ポロネーズ第6番 変イ長調英雄とは? わかりやすく解説

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ショパン:ポロネーズ第6番 変イ長調「英雄」

英語表記/番号出版情報
ショパンポロネーズ第6番 変イ長調英雄Grande Polonaise brillante As-Dur Op.53 CT155作曲年1842年  出版年1843年  初版出版地/出版社Leipzig, Paris  献呈先: Auguste L&eacuteo

作品解説

2008年7月 執筆者: 朝山 奈津子

 ピアノ曲ジャンルとしてのポロネーズには、長い伝統がある。
 起源ポーランド大衆的な舞踊で、歌を伴い結婚式など格式のある祝祭行なわれた。これが徐々に騎士下級貴族のものとなって洗練され、やがて王侯宮廷取り入れられると、歌が無くなって器楽伴奏のみの行列舞踊となる。行列舞踊とは、整然と列を成して比較ゆっくりと歩くようなタイプのもので、参会者の顔合わせ挨拶、あるいは衣装見せあいなどの機能を果たす。宮廷舞踊となったポロネーズは、ポーランド代表的な舞踊として国際的に認められのみならずポーランド民族精神表現するもっとも象徴的な音楽となった
 しかし、「ポロネーズ」という名称は、フランス語で「ポーランド風の」という意味であり、18世紀以前にはポーランド国内史料には現われない。器楽、とくに鍵盤曲のジャンルとしてのポロネーズ」は、ポーランドではなくドイツフランスで発展した。それらは確かに宮廷ポロネーズ器楽伴奏端を発したのではあるが、バッハが《フランス組曲 第6番》に取り入れた頃にはもはや舞踊伴奏としての機能失われていた。ポロネーズは、元の舞踊持っていたリズム楽式受け継いでポーランド趣味一種異国情緒感じさせる形式へと姿を整えていった。こうしたものは、またポーランドへと逆輸入された。
 19世紀初頭ショパン継承したポロネーズとはこのように郷土伝統というよりは国際的に久しく通暁していた形式あるいはジャンルひとつだった。しかし、1830年以降パリにおいてショパンポロネーズを書く、ということには、また別の意味があった。このときポーランド地図上から消えた国家であり、パリには亡命したポーランド文化人たち終結していたからである。聴衆ショパン音楽本質に「ポーランドらしさ」を求めたしショパンまた、憂国の士としてこれに応えようとした。パリ・デビューより後に書かれポロネーズそれ以前のものとが大きく異なっているのは、そのためである。パリ到着以前ショパンポロネーズは、超絶的な技巧ひたすらに誇示するものか、オペラなどで有名な旋律ポロネーズリズムパラフレーズしたものばかりである。しかし、これらは作曲家自身によって価値なしと見なされたのか、生前出版されなかった。これに対して1835年以降7つポロネーズは、旋律和声の点できわめて独創的であり、ショパン独自の様式余すところ無く発揮されている。

 通称を「英雄ポロネーズ」とよばれる本作は、この作曲家明るく健康的な面のみを凝集した壮麗な主題持ちピアノ曲としてほぼ最高レベル演奏技術要求する点で、ショパン最高傑作のひとつに数えられる
 しかし、この作品はけっして難解な音楽ではない。旋律明解で、形式きわめて簡明である。全体は、前奏含めてほぼ完全に、16小節を1セクションとする。この16小節4×4から成り各部起承転結相当する楽曲前奏で始まるが、そこから16小節を4セクションをおき、この4つがさらに起承転結機能を担う。再現部分(第155小節以降)では、冒頭部分2番目のセクション回帰し、8小節コーダに入る。コーダまた、2×4起承転結分担している。最後の3小節は、コーダの「結」の部分反復である。(ところで、冒頭部分前奏16小節自身4×4起承転結内包する一方前半4セクションから成る大きな起承転結に対しては、「起」の部分拡大形とみることができる。)
 この理路整然とした構造少しずつ変形されるのが、中間部(第81-154小節)である。第81-84小節は、続く16小節対す前奏であり、「起」の拡大として働く。第100小節2番目の音から第101小節第1拍までの6つの音は、「結」の拡大と、次の「起」の拡大対すさらなる準備2つ機能備えている。次のセクションでこれに相当するのは第120小節だが、こちらでは「結」よりも「起」の機能の方が強い。そして、3つめのセクションは、「転」と「結」が大幅に拡大する。第129-132小節楽節3回繰り返される4回目では低音でも高音でも c すなわち f-moll の属音執拗に鳴り続ける。この第129小節以降は、もはや4小節単位明解起承転結放棄し右手半音階進行効果利用して音楽がどこへ向かうのかを曖昧にしたまま進んでいく。f-moll の属音遠くから聞こえてくるが、解決されないまま、半音階ユニゾン突入する。この小昏いトンネル抜けた先には、唐突に明る冒頭主題待ち受けており、再び秩序正し世界戻ってくる。更に上位構造考えるなら、第81小節以降最初40小節が「起」および「承」、第129-154小節が「転」、第155小節以降を「結」と見なすことも可能だろう
 このように英雄ポロネーズ》は、いくつもレベル起承転結構造をもっており、それ故ドラマ性と推進力満ちている。今日ではこの作品こそポロネーズ典型感じられるまでになった真の傑作であるだけでなく、これ以前以後ポロネーズ考察する際にひとつの規範を示す作品である。



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