シックハウス症候群 特定建築物での対応

シックハウス症候群

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/03/07 09:10 UTC 版)

特定建築物での対応

延べ面積3000平方メートル(学校は8000平方メートル)以上の特定建築物においては、建築物環境衛生管理技術者が選任されており、建築物の環境・衛生に関する管理の監督を行っている。建築物環境衛生管理技術者は厚生労働大臣から資格を受けた室内環境に関する専門家でもあり、建物の所有者(ビルオーナー)や占有者(テナント)等に対し、意見を述べる権限を持つ。また、意見を受けた者はその尊重義務が法的に定められている(建築物における衛生的環境の確保に関する法律第6条2項)。

特定建築物の利用者等は、当該建築物におけるシックハウス(シックビル)に関する相談、その他、室内の環境や衛生等に関する相談(喫煙に伴う粉塵、臭気、炭酸ガスなどの苦情)や助言を建築物環境衛生管理技術者に求めることも出来る。特定建築物では、室内の空気環境測定が定期に巡回して行われるので、その際に相談する方法もある。

総合的有害生物管理

近年、大規模建築物における害虫等の防除に関し、総合的有害生物管理(IPM)の考え方が取り入れられている。これは、シックビル症候群の対策をも目的としており、農業における環境問題で実践されるようになった防除の考え方を建築物の管理に取り入れたものである。従来のように、漫然と化学物質を定期散布するような防除方法ではなく、人や環境への影響を極力少なくする防除体系である。2008年に厚生労働省健康局が示した「建築物における維持管理マニュアルについて」において、具体的に示されるようになった[11]

対策建材

告示対象建材

ホルムアルデヒドを含んでいる可能性のある建材が告示対象建材となっており、JIS・JAS・国土交通大臣認定の取得等によって種別(等級)を明示する必要がある。造り付けの家具やキッチン・キャビネット、収納、ドア等も規制の対象となっているが、それ以外の家具や衣類(形状記憶シャツ[12]など)においては規制の対象となっていない。そのため、換気設備の設置が義務付けられている。また、使用後5年以上経過したものについても規制の対象となっていない。

加速劣化試験を使った劣化状態の検査などは行われておらず、有効期限の短い物理的・化学的なホルマリンキャッチャー剤の使用が横行している。

  • 合板
  • 木質系フローリング
  • 構造用パネル
  • 集成材
  • 単板積層材 (LVL)
  • MDF
  • パーティクルボード
  • その他の木質建材
  • ユリア樹脂板
  • 壁紙
  • 接着剤 (現場施工、工場での二次加工)
  • 保湿剤
  • 緩衝材
  • 断熱材
  • 塗料 (現場施工)
  • 仕上塗材 (現場施工)
  • 接着剤 (現場施工)

ホルムアルデヒド放散試験

デシケーター
測定対象を容器の中に入れて、放散される濃度を測定する試験法
パーフォレーター法
欧州規格において使われる測定法の一つ。日本では使われていない。
小形セル法
測定対象の表面に設置して、放散される濃度を測定する試験法
小型チャンバー法
実際の居住空間に近づけた試験法
大型チャンバー法
実際の居住空間を模した試験法

ホルムアルデヒド低減性能試験

小形チャンバー法

国土交通大臣認定居室

通常の換気設備の設置の代わりにこれらのものを使うこともできる。自然換気を促したり有害物質を分解するものがあり、これらを使うことで機械換気を減らしたり無くすことができる。

認定番号 システム名・商品名 メーカー 機械換気 その他
通常 0.5回/h
RLFC-0001 WB工法 ウッドビルド 不要[13] 2006年8月11日認定
RLFC-0002 調湿彫り天 室内光反応タイプ[14] パナソニック 0.3回/h[15] 2008年12月生産終了[16]
RLFC-0003 ? ? ?
RLFC-0004 エアープロットシステム[17][18] ゼンワールド 0.4回/h[18]
(トイレ等では不要[18])

建材からのVOC放散速度基準

建築基準法における規制対象はホルムアルデヒドとクロルピリホスだけであるが、公共住宅においては他のVOCの測定も要求されている。そのため、建材試験センターが関連団体等と共に「建材からのVOC放散速度基準」を作った[19]。トルエン、キシレン、エチルベンゼン、スチレンの四種類を検査対象としており、適合している商品には「4VOC基準適合」の自主表示を行っている。

MSDS

公共建築物等においては、業者にMSDSの提出を求めることが増えている。それによって、シックハウスの原因物質が含まれていないかをチェックしている。

室内空気中の揮発性有機化合物汚染低減建材

日本建材センター(BCJ)が自主評価業務として独自基準で新建築技術認定(BCJアグレマン)を行っており、その中の一つにVOC低減建材が存在する[20][21]

認定番号 商品名 メーカー
BCJ-AIBT-7 タイガーハイクリンボード 吉野石膏
BCJ-AIBT-8 エコカラット INAX
BCJ-AIBT-9 ダイロートン 健康快適天井材 吸ホル天 大建工業
BCJ-AIBT-14 タイガーケンコート 吉野石膏

空気清浄機

空気清浄機の中には、ホルムアルデヒドやVOCの除去を行うものが存在する。交換が必要な吸着フィルター式のものだけでなく、触媒を使って分解するものもある。また、原因物質を分解する空気清浄機能のついたエアコンも存在する。

メーカー 技術名 方式
ダイキン 光速ストリーマ ストリーマ放電による分解
ダストフリー メタルトレーフィルター 活性炭+過マンガン酸カリウム
ゼンケン 光触媒フィルター 液体化酸化チタン+紫外線ランプ

  1. ^ 西本テツオ 2005, p. 18.
  2. ^ 1994年11月21日号「アエラ」朝日新聞社では、大阪の歯科医が最初に命名したとする。調布市ホームページ「シックハウス症候群に関するシンポジウム」の報告2003年8月12日登録。但し、「Pathogenesis of summer-type hypersensitivity pneumonitis(夏型過敏性肺炎)」Nihon Kyobu Shikkan Gakkai Zasshi.( 1993 Dec;31 Suppl:5-11)では論文の要約ではサマリー中にはHome environmental factors indicate that SHP is a sick house syndromeとあるが、ここでのSick House Syndromeは本項の原因物質が違うため同一ではない。
  3. ^ 笹川征雄「シックハウス症候群 I―シックハウス症候群の定義と化学物質過敏症との違い―」『皮膚の科学』第3巻第4号、日本皮膚科学会大阪地方会・日本皮膚科学会京滋地方会、2004年、343-349頁、ISSN 1347-1813NAID 130004547045 (要購読契約)
  4. ^ 笹川征雄「シックハウス症候群(I)‐シックハウス症候群の定義と化学物質過敏症との鑑別‐:—シックハウス症候群の定義と化学物質過敏症との鑑別—」『西日本皮膚科』第68巻第3号、日本皮膚科学会西部支部、2006年、239-243頁、doi:10.2336/nishinihonhifu.68.239ISSN 0386-9784NAID 130004831542 (要購読契約)
  5. ^ a b 室内濃度指針値(厚生労働省医薬食品局)
  6. ^ 3化学物質を追加へ 室内濃度、規制強化 毎日新聞 2017年8月28日
  7. ^ International Conference Construction Products and Indoor Air Quality Berlin, June 2007 Conference Report (PDF)
  8. ^ a b c d 化学物質の室内濃度指針値についてのQ&A(厚生労働省) (PDF)
  9. ^ 国民生活センターによれば、シックハウスについて、「住宅の高気密化、高断熱化が進み、従来より換気が不十分になっている」ことを問題点の一因としてあげている。
  10. ^ 室内環境学会編「室内環境学概論」東京電機大学出版局(2010)シックハウス経緯
  11. ^ IPM(総合的有害生物管理)の施工方法(厚生労働省健康局) (PDF)
  12. ^ 室内空気質IAQを知ろう Panasonic
  13. ^ 日本物流新聞「工作機械」「工具」「産業機器」「住宅関連」最新ニュース 「ビルダー最前線」株式会社ウッドビルド
  14. ^ ホルムアルデヒドを吸着する天井材「調湿彫り天 室内光反応タイプ」 業界初、ホルムアルデヒド低減性能で国土交通大臣認定(※1)を取得
  15. ^ 松下電工の天井材、ホルムアルデヒド低減性能で大臣認定取得
  16. ^ パナソニック 電気・建築設備エコソリューション カテゴリー検索 内装材>天井材>調湿彫り天>室内光反応タイプ
  17. ^ 製品を使った初の建築基準法施行令20条9大臣認定取得! 白金を組み合わせた触媒技術で、シックハウスの原因にもなる 空気中のVOCを分解する『エアープロットN』、10月25日より販売開始
  18. ^ a b c エアープロットシステムを使った居室は建築基準法施行令 20 条の 9 に基づく「国土交通省大臣認定の居室」になります (PDF)
  19. ^ (財)建材試験センター 建材からのVOC放散速度基準
  20. ^ 新建築技術認定(BCJアグレマン) 事業単位メニュー 評価・評定 一般財団法人日本建築センター
  21. ^ 認定取得技術一覧 新建築技術認定(BCJアグレマン) 事業単位メニュー 評価・評定 一般財団法人日本建築センター


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