シックハウス症候群 シックハウス症候群の概要

シックハウス症候群

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/03/07 09:10 UTC 版)

なお、真菌担子菌トリコスポロンなどに対するアレルギー反応が要因となる過敏性肺炎は、シックハウス症候群とは同一ではない[2][3][4]

概要

住宅に由来する様々な健康障害の総称であり、単一の疾患を表す訳ではない。また化学物質過敏症(Multiple chemical sensitivity)と同一の概念でもないとされる。主として住宅室内の空気質に関する問題が原因として発生する体調不良を指す場合が多い。その場合は、何らか理由で室内の空気が汚染された結果、その空気を居住者が吸引することによって発生するとされている。

いわゆる化学物質過敏症と混同される場合があるが、化学物質過敏症の概念自体が未確定であるとともに、前述のようにシックハウス症候群が「住宅由来の健康被害の総称」であることから、両者は異なる疾病概念であると考えられる。

原因物質

室内空気の汚染源の一つとしては、家屋など建物の建設や家具製造の際に利用される接着剤塗料などに含まれるホルムアルデヒドFormaldehyde)等の有機溶剤木材昆虫シロアリといった生物からの食害から守る防腐剤Preservative)等から発生する揮発性有機化合物 (Volatile Organic Compounds, VOC) があるとされている。

日本の厚生労働省は、シックハウス(室内空気汚染)問題に関する検討会を設置し、住宅内の空気質調査を元に住宅内に多く見られた物質を中心として、物質の人体に対する影響を考慮して13種類の揮発性有機化合物について、濃度指針値を示している[5]

厚生労働省による濃度指針値のある物質は次のものである。

また、2017年には以下の物質が新たに追加される方針となった[6]

また、総揮発性有機化合物(TVOC)の濃度についても、暫定目標値が定められている。具体的な数値は脚注経由で厚生労働省のホームページの該当ページを参照のこと[5]。その他、海外の基準としては、EU報告書 No.18 (EUR 17334)で69種類、ドイツ建材基準(AgBB)で166種類、フランス環境労働衛生安全庁(AFSSET)で216種類の室内空気最小濃度(LCI)値が規定されている[7]

なお、厚生労働省の説明によると、上記の指針値は、「シックハウス問題に関する検討会」の中間報告に基づいたものであり、あくまで「現状において入手可能な」情報に基づいて、あくまで「一生涯その化学物質について指針値以下の濃度の暴露を受けたとしても、健康への有害な影響を受けないであろうとの判断により設定された値」[8]であり、物質の室内濃度が一時的にかつわずかにその指針値を超過したことだけをもってしてただちにその化学物質がシックハウス症候群の原因だと特定できるわけではない、としているが[8]、だがやはりその化学物質が原因と疑われる場合はその旨を伝えて医師に相談することが望ましい、とも説明しており[8]、またこの指針値はあくまで現段階で入手可能な知識(つまり、十分なのか不十分なのかもよく分かっていない知識)に基づいたものであって、今後新しい情報が入手されれば改定されてゆくような性質のものであるといったことも説明された[8]

経緯

近年の住宅が、特に冷暖房効率を向上させるため(省エネルギー)、気密性への傾斜を深めている事から換気が不十分になりやすく[9]、また、住宅建材が化学物質を含むプリント合板等の新建材が用いられるようになり、1990年代より室内空気の汚染が問題視されるようになってきた[10]

1980年代には、既にシックハウスに該当すると思われる症例も報告されていたが、この頃には原因不明とされ、自宅療養などで更に症状が悪化するなどのケースもあった。また同種の問題が新築・改築のビルやマンション、また病院などでも起きていたケースも報告されている。シックハウス症候群の問題は、生活の基礎となる住宅が原因であるため、という大きな買い物をした人にとっては深刻な問題となりやすい。

対策

原因物質を減らすためには、充分な換気や建築材料等の制限が必要である。近年では、VOC放散量の低い建材や接着剤・塗料が開発・発売されている。また、換気設備が設置されている場合にはそれを運転しておくことが望ましい。

規制の経緯

シックハウス対策のための規制

  • 1997年 厚生省(現厚生労働省)が事務局となった「快適で健康的な住宅に関する検討会議」で、化学物質の指針値等を策定作業により、問題の深刻さから異例のスピードで1997年6月に中間報告としてホルムアルデヒドの室内濃度指針値を公表。
  • 2002年 建築物における衛生的環境の確保に関する法律の改正
    • 特定建築物における新築や大きな模様替等が行われた後、最初に到来する6月 - 9月(気温が高い時期)に、ホルムアルデヒドの測定及び対策が義務づけられた。
  • 2003年 建築基準法の改正
    1. 建築材料をホルムアルデヒドの発散速度によって区分し使用を制限
    2. 換気設備設置の義務付け
    3. 天井裏等の建材の制限
    4. クロルピリホス(防蟻剤)使用建材の制限
  • 2008年 厚生労働省が「建築物における維持管理マニュアル」作成

  1. ^ 西本テツオ 2005, p. 18.
  2. ^ 1994年11月21日号「アエラ」朝日新聞社では、大阪の歯科医が最初に命名したとする。調布市ホームページ「シックハウス症候群に関するシンポジウム」の報告2003年8月12日登録。但し、「Pathogenesis of summer-type hypersensitivity pneumonitis(夏型過敏性肺炎)」Nihon Kyobu Shikkan Gakkai Zasshi.( 1993 Dec;31 Suppl:5-11)では論文の要約ではサマリー中にはHome environmental factors indicate that SHP is a sick house syndromeとあるが、ここでのSick House Syndromeは本項の原因物質が違うため同一ではない。
  3. ^ 笹川征雄「シックハウス症候群 I―シックハウス症候群の定義と化学物質過敏症との違い―」『皮膚の科学』第3巻第4号、日本皮膚科学会大阪地方会・日本皮膚科学会京滋地方会、2004年、343-349頁、ISSN 1347-1813NAID 130004547045 (要購読契約)
  4. ^ 笹川征雄「シックハウス症候群(I)‐シックハウス症候群の定義と化学物質過敏症との鑑別‐:—シックハウス症候群の定義と化学物質過敏症との鑑別—」『西日本皮膚科』第68巻第3号、日本皮膚科学会西部支部、2006年、239-243頁、doi:10.2336/nishinihonhifu.68.239ISSN 0386-9784NAID 130004831542 (要購読契約)
  5. ^ a b 室内濃度指針値(厚生労働省医薬食品局)
  6. ^ 3化学物質を追加へ 室内濃度、規制強化 毎日新聞 2017年8月28日
  7. ^ International Conference Construction Products and Indoor Air Quality Berlin, June 2007 Conference Report (PDF)
  8. ^ a b c d 化学物質の室内濃度指針値についてのQ&A(厚生労働省) (PDF)
  9. ^ 国民生活センターによれば、シックハウスについて、「住宅の高気密化、高断熱化が進み、従来より換気が不十分になっている」ことを問題点の一因としてあげている。
  10. ^ 室内環境学会編「室内環境学概論」東京電機大学出版局(2010)シックハウス経緯
  11. ^ IPM(総合的有害生物管理)の施工方法(厚生労働省健康局) (PDF)
  12. ^ 室内空気質IAQを知ろう Panasonic
  13. ^ 日本物流新聞「工作機械」「工具」「産業機器」「住宅関連」最新ニュース 「ビルダー最前線」株式会社ウッドビルド
  14. ^ ホルムアルデヒドを吸着する天井材「調湿彫り天 室内光反応タイプ」 業界初、ホルムアルデヒド低減性能で国土交通大臣認定(※1)を取得
  15. ^ 松下電工の天井材、ホルムアルデヒド低減性能で大臣認定取得
  16. ^ パナソニック 電気・建築設備エコソリューション カテゴリー検索 内装材>天井材>調湿彫り天>室内光反応タイプ
  17. ^ 製品を使った初の建築基準法施行令20条9大臣認定取得! 白金を組み合わせた触媒技術で、シックハウスの原因にもなる 空気中のVOCを分解する『エアープロットN』、10月25日より販売開始
  18. ^ a b c エアープロットシステムを使った居室は建築基準法施行令 20 条の 9 に基づく「国土交通省大臣認定の居室」になります (PDF)
  19. ^ (財)建材試験センター 建材からのVOC放散速度基準
  20. ^ 新建築技術認定(BCJアグレマン) 事業単位メニュー 評価・評定 一般財団法人日本建築センター
  21. ^ 認定取得技術一覧 新建築技術認定(BCJアグレマン) 事業単位メニュー 評価・評定 一般財団法人日本建築センター


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