絨毯 絨毯の歴史

絨毯

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/05/03 15:28 UTC 版)

絨毯の歴史

初期の絨毯

手で結ばれた絨毯は、おそらくモンゴルかトルキスタンで紀元前4000年から2000年の間に作られた。

現存する世界最古のパイル・カーペットは「パジリク・カーペット」と呼ばれ、紀元前5世紀のものとされる。1927年に、セルゲイ・イワノヴィチ・ルデンコ(Sergei Ivanovich Rudenko)によってパジリクの谷の中に氷に保存されたシベリアの埋葬地から発掘された。このカーペットの起源はイランのスキタイアケメネス朝ペルシアのどちらかであろうと提案されている。

現存するパイル・カーペットのうち最も初期のものは、13世紀の後半に、アナトリア半島のセルジューク・トルコで作られた。実在する18個の作品はコンヤ・カーペットと呼ばれる。これらの大きな絨毯の中央の領域は、幾何学的な反復模様である。これらは大規模に様式化され、境界はKuficまたはKufesqueと呼ばれる状態で飾られている。

ペルシアの絨毯

ペルシャ絨毯は、世界最大の高級手織り敷物で、7000年の歴史を持つと言われ世界でもよく知られている。ペルシャ絨毯の原産国はイランで、その素材はシルク又はウールあるいはシルクとウールが多い。ペルシャ絨毯はイランの各町で織られ、その町の名前が絨毯の名称として用いられている。有名な産地としてゴム (イラン)(一般的には「クム」と言われている)、イスファハンタブリズマシュハドなどがあり、各産地のペルシャ絨毯はそれぞれの産地によって、模様、素材、色彩に特徴がある。

ヨーロッパにおける東洋の絨毯

東洋の絨毯は、ヨーロッパでは11世紀の十字軍の後に見られるようになった。18世紀の中期まで、それらのほとんどは壁とテーブルで使用された。王室や教会を除いては、床を覆うことができないほど貴重なものとされた。

東洋の絨毯は13世紀にイタリアベルギーイギリスフランスオランダギリシャで見られるようになる。とくにポーランドは古い時代から独自の陸上貿易ルートを東方に開拓しており、これによって胡椒などとともに東洋の絨毯を輸入し、琥珀などを輸出していた。17世紀から18世紀のオランダ、イギリス、フランスは、東インド会社によってヨーロッパにインドペルシアの絨毯を導入した。

ポロネーズ絨毯

京都祇園祭で使用される「ポロネーズ絨毯」は、インドムガール帝国)やペルシアで製造された絨毯が17世紀に当時のヨーロッパ最大の国ポーランドポーランド・リトアニア共和国)へ陸上交易により輸出されたもの。これらの絨毯はルヴフクラクフワルシャワグダンスクなどで商売をしていたポーランドの貿易業者からポルトガルなど日本と直接交易していた国の貿易業者に卸され、彼らの海上交易により日本へと輸出された。これらの絨毯がポロネーズ(ポーランド式)絨毯と呼ばれるのはそのため。

スペイン

カーペットの生産は、スペインにイスラム教が侵入するより以前に行われていた。ムーア風の装飾の例は、ヨーロッパ製の絨毯のうちで最も早く見られた重要なものである。10世紀にスペインで絨毯の生産が始まったと書物に示されている。最古の現存するスペインの絨毯(シナゴーグ絨毯)は14世紀にさかのぼるものが唯一である。スペイン系ムーア風絨毯の最も初期のものは、海軍の紋章として知られている。これらのデザインの種類はMay Beattieによって研究されている。15世紀においては、スペインの絨毯はもともとアナトリア半島で開発されたデザインを元にした。絨毯の生産は、15世紀のスペインの征服と、イスラム教信者の追放の後にも続いた。16世紀のルネッサンスにおける絨毯のデザインは、織物から派生したもので、輪とザクロが最も一般的なモチーフである。

フランス

1608年アンリ4世はピエール・デュポンの指示によりトルコ式の絨毯の生産を開始した。この生産場所は、パリのすぐ西のシャイヨのSavonnerie工場に移動した。 SavonnerieとSimon Lourdetにより製作された絨毯がいわゆるルイ13世絨毯である。しかし、ルイ16世に生産されたものについては誤った名称である。それらは花瓶や籠の中に花とともに飾られる。デザインはオランダ風、フランダース風の織物および絵に基づいている。 最も有名なSavonnerie絨毯はGrande GalerieとGalerie d'Apollonのために作られたものである。

ルイ14世が1678年にヴェルサイユ宮殿に移ったとき、シャルル・ルブランの指示により作られた105の傑作は使用されることは無かった。それらのデザインは、アカンサスの葉、建築様式の縁取り、および神話の場面(Cesare Ripa's Iconologie)をルイ14世の権力のシンボルと結合するものである。18世紀中ごろのデザイナーでPierre-Josse Perrotが最もよく知られている。彼の作品と図面は、優雅なロココ様式の巻物、主要なバラ結び、シェル、アカンサス葉、および花の飾りを示している。 Savonnerie工場は、1826年にパリのゴブランに移動した。Beauvais工場は1780年から1792年までパイル絨毯を作った。Aubussonの工場での生産は1743年に始まった。

イギリス

パイル絨毯の製造技術は、16世紀前半に宗教迫害から逃れたフランドルのカルビンの信者を伴ってイギリスに来たであろう。これらの織り手の多くは、イギリス南東のノリッジに定住したので、16世紀から17世紀に掛けての現存する14の絨毯はノリッジ絨毯と呼ばれる。これらの工場においては、アナトリアあるいはインド・ペルシアのいずれか、またはエリザベス女王時代のブドウの木と花のデザインを使用している。フランスと同様に、対称な結び目を使用した。18世紀の製造所について、3つの資料が残存している:Exeter(1756-1761年、Claude Passavantによって所有され、3枚が残存)、Moorfields(1752-1806年、Thomas Mooreによって所有され、5枚が残存)およびAxminster(1755-1835年、Thomas Whittyによって所有、多数が残存)。フランスのSavonnerieからの改宗者がExeterとMoorefieldsに配置されたため、Exeterはその工場とPerrotni影響された構造を用いている。新古典主義のデザイナー、ロバート・アダムは、ローマの床および天井に基づき、MoorfieldsとAxminsterの両方をデザインした。彼のデザインのうち有名なもののいくつかは、Syon house、Osterley公園、Saltram House、Newbyホール用に作られた。Axminster絨毯のうち6つは、Lansdowneグループとして知られている。これらは、菱形に囲まれた中央のパネルに花をかたどった円と籠を備えたデザインである。Rococo式の設計は、しばしば茶色の地色をもっており、同年代の彫刻から写された鳥を含んでいる。絨毯は、今後もKidderminsterの町の名産である。産業革命の間においても、この町はイギリスの絨毯産業の中心であった。今でも、55,000の人口のうちの大部分は、この産業で働いている。

スカンジナビア

伝統的なスカンジナビアの絨毯は手で結ばれた羊毛から作られた"rya"である。最初のryaは、15世紀に毛皮の代わりに漁師によって用いられた。粗く、長い毛足を持ち、重いものであった。敷物としては、より軽くより装飾的になった。19世紀においては、祝祭における優れた壁掛けとなった。現在では、ryaは色、模様、技術において様々な芸術家がいる。

日本

日本では高温多湿な気候のため装飾以外の目的でパイル織物が使われることはまれであった。しかし江戸末期には中国段通を元にした鍋島緞通、堺緞通、明治初期には赤穂緞通が作られるようになった。堺緞通以外は綿のパイルを持つ絨毯で高温多湿な日本に適した素材の選択となっている[11][12]


  1. ^ 日本語の語彙を比較すると「カーペット」よりも非外来語の「じゅうたん」のほうが高級な評価感情を伴っているという指摘がある[3]
  1. ^ a b 大久保 翔平「書評 鎌田由美子著『絨毯が結ぶ世界 : 京都祇園祭インド絨毯への道』」『史学雑誌 / 史学会 編』第126巻第11号、史学会、2017年11月、1802-1810頁。 
  2. ^ a b c 鈴木 澄江「建築に用いられる材料のこれから」『建材試験情報』第57巻、一般財団法人建材試験センター、2021年、4-8頁。 
  3. ^ 西尾 寅弥「現代語彙における同義語」『ことばの研究 = Study of language』第4巻、国立国語研究所、1973年12月、1-14頁。 
  4. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y z aa ab ac ad ae af ag 柳原 重雄「カーペットCARPET」『繊維製品消費科学』第4巻第2号、一般社団法人 日本繊維製品消費科学会、1963年、4-8頁。 
  5. ^ a b c d 丸山 孝雄「カーペットの分類とテスト法の現状」『繊維機械学会誌』第37巻第7号、一般社団法人 日本繊維製品消費科学会、1984年、279-P284。 
  6. ^ a b 本田榮二『ビジュアル解説 インテリアの歴史』秀和システム、2011、316-318頁。 
  7. ^ a b c d e f インテリア基本語研究会/編著『インテリア基本語辞典 第二版』彰国社、2000、p126頁。 
  8. ^ a b インテリア基本語研究会/編著『インテリア基本語辞典 第二版』彰国社、2000、180頁。 
  9. ^ 渡辺優『図解インテリア・ワードブック』建築資料研究社、1996、83頁。 
  10. ^ 「くも」現象”. 日本インテリア協会. 2023年12月21日閲覧。
  11. ^ http://www.saga-cci.or.jp/tokusan/nabedan/history.html
  12. ^ http://www.city.sakai.lg.jp/naka/miryoku/nakaku_machikado/dantsuu.html
  13. ^ a b c d 大墨 正「フロアカバリング材発達史(7)」『日本インテリア学会 研究発表 梗概集』第13巻、日本インテリア学会、2001年、93-94頁。 
  14. ^ 【NEXT1000】3年平均のROE/1位・リファインバース 廃棄カーペットから塩ビ『日本経済新聞』朝刊2018年3月20日


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