催眠術
『魔睡』(森鴎外) 法科大学教授大川渉の細君は、妊娠7ヵ月である。細君は病母の付き添いで磯貝医師を訪れ、その折、磯貝から妙なふるまいをしかけられて、しばらく意識を失った。帰宅した細君からそれを聞いた大川は、「磯貝はお前に魔睡術(=催眠術)を施そうとしたのだ。今後、磯貝の所へは行くな」と説く。その日大川は、女性の貞潔についていろいろと考えた。
★2a.催眠術にかからない。
『吾輩は猫である』(夏目漱石)8 苦沙弥先生が、平生かかりつけの甘木医師を迎え、「催眠術でいろいろな病気が治るそうだから、私にかけて下さい」と頼む。甘木医師は苦沙弥先生の両眼を撫で下ろして、「だんだん眼が重たくなる。さあ、もう開きません」と暗示をかける。苦沙弥先生は両眼を開き、「かかりませんな」と言ってにやにや笑う。甘木医師も「ええ。かかりません」と笑い、帰って行く。
『幇間』(谷崎潤一郎) 幇間の三平は、芸者梅吉の下手な催眠術に、いつもかかったふりをして、梅吉を喜ばせる。ある夜、旦那や他の芸者の見る前で、三平は催眠術をかけられ、裸になって梅吉を抱くという1人芝居をさせられる。三平は、惚れた女にからかわれる快感に、最後まで催眠術にかかったふりをし通す。
『予言』(久生十蘭) 石黒利通は安部忠良を憎み、「お前は12月に拳銃自殺するだろう」との手紙を送る。安部は11月25日に知世子と結婚式を挙げ、豪華船でフランスへ新婚旅行に出発する。石黒もその船に乗り込み、船内の廊下で安部をにらみつけて、催眠術をかける。その結果、安部は「知世子が外国人に寝取られた」との妄想を抱き、錯乱して拳銃で自分の胸を撃つ。
『ドクトル・マブゼ』(ラング) マブゼ博士は催眠術の名手である。言葉を用いず、相手の目を見るだけで催眠状態に陥れる。目指す人物を背後から見つめて、あやつることもできる。トルド伯爵は催眠状態のまま、いかさま賭博をさせられ、社会的信用を失う。さらに、言葉による暗示をかけられて自殺する。フォン・ヴェンク検事は催眠状態で車を運転させられ、断崖から転落死しそうになる。しかし部下たちが、断崖の直前でフォン・ヴェンク検事を車から救い出す→〔金〕8。
『伊賀の影丸』(横山光輝)「若葉城の巻」 甲賀七人衆の1人・半太夫は、敵に催眠術をかけ、「自分の喉を刀で突け」という暗示を与えて自殺させる。伊賀の影丸が半太夫そっくりに変装し、鏡を仕掛けた堂内へ半太夫を誘い込む。半太夫は鏡に映る自分を、変装した影丸と誤認して催眠術をかける。半太夫は、自分のかけた催眠術に自分がかかり、刀で喉を突いて死ぬ。
『宇宙船ビーグル号』(ヴォクト) テレパシー能力を持つ異星の鳥人たちが、宇宙船ビーグル号に関心を持ち、コミュニケーションを取ろうとする。しかし鳥人の思念は、ビーグル号の乗員たちを催眠状態に陥れてしまう。抑圧されていた攻撃性が解放され、乗員どうしが戦いを始めて死者が出る。情報総合学者グローヴナーが、鳥人の心の中へ入り込み、ビーグル号に干渉しないよう語りかける。鳥人は思念を引き上げ、乗員たちは覚醒した。
『カリガリ博士』(ウイーネ) 怪人カリガリが夢遊病者ツェザーレをあやつり、覚醒時には絶対にできないこと、すなわち連続殺人を犯させる。青年フランツィスがカリガリを追跡し、「カリガリの正体は某精神病院の院長だ」と告発する。しかしフランツィス自身その病院の入院患者であり、彼の言葉はただの妄想にすぎないのかもしれなかった〔*現実か精神病者の妄想かわからない、という点で→〔アイデンティティ〕1aの『ドグラ・マグラ』(夢野久作)に似る〕。
『ユング自伝』4「精神医学的活動」 「私(ユング)」が精神科の若い医師だった頃。7年前からの左足麻痺に苦しむ中年女性が、松葉杖をついて受診に訪れた。「私」が催眠をかけると、その場で彼女の足は治ってしまい、松葉杖を放り投げて歩き出した。実は、彼女には精薄の息子がいた。彼女はそれが不満で、代わりに理想的な息子の像を、無意識のうちに「私」に投影した。それが奇跡的治癒の原因だった。この体験は、「私」が催眠を捨てる契機の1つになった。
『顧りみれば』(ベラミー) 「私(ジュリアン・ウェスト)」は、1857年にボストンで生まれた。「私」は30歳の時、不眠症に悩まされ、ある日、自宅の地下室で催眠療法を受けて眠りにつく。ところが、地下室の上にあった家が火事で消失したため、「私」はそのまま放置された。「私」は眠り続け、目覚めると、そこは20世紀最後の年、西暦2000年のボストンだった。「私」は113年間、眠っていたのだ→〔夢と現実〕3b。
『催眠術の啓示』(ポオ) 「私」は、肺結核のヴァンカーク氏の苦痛を軽減させるため、催眠術を施した。何度も施術するうちに、彼は霊魂不滅を確信するようになり、「催眠状態で問答すれば、覚醒時には不可能な洞察が得られるのではないか」と言う。ヴァンカーク氏は半睡半醒状態で「神」や「存在」について語り、「私」が彼を覚醒させると同時に息絶えた。その時すでに死後硬直しており、彼は話の後半部を、幽冥界から語っていたのかもしれなかった。
『ヴァルドマアル氏の病症の真相』(ポオ) 「私」は、肺結核で臨終を迎えたヴァルドマアル氏に、催眠術を施す。まもなく彼は死んだが、催眠状態は死後も継続した。「私」の問いかけに、彼は「今、自分は死んでいる」と答える。そのままの状態で7ヵ月が過ぎる頃、ヴァルドマアル氏は「早く眠らせてくれ。でなければ、目をさまさせてくれ」と訴える。「私」が彼を覚醒させると、彼の身体は見る見る縮まり、崩れ、腐敗物の液体化した塊になってしまった。
*長い眠りから覚めると、たちまち老化して死ぬ→〔長い眠り〕1の『ブラック・ジャック』(手塚治虫)「浦島太郎」。
『晴れた日に永遠が見える』(ミネリ) 1970年頃のこと。精神医学のシャボー教授が女学生デイジーに催眠術をかける。デイジーは前世を思い出し、「私は公爵夫人メリンダ。19世紀のロンドンに生きていた」と言う。デイジーはシャボーに恋するが、シャボーは、デイジーではなく前世のメリンダに恋してしまう。催眠状態では、前世だけでなく来世も、過去のことのように思い浮かぶので、メリンダはシャボーに「私たち2人は生まれ変わって結婚し、2038年には夫婦として幸せに暮らしている」と告げる。それを聞いてシャボーは安心する。
UFOに誘拐されて(ブレードニヒ『ヨーロッパの現代伝説 悪魔のほくろ』) 東独の少年がUFOに誘拐され、また地上へ戻された(*→〔誘拐〕6)。その間の記憶はなく、冬なのになぜか少年は日焼けしていた。精神科医に催眠誘導されて、少年は誘拐体験を語った。「人間に似た小さな生物たちが、不思議な発光体の機内へ僕を運んだ。台の上に横たえられて、身体を検査された」。後、少年は、神や、間近に迫った天変地異や、人間の意識変革について、会う人ごとに語るようになった。
Weblioに収録されているすべての辞書から催眠術を検索する場合は、下記のリンクをクリックしてください。
全ての辞書から催眠術 を検索
- 催眠術のページへのリンク