華麗な宮廷文化のパトロンとして
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「アリエノール・ダキテーヌ」の記事における「華麗な宮廷文化のパトロンとして」の解説
祖父譲りの文化人で、フランスで培った学問、十字軍体験を通して学んだ東方文化などを吸収したアリエノールは、吟遊詩人(トルバドゥール・トルヴェール)たちや物語作家、年代記作家たちなどを引き付けて宮廷文化を花開かせた。始まりはヘンリー2世が1153年にイングランドへ旅立ち、夫から留守を託されたアンジェからで、吟遊詩人として有名なベルナール・ド・ヴァンタドゥールをアンジェの宮廷へ迎え入れた。ここでアリエノールから着想を得たベルナールは彼女をモデルにした架空の恋愛詩を多数制作、彼女への思慕とプラトニックな愛を表現した作品を生み出した。ベルナールは後にヘンリー2世からアリエノールとの関係を疑われてイングランドへ連れていかれるも、彼との交流でアリエノールは恋愛をテーマにした疑似裁判『愛の宮廷』の参考にしたという。 また、ベルナールの詩には恋愛物語の主人公『トリスタンとイゾルデ』を引き合いに出した作品もあり、この物語を含め『アーサー王物語』に組み込まれた数多くの物語を生み出した物語作家たちはアリエノールの宮廷に集まり、アーサー王物語は騎士道物語と宮廷恋愛が混じり合った作品として開花、アリエノールもまたアーサー王物語を当時の粗野なイングランド宮廷を洗練させるのに利用したため、アリエノールの宮廷からヨーロッパや東方へと広まっていった。時あたかも、アーサー王物語の原型である『ブリタニア列王史』が完成した時期に当たり(作者ジェフリー・オブ・モンマスは1155年に死去)、ウァース、マリー・ド・フランス、クレティアン・ド・トロワ、ブノワ・ド・サンテ=モール(英語版)、ブリテンのトマらアリエノールの周りから輩出した詩人たちがアーサー王物語の普及に一役買い、アリエノールに献上されたり彼女の宮廷をモデルにした作品も発表された。前者はウァースの『ブリュ物語』、サンテ=モールの『トロイ物語(英語版)』、後者はトロワの『エレックとエニード(英語版)』、『ランスロまたは荷車の騎士』が挙げられる。ヘンリー2世もプランタジネット朝の権威強化に利用するためアーサー王物語の普及に尽力、アーサー王関連の遺品発掘や王の遺体が埋葬されていたというグラストンベリー修道院(英語版)の再建に乗り出し、夫婦揃ってアーサー王物語をヨーロッパに根付かせることに貢献した。 次にアリエノールが宮廷文化を広めたのはポワティエで、ヘンリー2世とは別居状態でポワティエに移った時期に当たる。夫がトマス・ベケットと権力争いをしている最中に、アリエノールはアキテーヌで荒廃した領地の再建とリチャードの権威確立に尽力する傍らで、ポワティエで華麗なイベントを開催、馬上槍試合・行列・祝祭・詩の催しなどを開いて南仏の多くの貴族・騎士たちを招待した。そこで一緒に過ごす子供たちと共に統治し、夫と対立してまでも子供たちの権力保全に尽くす一方、ポワティエの宮廷を騎士道精神と当時の宮廷趣味の中心地に置き、封臣たちや詩人たちの上に君臨していった。 またポワティエでも粗野な貴族たちの子弟の教育に当たり、恋愛の規則を作りそれを通じて貴族たちの振る舞いを洗練させることを思い立った。この計画をルイ7世との間の長女マリーに託し、彼女は宮廷付き司祭アンドレアス・カペラヌス(英語版)がオウィディウスの『恋の技法(英語版)』を引用しつつも内容を変化して書いた『恋愛論』(正しき恋愛技法論とも)を参考にして『愛の宮廷』を開き、男女間の恋愛を疑似裁判に持ち込み、貴婦人が判決を下す変わった催しを行った。愛の宮廷自体は単なる空想の遊びに過ぎなかったが、疑似裁判を通じて男性が女性に愛を捧げる騎士道精神を宮廷恋愛の理想とした『恋愛論』の思想はヨーロッパ宮廷に広まり、騎士の愛する貴婦人への服従は主従関係に擬せられ、貴族階級の流行となっていった。 ポワティエの宮廷は1174年にヘンリー2世の軍勢によりアリエノールが捕らえられたため閉鎖されたが、宮廷文化は受け継がれていった。アリエノールの文化的気質を受け継いだのは同名の四女エレノアで、カスティーリャ王アルフォンソ8世に嫁いだエレノアは母と同じく吟遊詩人たちのパトロンとなり、カスティーリャ宮廷をポワティエと同様の華やかな雰囲気に変えていった。こうして、ポワティエの宮廷文化はカスティーリャのブルゴスとトレドに広まっていった。
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