コールド‐チェーン【cold chain】
読み方:こーるどちぇーん
⇒低温物流
コールド・チェーン
コールドチェーン
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/02/15 15:51 UTC 版)

コールドチェーン(英語: Cold chain)とは、生鮮食品や医薬品などを生産・輸送・消費の過程で途切れることなく低温に保つ物流方式。日本語では「低温流通体系」とも表記される。この技術により、生鮮食品などの広域流通や長期間の保存が可能となった[1]。技術が確立されるまでは常温での輸送が常識であり、日本料理の象徴とされる寿司や各種の魚料理も、コールドチェーンの普及前と後では全くその形態は異なっている[1]。
概要
アメリカでは第二次世界大戦後直ぐ、冷蔵庫が急速に普及したことで冷凍食品の流通量も増えており、日本はこの影響を強く受けている[1]。日本は1955年(昭和30年)頃から高度経済成長期に突入し、この辺りから冷凍食品に関する消費が増え始めたことで、1959年(昭和34年)に食品衛生法に則った冷凍食品の規格基準が厚生省から公示され、マイナス15度以下での保管が義務付けらており[2]、1965年(昭和40年)には、科学技術庁主導による「コールドチェーン勧告」が出されたことで流通ネットワークの整備が本格的に開始されている[1]。1975年(昭和50年)には、マイナス18度以下で保存することが決定され、今日における低温流通形態が確立している[2]。1960年(昭和35年)頃から家庭用冷蔵庫が普及し始めたことで、それまで冷凍食品は主に業務用であったが、冷蔵庫の普及により家庭用冷凍食品にも応用される形となった[1][2]。
生鮮食品の場合、産地で収穫後すぐに低温貯蔵して出荷、それを温度管理された物流手段で輸送・貯蔵・仕分けなどを行い、品質の悪化を最小限に抑える。このためには、品質を保持する上での冷却方法、温度変化の少ない輸送・貯蔵・仕分方式などの開発が必要である。例えばマグロやカツオは釣り上げた後、すぐさまに船内で急速冷凍され、凍結されたままで市場で売られ、小売店に到着する。凍結にかかる時間が長いほど、或いは温度が高い(たとえ0°C以下であっても)ほど、氷の結晶が成長して食材の細胞が破壊され、風味を著しく低下させる。解凍して再凍結を繰り返すと、最悪の場合スポンジ状になる。これを逆に利用したのが高野豆腐や寒天などフリーズドライである。
さらに1980年代後半からは、宅配便にもクール宅急便(ヤマト運輸)などのような温度管理を行うサービスが登場し、これを利用した通信販売などへの応用も進んだ。
ワクチンなど低温での保存が必要な医薬品を配送する際にも重要となり[3]、低温流通形態が確立したことで、海外との輸出入や日本全国へ配送が可能となった。
保管温度帯区分
温度帯区分や名称は統一されていないが、概ね以下に分類される[4][5]。
温度 | 名称 | 主な製品 | 注記 |
---|---|---|---|
20°C以上 | 加温 | ピザ、フライなど | |
10°Cから20°C | 常温 定温 ドライ |
チョコレート、米など | -15°Cから20°Cまでが一般的に3温度帯と称される。 |
5°Cから-5°C | 冷温 チルド |
乳製品、精肉、鮮魚、漬物など | -3°Cから0°Cまでは氷温(パーシャル)とも称され、主に鮮魚や漬物に使用される温度帯である。 |
-15°C以下 | 冷凍 フローズン |
冷凍食品、アイスクリームなど |
このほか、倉庫業法上では以下の温度区分が使用されている[6]。
温度 | 名称 | 主な製品 |
---|---|---|
0°Cから10°C | C3級 | |
0°Cから-10°C | C2級 | |
-10°Cから-20°C | C1級 | パン生地、冷凍食品など |
-20°Cから-30°C | F1級 | アイスクリームなど |
-30°Cから-40°C | F2級 | |
-40°Cから-50°C | F3級 | 冷凍マグロなど |
-50°C以下 | F4級 |
主要製造メーカー
- 東プレ - 車載式空調機を開発する国内最大手。
- 菱重コールドチェーン - 車載式空調機大手の三菱重工グループ企業。
- デンソー - 車載式空調機を開発する国内メーカー。
- ダイキン - 主にリーファコンテナ用の空調機製造を行う。
- 東光冷熱エンジニアリング - 主に小型車向けの空調機を専業とする産業機械メーカー。
- キャリア - アメリカ、レイセオン・テクノロジーズ傘下の車載式大手空調機メーカー。
- サーモキング - アメリカ、トレイン・テクノロジーズ傘下の車載式大手空調機メーカー。
- FRIGOBLOCK(フリゴブロック) - ヨーロッパにおける車載式空調機器大手企業。ドイツに本社を構えトレイン・テクノロジーズ傘下企業となる。
- ゼクセル - 車載式空調機を開発するロバートボッシュ傘下企業。
脚注
- ^ a b c d e 丹下博文「物流・ロジスティクスの社会性に関する研究 ―コールドチェーン(低温物流)に焦点を当てて―」『経営管理研究所紀要』第264巻、愛知学院大学経営管理研究所、2013年12月25日、89 - 102頁、ISSN 13413821、 NAID 40019954716、2022年5月29日閲覧。
- ^ a b c 鈴木 徹. “魚の凍結から始まった 冷凍技術の歴史と現在”. おいしい冷凍研究所. 2022年7月20日閲覧。
- ^ “アリババ傘下の物流会社、ワクチン輸送で中国医薬品会社と協議”. Reuters (2020年12月3日). 2021年1月19日閲覧。
- ^ “3温度帯とは?食品ECにおける課題や外部委託のメリット”. ECのミカタ. (2022年1月7日)
- ^ “ロジスティクス用語集 3温度帯”. 日本通運. 2023年1月14日閲覧。
- ^ “保管温度帯について”. 一般社団法人 日本冷蔵倉庫協会. 2023年1月14日閲覧。
関連項目
- 冷凍工学
- 冷蔵倉庫
- 冷蔵コンテナ
- 冷凍船
- 食中毒
- HACCP
- フレデリック・マッキンリー・ジョーンズ
- サプライチェーン・マネジメント
- エデンの東 - コールドチェーンにより西海岸のレタスを東海岸へ運ぶビジネスに失敗する話がある。
- ULT冷凍庫 - マイナス40°Cからマイナス80°Cで保管できる超低温冷凍庫。主に分子生物学で使用される。
外部リンク
コールドチェーン
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/01 03:42 UTC 版)
「COVID-19ワクチン」の記事における「コールドチェーン」の解説
「en:ULT freezer#Use for COVID-19 vaccine storage」も参照 ワクチン(およびアジュバント)は、温度変化に対して本質的に不安定であり、サプライチェーン全体を通してコールドチェーン管理を必要とし、通常は2〜8℃(36〜46°F)の温度で保たれる。COVID-19ワクチンの技術は、いくつかの新しい技術の中でも多様であるため、コールドチェーン管理には新たな課題があり、凍結中は安定しているが熱に弱いワクチンもあれば、凍結すべきではないワクチンもあり、また温度を超えて安定しているワクチンもある。凍結による損傷や、現地での接種プロセスにおける人員のトレーニング不足が大きな懸念事項である。複数のCOVID-19ワクチンが承認された場合、ワクチンのコールドチェーンは、気候条件や温度維持のための現地資源が変化する、異なる国の間で、これら全ての温度感受性に対応しなければならない可能性がある。シノファームとSinovacのワクチンは、既存のコールドチェーンシステムを使用して輸送できる第III相試験中の不活化ワクチンの例であるが、CoronaVac自体は凍結する必要はない。 開発中のmodRNAワクチン技術は、大量生産や分解の制御が難しく、超低温での保管や輸送を必要とする場合がある。例として、モデルナのRNAワクチン候補は、氷点下ぎりぎりの温度でコールドチェーン管理をおこなったとしたら保管期間が制限されてしまう。BioNTech-PfizerのRNA候補は、ワクチンの製造から接種までの輸送保管中、-70℃以下での保管を必要とする。 ワクチンバイアルには数回分のワクチンが入っているが、はじめの投与のために穿刺された後は時間制限があり、それを超えると廃棄されなければならないため、現地での低温保管と接種プロセスの管理に注意を払う必要がある。COVID-19ワクチンは、初期展開の間、多くの場所で供給が不足する可能性が高いため、保健当局、各機関および接種スタッフは、供給量が十分な他の一般のワクチンにおいては供給量の30%程度にものぼる腐敗・廃棄処分を、可能な限り回避する事が求められている。 コールドチェーンはさらに、バイクやドローンなどの地方コミュニティにおけるワクチンの輸送の方法、ブースター投与の必要性、希釈剤の使用、医療従事者、子供、高齢者などの脆弱な人々へのアクセスによっても課題となっている。 国によってはワクチンの長期保管に対応した超低温冷凍庫の数が限られていることや、接種が夏期となるため冷凍庫から接種会場までワクチンを小分けして運べる保冷機材も必要となり、費用の負担が大きい。コールドチェーンの末端では医薬品の専門家以外も多く関わることから、機材の不適切な取り扱いにより低温が維持出来なくなり廃棄に至った事例もある。
※この「コールドチェーン」の解説は、「COVID-19ワクチン」の解説の一部です。
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