作品評価について
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/08/22 08:41 UTC 版)
「一条さゆり 濡れた欲情」の記事における「作品評価について」の解説
佐藤忠男は「一条さゆり 濡れた欲情」は、一条さゆりを冠した題名であるのにも関わらず、別人が主役で一条さゆり自身は脇役であることについて、いくぶんインチキめいている点があることを認めながら、映画自体は観念的な主題、表現に頼らないきめが細かい性格、人間描写があり、のびやかさ、そして円熟味が感じられると評価している。また神代辰巳の映画監督としての風俗を描く力量を高く評価し、映画中の一見、くだらないと思われる描写の中に「まぎれもない詩の一編があるのであり、生活への愛がある」としている。田中小実昌は主演の伊佐山ひろ子、そして一条さゆり、白川和子が使う言葉使いや、ストリッパーのヒモ役である粟津號、高橋明の演技のリアリティーの高さを認め、神代辰巳がストリップを研究したというよりも、その世界に沈み込んで作った作品であるとした。更に田中は伊佐山ひろ子を「もうじんじんいい」と絶賛し、一条さゆりをかわいい女、良い女にしていない点を評価した。 映画評論家の田山力哉は、一条さゆりが演じるストリップ舞台の熱量の高さを評価するとともに、主演の伊佐山ひろ子が見せるしたたかな生命力、そしてチャーミングでかわいらしい反面、意地悪かつ悪魔的、策士的でもあるといった女性の様々な要素を、巧まずして表現していると絶賛している。またやはり映画評論家の浅野潜は、佐藤忠男と同じく、題名から受ける印象とは異なり、一条さゆり自身が主役ではない点については、一条さゆりの知名度を利用した宣伝的なものであるとした上で、やはり一条さゆりが演じるストリップ舞台における「肉の歓喜」の描写を評価し、悲惨な過去などといった感情に頼ることなく、一人の女の高らかな賛歌を描き出しているとしている。そして浅野は主演の伊佐山ひろ子の演技を通して、セックスとは生活器官であり、いわば人間の顔のように予め与えられているものであるとの主題を追求しているとする。片岡修二もまた、一条さゆりを目標とする若きストリッパーを演じた伊佐山ひろ子のしたたかに生きる姿、小悪魔的な魅力を指摘している。 上野昻志は、神代辰巳監督の登場人物は男女とも「懲りることを知らない」として、その一例として「一条さゆり 濡れた欲情」の伊佐山ひろ子を挙げている。そして神代本人も懲りることを知らない人物であり、そこに神代辰巳の作家性の特徴があると見ている。北川れい子は、「一条さゆり 濡れた欲情」のストリッパーたちは過去も未来も無く、自らの肉体を武器としてひたすら性を生き続ける存在であるとする。押川義行は、映画上の一条さゆりは執念の赴くままに体を張って生きる女であり、風俗の中の女性像ではなく、一条さゆりという女性の中に生まれた風俗を描き出していると評価している。 佐藤重臣は「一条さゆり 濡れた欲情」が構成がしっかりとした映画であると評価した上で、映画中のストリッパーのヒモの演技は、世の中を良くする、世の中を変えていこうといった啓蒙的なものとは異なる、人生のガラクタをいっぱいに詰め込んだ、何か重みが感じられるものであり、それはまた神代自身の姿の投影でもあり、斜陽期に入った日本映画そのものの投影でもあると見なした。前述の田中小実昌からの評価にもあったように、ストリッパーのヒモ役である粟津號、高橋明の演技についての評価は高い。ロマンポルノ路線転向以前から日活に所属していた高橋明は、大部屋に所属してヤクザの子分や斬られ役、撃たれ役ばかりであったものが、ロマンポルノでは準主役級をこなすようになった。日活で同僚であった人物からは 高橋明の大胆な演技には目を見張らせるものがあった。彼が片足をひきながら大きな衣裳ケースをかついで阪神野田駅のホームに現れた時、私は思わず涙がこぼれそうになった。それまで私が現場でつき合ったことがある大部屋時代の彼からは思いもよらない存在感がそこにはあった。 と評価された。また、ロマンポルノ以前は大部屋でうだつが上がらず、虐げられてきた俳優さんたちの顔が生きてくるとも評価され、神代自身も「鬱積した良さが画面に出てきた」と述べている。 そして「一条さゆり 濡れた欲情」について、多くの論者が指摘するのが「反権力」である。映画内で刑事たちは滑稽な存在として揶揄されている。田山力哉は「神代はあくまで一条に仮託して、自らの内部に燃える激烈な怒りを、映像に結晶させようとしたに違いない」と論評し、佐藤忠男もまた、「この映画は一条さゆりの逮捕と起訴に対する作者たちの抗議の意志表示である」としている。蓮實重彦は「裸身を商品として生きざるをえない踊り子たちの日々の闘いを擁護するそのいくぶんかアナーキーな姿勢」と捉えた。 1996年のロッテルダム国際映画祭において神代辰巳特集が組まれ、神代監督の日活ロマンポルノ作品が上映された。上映作品の中で「一条さゆり 濡れた欲情」の人気が一番高かった。
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