津波想定
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/06/07 08:52 UTC 版)
「福島第一原子力発電所事故」の記事における「津波想定」の解説
この地震で実際に襲来した津波は遡上高14 - 15mといった規模であり、標高10mの1 - 4号機の敷地では津波の痕跡が4 - 5mの高さの所にまで残っていた(標高13mの5号機・6号機の敷地では0 - 1m)。東京電力は2011年7月8日、コンピュータ解析により、沖合30kmの地点で6つの断層破壊による津波は次々重なり地震発生約51分後津波の高さが13.1mに達し原発を襲ったと発表した。 東電は2002年3月に、福島第一原発で想定する津波の高さを、土木学会が2002年に開発した、歴史的地震の文献や断層モデルを組み合わせる評価法によって計算していた。この結果、津波想定を平均海面(O.P.=小名浜港工事基準面……詳細は「福島第一原子力発電所#海象状況」も参照)から高さ5.7mとした。その後2006年9月に日本の原子力安全委員会の耐震設計審査指針が改定されたことを受けて、東京電力は土木学会の計算方法により津波想定を6.1mに引き上げた。 政府の地震調査委員会は2002年7月、三陸沖から房総沖にかけての日本海溝付近ではどこでもマグニチュード8クラスの地震が起きる可能性があるとの評価結果を発表した。これを受け東京電力は2008年、明治三陸地震と同規模の地震が福島県沖で起こると仮定し、海水取水口付近で津波の高さは8.4 - 10.2m、遡上高は敷地南部で15.7mとの計算結果を得た。2011年8月25日に東京電力は記者会見において、これらの試算は2008年6月の時点で原子力・立地本部副部長へ、2010年6月には副社長原子力・立地本部長へと報告していたと述べた。また、東北地方太平洋沖地震の4日前の2011年3月7日には原子力安全・保安院へも報告されたが、東京電力は速やかな改修を保安院から指示されていなかったとしている。東京電力は15 mを超える津波の遡上も想定していたことになるが、これらの試算を基にした具体的な津波対策を執っていなかった。これらを受けて8月25日、枝野幸男内閣官房長官は「十分に対応する時間的余裕があった」と述べた。事故後、澤田哲生は「防潮堤にコストがかかるならディーゼル発電機などを津波から守るための対策に目を転じることが出来た筈だ」とし、6号機が土木学会の津波評価を受けて非常用ディーゼル発電機の電動機嵩上げを実施した例を提示している。 また、東電は2009年9月、貞観地震の津波も評価し、取水口付近に8.7 - 9.2 mの津波が襲来するものの陸上への遡上はないとした報告を原子力安全・保安院へ行っている。 産業技術総合研究所活断層・地震研究センターの岡村行信センター長らは、2004年頃から貞観津波が残した地中の土砂(津波堆積物)を調査し、痕跡が宮城県石巻市から福島第一原子力発電所に近い福島県浪江町まで分布し、内陸3 - 4 kmまで入り込んでいることを確認した。2009年の国の審議会(原発の耐震指針の改定を受け電力会社が実施した耐震性再評価の中間報告書について検討する審議会)で、大地震や津波を考慮しない理由を東京電力に対して問い質したが、東京電力は「まだ十分な情報がない」「引き続き検討は進めてまいりたい」と答えるにとどまった。震災発生後、岡村センター長は、警告されたデータが完全でないことを理由にリスクを考慮しないという姿勢はおかしいと述べ、「原発であればどんなリスクも当然考慮すべきだ。あれだけ指摘したにもかかわらず、東京電力からは新たな調査結果は出てこなかった。『想定外』とするのは言い訳に過ぎない。もっと真剣に検討してほしかった」と話した。 2012年6月13日の『朝日新聞』と翌14日の『読売新聞』によれば、東京電力は2005年12月から2006年3月まで原子力技術・品質安全部設備設計グループが5号機がどの程度の津波に耐えられるか、想定の津波高さ5.7 mを超え、高さ13.5 mから14 mの津波が襲った場合の分析を入社3年目の技術系社員の社内研修の研究課題とし、分析と報告させ非常用ディーゼル発電機やバッテリーなど全ての電源を失い、原子炉を冷却できなくなるという結果を得ていた。津波対策の費用も5号機および6号機周辺に約1.5 km長の防潮壁を建設する場合は約80億円、建屋の出入り口の防水工事などに約20億円と試算した。これら研究成果と報告を幹部が把握したか不明であり、安全対策として反映されなかった。 2011年4月11日、福島県を訪れた東京電力社長清水正孝は、記者団の「津波への事前の対策が不十分だったのでは」との問いに「国の設計基準に基づいてやってきたが、現実に被災している。今後は国の機関などと津波対策を検討する必要がある」と語った。また東京電力の皷紀男副社長は2011年5月1日、訪問先の福島県飯舘村で「個人的には」とした上で本事故について「人災だと思う」「原発事故は想定外だったという意見もあるが(飯舘村の皆さんのことを考えると)想定外のことも想定しなければならなかった」と述べた。
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