戦時設計の手法
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/08 06:17 UTC 版)
資材節約、材料の代替、工数削減等がある。通常の設計では機能、性能を実現する手段として設計作業が行われるが、戦時設計ではあらかじめ決められた機能、性能を維持しつつどこまで資材節約、材料の代替、工数削減等出来るかに主眼がおかれ、品質、性能の低下が許容範囲内に収まるように考慮される。通常、産業革命を経験した工業立国では、供給材料や汎用部品の厳密な品質基準を定めた工業規格が制定されているが、資材レベルではこの工業規格の一部または大部分を簡略化する事により使用資材の節減が図られる。日本では大正時代に日本産業規格(JIS)の前身である日本標準規格(旧JES)が制定されていたが、1939年から1945年に掛けて、規格が要求する品質を下げて物資の有効利用をはかること、および、制定手続を簡素化して規格の制定を促進すること、という狙いで臨時規格または戦時規格とも呼ばれる臨時日本標準規格(臨JES)が制定されていた。 鉄道車両については、戦後の物資不足、技術力の低下と旅客需要の増大の影響を受け、戦後3 - 4年程度の間、戦時設計と同等、あるいは戦時設計にも劣る低品質の車両が製造されているが、そのような車両でも戦後に設計されたものについては、「規格型(形)」、「標準型(形)」と呼ばれこそすれ、「戦時設計」とはいわない。このような設計思想で製造された車両でも、復興が進み、物資供給が安定化した1950年代以降、原設計どおりに各部の更新また改良が進められ、その後も永く使われたものが多い。例として溶接構造による船底型炭水車や菱形台車がある。 銃や大砲をはじめとする兵器は、戦時設計とはいえど極度に品質を低下させれば砲身破裂や脱底(砲尾が吹き飛ぶ事)などにより、自軍兵士を徒に死傷させる事態につながりかねないので、通常は脚や極度に遠距離を照準可能な照尺など、製造に手間のかかる割には余り利用頻度の高くない装備を省略または簡略化したり、木材を大量に消費する銃床やグリップを小型化・省略したり金属製や樹脂製に変更する、金属部の黒染処理(ブルーイング)やパーカライジングなどの表面処理を防錆塗装のみで済ませる、削り出し加工や鍛造で製造していた部品をプレス加工やインベストメント鋳造に切り替えるなどの量産に適した設計変更や製造体制の変更が採られる。しかし、いよいよ敗色が濃くなり本土決戦などの破滅的な事態が迫ってくると、軍制式兵器であっても本来であれば十分な強度を確保しなければならない薬室や砲身などの部位に至るまで、厚みを薄くしたり鋼を鋳鉄に置き換えるなど極度に使用資材を減少させたり、金属部の防錆処理はおろか焼入れ処理すらも省略するなど製造工程を極度に簡略化したモデル(最末期型や終末型と呼ばれ、米国ではこうしたモデルをlast-ditch Modelとも呼ぶ)が登場してくる。その際の国家体制が無降伏主義をベースとし、国民全てが全滅するまで戦い続ける事を指向していた場合、前述の制式兵器の品質劣化と並行して、国民全てが簡易に武装する為の極端に構造が単純な兵器の設計・製造も行われるようになる。 戦時下の社会では銅や真鍮、ニッケル、アルミニウムなどの金属が兵器へと転用される為、平時から国家が軍用資材の隠れた貯蔵庫として活用しやすい硬貨が回収されて紙幣に切りかえられたり、鉛やスズ、果ては陶器のものに置き換えられたりする。また、日用品でもZIPPOライターやハクキンカイロのような真鍮を多用する製品が軟鉄やステンレスに材質が変更され、戦後になって戦中モデルとしてコレクターの間で珍重される例も少なくない。
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