双対基底
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/10/15 10:14 UTC 版)
数学の線型代数学において、体 F 上のベクトル空間 V とその基底 B = {vi}i ∈ I が与えられたとき、その双対集合(そうついしゅうごう、英: dual set)とは、(代数的)双対空間V* ≔ HomF(V, F) 内のベクトルの集合 B* = {vi}i ∈ I で、B と B* が二重直交系を構成するもののことを言う。これは δij でクロネッカーのデルタを表すとき
ベクトルの演算を実行するにはその成分が必要となる。デカルト座標系において、ベクトルの成分を取り出すのに必要なのは標準基底とドット積である[1]。たとえば3次元空間のベクトル
を考える(右図)。ここで {i, j, k} はデカルト座標系における標準基底を表す。このときベクトル a の各成分は
のように取り出すことができる。そうすると、より抽象的に各成分を取り出す写像
が考えたくなる。これにより、たとえば
などと書けるようになる。この {i*, j*, k*} が標準基底 {i, j, k} の双対基底である。
例
であり、その双対空間 (R2)* の標準基底ベクトルは
である。
三次元ユークリッド空間において、基底 {e1, e2, e3} が与えられたとき、その二重直交(双対)基底 {e1, e2, e3} は次の式によって得ることが出来る:
ここで ⊤ は転置を表し、
は基底ベクトル e1, e2, e3 によって構成される平行六面体の体積である。
存在と一意性
双対集合は常に存在し、V から V* への単射、すなわち、vi を vi へ送る線形写像を与える。これは特に、双対空間 V* の次元は V の次元以上であることを意味する[2]。
しかしながら、無限次元の V に対して双対集合 B* は V* を張らない。例えば、すべての i ∈ I に対して f(vi) = 1 で定義される線型汎関数 f: V → F を考える。これは明らかに、すべての vi 上でゼロでない。もし f が vi の(有限)線型結合ならば——すなわち、I のある有限部分集合 K とスカラー αi によって と表せるならば—— K に含まれない任意の j に対して が成立するが、これは f の定義に矛盾する。したがって f は双対集合 B* の線型包に属さない。
無限次元空間の双対は、もとの空間よりもより高い次元(高次無限濃度)を持ち、したがって同一の添字集合を備えるような双対空間の基底は存在しない。しかしながら、ベクトルの双対集合は存在し、それはもとの空間と同型であるようなその双対空間の部分空間を定義する。さらに、線型位相空間に対し、連続的双対空間を定義することが出来、そのような場合には双対基底は存在し得る。
有限次元ベクトル空間
有限次元ベクトル空間の場合、双対集合は常に双対基底であり、各基底に対して一意的である。それらの基底を B = {e1, …, en} および B* = {e1, …, en} と表す。ベクトル ej の余ベクトル ei による評価をペアリング ⟨ei, ej⟩ = ei(ej) で表すとき、二重直交性の条件は次のようになる:
このことは、「ベクトルのペアリング」を「対応する余ベクトルによる評価」と定義することによって、ドット積(内積)を定義することに繋がる。基底ベクトルに対して、これは ei · v ≔ ⟨ei, v⟩ を意味し、基底ベクトルは ei · ej = δij を満たす。
ここで、前述のデルタの上付き添字と下付き添字の記号は、通常、余ベクトルを使っているものとベクトルあるいは二つのベクトルを符合させるために変化するものである。形式的に言えば、δij は反変計量テンソル、δij は共変計量テンソルと見なされ、これは添字の上げ下げ の最も簡単な例である。
ある双対基底と基底の組合せは、V の基底の空間から V* の基底の空間への写像を与え、これはまた同型でもある。実数のような位相体に対して、双対の空間は位相空間であり、これはそれらの空間の基底のスティーフェル多様体の間の位相同型を与える。
有限次元においては、二重直交性の条件は双対の各元に対し n 個の線型独立条件を課すことが代替的に分かる(なぜならば、n 個の基底ベクトルが存在し、それらは線型独立であるからである)。したがって、双対空間の次元は n であることにより、その双対集合の各元は一意的に定められる。
ある n 次元ベクトル空間 V 上の双対ベクトルの作用については、V の元を n×1 の列ベクトルと見なし、双対空間 V* の元を 左行列乗算による線型汎関数として作用する 1×n の行ベクトルと見なすことで分かる。
脚注
- ^ Lebedev, Cloud & Eremeyev 2010, p. 12.
- ^ Roman 2008, p. 97, Theorem 3.12.
参考文献
- Lebedev, Leonid P.; Cloud, Michael J.; Eremeyev, Victor A. (2010), Tensor Analysis With Applications to Mechanics, World Scientific, ISBN 978-981431312-4
- Roman, S. (2008). Advanced Linear Algebra. Graduate Texts in Mathematics. 135 (Third ed.). Springer. doi:10.1007/978-0-387-72831-5. ISBN 978-0-387-72828-5. MR2344656. Zbl 1132.15002
関連項目
双対基底
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/13 06:49 UTC 版)
(V, η) を4次元ミンコフスキー空間とし、e→0, e→1, e→2, e→3 を (V, η) 上の(正規直交とは限らない)基底とする。このとき、以下の性質を満たす V の基底 e→0, e→1, e→2, e→3 が一意に存在する事が知られており、この基底を e→0, e→1, e→2, e→3 の双対基底という: 任意の μ, ν = 0, ..., 3 に対し、 η ( e → μ , e → ν ) = δ μ ν . {\displaystyle \eta ({\vec {e}}^{\mu },{\vec {e}}_{\nu })=\delta ^{\mu }{}_{\nu }.} ここで δ μ ν {\displaystyle \delta ^{\mu }{}_{\nu }} はクロネッカーのデルタである。 正規直交基底の場合は双対基底は非常に簡単に書くことができる: ( e → 0 , e → 1 , e → 2 , e → 3 ) = ( e → 0 , − e → 1 , − e → 2 , − e → 3 ) . {\displaystyle ({\vec {e}}^{0},{\vec {e}}^{1},{\vec {e}}^{2},{\vec {e}}^{3})=({\vec {e}}_{0},-{\vec {e}}_{1},-{\vec {e}}_{2},-{\vec {e}}_{3}).} 上でも分かるように、双対基底は元の基底と空間方向の向きが反対である。 本項では正規直交の場合にしか双対基底の概念を用いないが、一般相対性理論を定式化する際には一般の基底に対する相対基底が必要となる為、以下基底は正規直交とは限らない場合について述べる。 双対基底はミンコフスキー計量の成分表示を使って具体的に求めることができる。 η μ ν = η ( e → μ , e → ν ) {\displaystyle \eta _{\mu \nu }=\eta ({\vec {e}}_{\mu },{\vec {e}}_{\nu })} とするとき、(ημν)μν の逆行列を ((η−1)μν)μν とすれば、 e → μ = ( η − 1 ) μ ξ e → ξ {\displaystyle {\vec {e}}^{\mu }=(\eta ^{-1})^{\mu \xi }{\vec {e}}_{\xi }} である。実際、 η ( e → μ , e → ν ) = ( η − 1 ) μ ξ η ( e → ξ , e → ν ) = ( η − 1 ) μ ξ η ξ ν = δ μ ν {\displaystyle \eta ({\vec {e}}^{\mu },{\vec {e}}_{\nu })=(\eta ^{-1})^{\mu \xi }\eta ({\vec {e}}_{\xi },{\vec {e}}_{\nu })=(\eta ^{-1})^{\mu \xi }\eta _{\xi \nu }=\delta ^{\mu }{}_{\nu }} である。 双対基底の定義から、次が成立する: e→0, e→1, e→2, e→3 の双対基底の双対基底は e→0, e→1, e→2, e→3 自身である。 以下の議論では、「通常の」基底 e→0, e→1, e→2, e→3 を一組固定し、e→0, e→1, e→2, e→3 をその双対基底とする。しかし上の定理でもわかるように、どちらの基底を「通常の」基底とみなし、どちらを双対基底とみなすのかは任意である。本項では、空間方向が右手系のものを通常の基底とみなし、左手系のものをその双対基底とみなすことにする。
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