ミッドデッキ構造
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/12/08 02:18 UTC 版)
日本発の建造規格である。原油タンクを上下の2層にだけ分け、舷側だけを二重船殻構造にして船底は一重船殻構造のままである。上下のタンクを分ける中間デッキが喫水線より下にある点が重要で、これにより下のタンクの原油の圧力は常に周囲の水圧よりも低く保たれる為、衝突・座礁によって下部タンクの底に穴が開いても海水より比重の軽い原油はタンクの上方へ押しやられ、理論上は原油が漏れる事が無い。国際海事機関(IMO)海洋環境保護委員会でも、ダブルハル構造と共に1993年7月以降建造が認められている。構造上、ダブルハル・タンカーより舷側の二重構造幅を広く取れるため、舷側から来る衝撃で起こるタンクへの損傷度合いも、ダブルハル・タンカーより軽くできる。 隔壁 油槽内の油は流動性を持ち「復原性に対する自由水影響」を避けるために、多数の隔壁によって細かく仕切られている。 安全空間の確保 機関室は安全のため、タンクの後方に配置し、タンクとの間を空き部屋やポンプルーム、燃料油により隔離するように海上人命条約は求めている。また空荷で荒天の場合でもプロペラが水面上に出ないように原油タンク内への注水を避けるために、十分なバラストタンクの設置が国際条約で定められている。 荷役 油槽船への油の積荷は送油側の陸上よりポンプで送り込まれるが、揚荷の場合には油槽船側のポンプによって取り出される。パイプラインは2~3種類の油が混ざらないように分けて搭載できるようになっており、大量に送油できるメインのラインの1つと、残油を扱うストリップラインが1つある。メインのパイプラインから揚荷時に使用するポンプは蒸気タービンで駆動され、大きな油槽船では数台が設置されている。 大型油槽船での油の送受は万一火災が発生した場合、非常に危険であるため、陸から離れた海上のシーバース(Sea berth)で行なわれる。シーバースには大型ブイがあり、大型ブイは海底パイプラインによって地上設備とつながっている。大型油槽船と大型ブイの間はフローティング・ホースによって接続され荷役が行なわれる。また、シーバースの使用により狭い港での接岸の手間と危険や余計な浚渫工事も省かれる。 イナート・ガス装置 積荷の油が発火するのを防止するために、ボイラーからの排ガスからススや硫黄燃焼物、湿気を取り除いて油槽内に送る「イナート・ガス装置」によって、油槽内に不活性化ガス(イナート・ガス)を送り込む。可燃性ガスや空気の代わりにこの不活性化ガスが満たされた石油/原油タンクにたとえ火が入っても、酸素がないために燃焼や爆発は起きない。 バラストタンク 油槽船はその荷物の性質上、産油国から消費国へ石油類の一方通行の輸送を行なっている。常に片道は荷物を積まない状態で運航されている。そのような、油槽内に石油類が積まれず空荷の時には、巨大なタンクがすべて浮力を持つために、船体が異常に浮き上がり、船尾の舵やプロペラ、船首のバルバス・バウが水面上に出てしまう。これは推進効率の低下や、過回転による機関や軸受の焼きつきの原因となるため、専用のバラストタンクに海水を注水して浮力の相殺を行なう。それだけでは十分でない古い船の場合には、石油のタンク、つまり油槽にも注水する。また、油槽は修理や検査の前には洗浄されねばならない。油槽を洗浄した後のバラスト水はクリーン・バラスト水であり、洗浄せずに油槽に入れたバラスト水はダーティ・バラスト水と呼ばれる。 国際海事機関(IMO)では、船舶の移動に伴うバラスト水排出が環境への影響を防止する目的で、バラスト水管理条約が採択されている。 スロップタンク 油槽をバラストタンクとして使用した場合の上部の水やタンク内を洗浄した油濁液はスロップタンクに蓄えられて時間をかけて油と水に分離され、水は海へ排出される。スロップタンクは縦に長い形をして、油との分離をなるべく容易にしている。スロップタンクに残ったスロップの上に次回の積荷の油が入れられる。この方法は「ロード・オン・トップ」(Load on Top)またはROB(Retention Oil on Board)と呼ばれる。 バラスト水と環境問題 船体の浮沈を調節するために消費国の海でバラストタンクに積まれた海水は、産油国で石油類の積荷の前に海へと排出される。結果として消費国の海水が産油国の海へと運ばれる。これらの海水に含まれる水中生物が意図しない侵入者となる外来生物問題となっている。バラスト水を船内に取り込む時に網で生物を入れないようにすれば良いといった簡単な問題ではなく、海水にはエビやカニの幼生をはじめ微小な生物が多数含まれているため、目の粗いフィルターでは簡単には生物を排除できず、それらを除去できるような細かな目のフィルターは単位時間あたりの処理能力の問題から現実的ではない。現代では環境に配慮してバラスト水をできるだけ積まないようにしている。 救命艇 油槽船やLPG船、LNG船で火災が発生した場合には大きな火炎となって周囲を焼き尽くす事態が考えられるため、これらのタンカーでは特別に設計された救命艇が装備されている。45度ほどに傾けて後部甲板等に用意された自由降下式救命艇に必要な避難乗員が搭乗して準備が整うと、斜めの角度で海面に向けて落下して着水し火災現場である本船から遠ざかる。この救命艇は全体が密閉式の耐熱カプセルになっており、屋根に散水して炎と熱から艇体を防護し、低速ながら自航して避難が可能となっている。火炎によって周囲の酸素が失われる場合に備えて、10分間程度ならば艇内に備え付けの酸素ボンベによって乗員の呼吸が可能になっている。
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