に運行を終了した。なお、北陸新幹線の金沢延伸開業後は新幹線と特急サンダーバードを組み合わせたスキー客輸送の強化に取り組んでいる。 2018年(平成30年)現在でスキー客向けに運行される臨時列車は東武鉄道が運行する「スノーパル23:55」のみである。
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