今日的な評価
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/07/22 16:44 UTC 版)
明治から戦後間もない時期の日本においては、近代的な道路網の整備が遅れていたことも関係して、荷物輸送における鉄道の重要性は非常に高かった。しかし、一方では社会環境の変化に伴い、旅客鉄道の速度向上が求められ、駅ごとに荷物の積み卸しを行う荷物輸送がその障害とみなされたこと、もう一方では、道路網の整備が進んだことで路線トラック事業者が小口荷物の配送事業に進出したことにより、荷物輸送における鉄道の重要性は1970年代から80年代にかけて急速に低下していった。以上のような状況の中で、鉄道小荷物が宅配便に対して後れを取った大きな理由として、集配サービスにおける柔軟性の欠如が挙げられる。 個人による物品輸送は、基本的に差出人の家から受取人の家までの輸送を基本とする。しかし、鉄道小荷物は基本的に発駅―着駅間における輸送が主であり、差出人の家から発駅までと着駅から受取人の家までの配送は、別建ての配送料金を支払わない限りは行われない附加役務という性質が強かった。また、当時の国鉄は集配事業を直接担うことができないため、集配事業は日本通運や地方の運送事業者との間に契約を結んだうえで配送を委託していた。このため、集荷・輸送・配送のサービスが一貫したネットワークの下において構築されていた郵便小包や宅配便に比べて効率性が低くコストが高くなりやすい特徴があった。 加えて、物資輸送はユニバーサルサービスとしての性質をも帯びることから、採算がとりにくい地方線区における荷物の取り扱いも簡単には廃止することができず、結果的に高コスト構造が温存される原因となった。70年代に宅配便が普及するまでは、ごく少量の物品(5キログラム以下)を運ぶ郵便小包とそれ以上の重量の物品を輸送する鉄道小荷物という棲み分けがなされており、特に郵便小包では扱えない5キログラム以上の小口荷物の輸送に関しては鉄道の独占事業状態が続いていたため、上記のような問題は大きく取りざたされることはなかった。しかし、宅配便の急成長が進んだことや、これに対抗するために郵政省が郵便小包の重量制限を緩和したことに伴い、郵便小包と鉄道小荷物との棲み分けが崩壊したことで収益バランスがくずれたことで鉄道小荷物輸送の高コスト構造が顕在化したのである。 日本の鉄道からは託送手荷物は姿を消したが、航空機や高速バス、離島航路においては乗客の手荷物を預かって輸送(通常は乗客と同じ便で)するサービスが常識となっている。性格は託送手荷物そのものである。いずれも客室が狭いことや、保安上の理由によるものであるが、ターミナルで荷物を持って移動する負担が減る等、乗客にもそれなりの利便性がある。 九州地方のいくつかの大手バス事業者では、九州産業交通がかつて一般路線バスによる小荷物輸送を行っていたほか、都市間バスによる九州内での小荷物輸送すら、長い歴史を持ちながら現在も行われ続けている。 日本の鉄道においては、その旅客輸送密度の高さ故に荷物輸送のためのスペース・人員・ダイヤを確保できなくなったのが実情である。客室にも相対的にゆとりがあり、乗車中の手荷物託送の必要性は航空機や高速バス程には高くないが、乗り降り、ターミナル移動時等を含めると必要性が認められることも少なくない。 託送手荷物のもう一つの機能である「駅から目的地へ(またはその逆)の手荷物配送」については、いくつかの取り組み事例が見られる。個別施設によるサービス提供が多いが、地域で横断的に行われている取り組みとして注目されるものに、大分県由布市由布院温泉の「ゆふいんチッキ」がある。これは由布院観光総合事務所(由布院温泉観光協会と由布院温泉旅館組合が共同運営)が2003年7月から提供しているもので、九州旅客鉄道(JR九州)久大本線由布院駅前(受付所を開設)と各宿泊施設との間で手荷物託送を行う。自家用車の観光地乗り入れを減らすために鉄道の利便性を高める目的で始められ、一定の効果も認められている。名称は国鉄時代のチッキを意識して名づけられたものとのことである。 2005年3月からは、神奈川県足柄下郡箱根町箱根湯本地区で同様な手荷物託送を行う「箱根キャリーサービス」が、箱根登山バスにより開始されている。 また、鉄道荷物会社(下記「その他」を参照)であった企業によるサービス提供の例として、西日本旅客鉄道(JR西日本)グループのジェイアール西日本マルニックスが京都・大阪両市内で提供しているキャリーサービスが挙げられる。これは、京都駅と京都市内の旅館の間、および新大阪駅・ユニバーサルシティ駅と大阪市六区内のホテルとの間で手荷物託送を行う(宿泊施設から駅への配送は京都市内のみ)もので、旧国鉄のチッキの市内配送の名残りそのものと見ることもできる。 2020年(令和2年)以降、コロナウィルス感染症の蔓延に伴って鉄道利用者が大きく減少したことによって、大手鉄道事業者の中では新たに鉄道を用いた少量物品輸送事業を強化・復活させる動きが出てきた。その一方で、四国旅客鉄道(JR四国)は従来特急列車を用いて行ってきた手小荷物輸送を2022年(令和4年)3月付で廃止している。
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