承諾しなかった理由
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/03 14:49 UTC 版)
緊急勅令108本のうち承諾案件とされたものは95本であり、うち不承諾(すべて衆議院)が9本である。この数字だけみて議会が緊急勅令をどのように扱ったかを論じるのは、大日本帝国憲法のもと緊急勅令が制定されたのは、60年近い期間にわたっており、その間、政府と議会との関係もさまざま変化しており、当然ながら各勅令毎の内容に対する賛否が検討されていることから意味のないことである。以下は承諾されなかった理由等について議会会議録において確認できることを個別に記することにする。 1 新聞雑誌又ハ文書図書ニ関スル件(明治24年勅令第46号) 大津事件に際し、事前検閲を行うため制定された。内容的に内務大臣が特に命令を発して事前検閲を行うことができるとするもので、新聞紙雑誌文書図画ニ外交上ニ係ル事件ヲ記載セントスル者ハ草案ノ検閲ヲ受ケシム(明治24年5月17日内務省令第4号)により検閲が実施された。この検閲は明治24年5月28日内務省令第6号により解除され、以後は実施されなかった。従って承諾案件として提出されたときにはすでに適用がされていない状態であり、承諾しない理由として「もはや存続する必要がない」となっている。 2 朝鮮国ニ渡航禁止ニ関スル件(明治27年勅令第135号) 日清戦争開戦に伴い朝鮮への渡航について許可制を行うため制定され、広島で開会された第7回帝国議会で承諾が求められた。衆議院での不承諾は「存続する必要がない」となっていたが、委員長報告のなかの議論では正当な渡航の妨げになるという主張もされていた。 3 朝鮮国ニ渡航禁止ニ関スル件(明治28年勅令第144号) 不承諾になった明治27年勅令第135号と同じ内容のため反発は強かった。衆議院での不承諾は「第7回議会で不承諾としたもの再度の制定であり適当ではない。効がないだけではなく有害である」という強いものであった。 4 衆議院議員選挙取締罰則ニ関スル件(明治31年勅令第170号) 議員選挙に際して、銃砲、刀剣等の人を殺傷背べき物件の携帯を禁止した明治31年勅令第21号(議員選挙ニ就キ人ヲ殺傷スヘキ物件携帯禁止ノ件)が失効した日にその内容に加えて、買収の禁止などが追加したものである。 衆議院における表決は、審査特別委員会で1票で承諾しないとなり、本会議においても同じ結論になった。承諾しないとする意見は、同様の内容が審議中の衆議院議員選挙法の改正に盛り込まれており、内容が重複するので存続させる必要はないとするものであった。 5 府県、郡会議員選挙罰則ニ関スル件(明治32年勅令第377号) 内容は、衆議院議員選挙取締罰則ニ関スル件(明治31年勅令第170号)とほぼ同じ内容を地方議会選挙に適用するもの。衆議院審査特別委員会では5対3で承諾を与えるとすべしというものであったが衆議院本会議での採決では無記名投票結果、125対149で承諾しないとなった。 委員会の少数者報告(承諾しないとの意見)を行った山田武議員は、承諾しない理由として イ すでに衆議院で可決し貴族院で審議中の選挙法改正と内容が重複すること ロ 既存の法律と二重になる規定があることをあげている。 また、討論にたった花井卓蔵議員は、承諾すべきではないという意見として山田議員の理由に加えて「緊急勅令は承諾しないことを慣例を開きたい」との主張を行っている。「非常命令は議会の立法権を制約するものであり、議会は常に否決しもし必要があるなら新たな立法を議会がすべき」との主張をしている。これはその後の歴史をみると議会の慣例とはなっていないが、その後の災害地地租延納ニ関スル件(明治36年勅令第8号)及び朝鮮ニ施行スヘキ法令ニ関スル件(明治43年勅令第324号)についての議会の対応はこれにそったと思われることがあり一定の支持があったことをうかがわさせる。 6 災害地地租延納ニ関スル件(明治36年勅令第8号) 前年の議会に同様の法案が提出されたが衆議院解散で審議未了となったものを緊急勅令で制定。災害により収穫が皆無となり、地租を納付する資力がなく納付困難と認められた場合に3年の延納を認めるもの。衆議院において「資力の判断は困難である。収穫皆無の場合に免除を認める法案の通過させている」として全会一致で不承諾となった。なお衆議院で可決された「災害地地租免除ニ関スル法律案」は貴族院で「災害地地租延納ニ関スル法律案」に修正された。免除でなく延納という点では勅令と同じ内容であるが、無資力の限定はなかった。衆議院は、「貴族院の修正には到底満足はできないが、すでに貴族院は散会しており両院協議会を開くこともできない。緊急勅令は不承諾としており、同意しない場合は延納もなくなる。勅令にくらべ未資力者限定がない点はまさっている」(藤沢議員の討論)として貴族院の修正に同意した。 7 朝鮮ニ施行スヘキ法令ニ関スル件(明治43年勅令第324号) 韓国併合に伴い、朝鮮においては朝鮮総督の制定する制令で法律事項を定めることができるとするもの。衆議院は、このような立法委任そのものにを緊急勅令ではなく通常の法律にすべきであるとして「朝鮮ニ施行スヘキ法令ニ関スル法律」を可決し、これが貴族院で可決され成立したのち緊急勅令を全会一致で不承諾とした。 8 臨時物資供給令(大正12年勅令第420号) 9 臨時物資供給特別会計令(大正12年勅令第421号) 臨時物資供給令及び臨時物資供給特別会計令は、いずれも関東大震災に際して制定された。 震災に際して米穀以外の生活必需品及び復旧物資の供給の円滑化のため政府が物資の買い入れ販売を行うことができるとするもので、そのための特別会計も設立するもの。制定の趣旨は妥当だがすでに必要なしとして不承諾となった。 10 不承諾でなく審議未了であるが、衆議院解散のような事情がないのに積極的に審議がされなかったものとして、穀類収用令(大正7年勅令第324号)がある。これは米価の高騰により発生した米騒動に対応するため、穀類について強制的に収用し政府の決定した価格で買い上げるとするもの。 大正8年2月20日に衆議院で承諾され、貴族院では、3月21日に委員会で質疑があったが、そのまま会期末の3月26日で審議未了となった。
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