JR東日本による水利権に関する不正・隠蔽
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「JR東日本信濃川発電所の不正取水問題」の記事における「JR東日本による水利権に関する不正・隠蔽」の解説
信濃川発電所の取水により、信濃川では水流が少なくなった。特に宮中取水ダム取水口から最終的に放水の行われる小千谷発電所及び小千谷第二発電所まではトンネルで送水されるため、60km以上にわたり本流は枯れ川状態となり、魚の遡上が減少し、周囲では地下水も減少した。1985年(昭和60年)に日本国有鉄道に対して、十日町市が取水権の拡大を認めたことにより、信濃川流量の減少は決定的となり、川沿いの漁師は廃業を強いられた。 日本国政府や新潟県・長野県は「信濃川水系河川環境管理基本計画」を1995年(平成7年)に立てて毎秒33トンという流量目標を定め、1997年(平成9年)の河川法改正では、ダムなどの事業者に対して河川流量など環境の維持を求めるようになったが、毎秒7トンしか宮中取水ダムから放水しないJR東日本の姿勢は変わらず、さらに1997年からは、信濃川発電所で得られた電力を、社外へ売電する事業を始めた。 十日町市は国土交通省に対して情報公開請求を申請し、2008年(平成20年)、JR東日本が信濃川から許可以上の水を不正取水していたことが発覚した。JR東日本は国土交通省の許可により、信濃川から発電用の取水を認められていたが、許可された量よりも過大に取水しても、またダム直下への放水が過少になっても、データ上は問題ないようにリミッターを設定していた。 当初、JR東日本は「取水は適正」との説明をし、下流住民からの信濃川本流への増水放水要請に対しても、水利権を楯に拒否していたが、取水量を測る装置のコンピュータプログラムを故意に改竄して、許可水量を超えないように記録するなど、382件の隠蔽工作が判明した。明らかになっているだけでも、1998年から2007年まで不正が確認された。 信濃川を管理する国土交通省北陸地方整備局は、2009年(平成21年)2月13日に「極めて悪質かつ重大な河川法違反が行われていた」として、信濃川発電所の水利権を取り消すと発表。2009年3月10日に取り消し処分が言い渡され、発電を停止した。 これによる電力不足のため、首都圏の電車運行に支障が出ることが懸念されていたが、JR東日本はJR東日本川崎火力発電所のフル稼働と東京電力からの購入により、電力不足分を補うとした。 当面の懸念は、電力の需給が逼迫する2009年夏だったが、不景気・天候不順による電力需要の低迷もあり、東京電力の供給余力が十分残り、間引き運転をしなくてはならない程の電車運行に支障が出ることはなかった。 JR東日本は水利権再申請と発電所の再開に向け、市や漁協に対して河川の流量を維持する維持流量案を提案しているが、漁業協同組合はなお取水量の提示がないことから反発している。また市は「信濃川のあるべき姿市民懇談会」を開いて、JR東日本への問題点指摘や再開にあたっての要求をまとめようとしているが、市民にはこれまでのJRの姿勢に対する不信は根強く残っている。 2010年(平成22年)になり、国土交通省北陸地方整備局は6月9日、前年3月に取り消したJRの水利権を許可した。これを受けて10日、1年3カ月ぶりに水力発電が再開された。 新潟日報が2010年6月9日に報じた内容によれば、許可の内容は、期間が5年間で、最大取水量は取り消し前と同じ毎秒317トンとすることなど。十日町市の宮中取水ダムから下流へ最低限流す量(維持流量)を毎秒40~120トンとして、環境への影響を検証する。維持流量は従来の同7トンより大幅に増える。 同記事によれば、清野智社長は記者会見で、発電停止による影響額が、約100億円に上ると明らかにした。 そして2010年(平成22年)7月に入ると、日本列島は記録的な暑さを記録し、JR東日本管内においても各地で記録更新的な気温となった。このため発電再開が行われていない場合は、運行に影響が出ていた可能性がある。 なお、発電再開後の信濃川発電所の宮中取水ダム放流量は、JR東日本のウェブサイトにて確認することができる。
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