死の起源
死と脱皮の神話 太陽が、すべての被造物を呼び寄せる。その時やって来た者たちに、太陽は不死を与えた。それゆえ、石や岩はいつまでもその形を保ち、海は常に在り、星空は永遠に万物の上にかかっている。蛇も脱皮して生き続ける。人間は、太陽の呼び出しに応じなかったので、死なねばならなくなった。もし人間が従順だったら、蛇のように脱皮して不死になったであろう(メラネシア、ニューブリテン島、バイニング族)。
『月と不死』(ネフスキー)「月と不死」(二) お月様とお天道様が、「人間に変若水(しじみず。=若返りの水)を、蛇に死水(しにみず)を浴びせよ」と、アカリヤザガマに命ずる。アカリヤザガマは変若水の桶と死水の桶をかついで、下界へ降りる。しかし、くたびれて一休みしている間に、蛇が来て変若水を浴びてしまった。アカリヤザガマは、しかたなく人間に死水を浴びせた。その結果、蛇は脱皮して生まれ変わるが、人間は死なねばならぬ運命となった(沖縄県宮古島平良町)。
*蛇の脱皮殻が死を招く→〔本〕8bの『なぜ「星図」が開いていたか』(松本清張)。
『なぜ神々は人間をつくったのか』(シッパー)第10章「地上に人が満ち、死がもたらされた経緯」 始まりの時、ソニは2匹の亀と、2人の人間と、2つの石を作った。それぞれが男と女だった。ソニは、亀と人間に命を与え、石には与えなかった。亀と人間は、「子供が欲しい」と望む。ソニは「生きているものが子供を得たら、死なねばならない」と教えるが、亀と人間は「それでも子供が欲しい」と言った。亀と人間は子供を産み、死んだ。石は子供を求めなかったので、死ぬこともなかった(ナイジェリア、ヌペ族)。
バナナ型神話 創造神が天から、縄に結んだ石を下ろし、人間に与える。人類の始祖の夫婦はこれを受け取らず、「ほかの物が欲しい」と望む。神は石を引き上げ、バナナを下ろす。夫婦は喜んでバナナを食べる。石を受け取れば、永遠の寿命を得られるはずだった。しかしバナナを選んだので、人間の寿命は、子供を持つとすぐ親の木が死んでしまうバナナのように、短くなった(インドネシア、セレベス島)。
*イハナガヒメを妻としなかったため、寿命が短くなった→〔姉妹〕1aの『古事記』上巻。
*神が天から餅を降らせる→〔餅〕8bの月から降った餅(沖縄の伝説)。
うさぎに引っかかれた月(アフリカ・ホッテントットの神話) 天の月が兎に、「地上へ下りて、『月が死んでも生き返るように、人間は死んでもまた生き返る』と伝えて来い」と命じた。ところが兎は、「月は死んでも生き返るが、人間は死んだら生き返れない」と言い間違え、人間は死の運命を得た。月は怒って棒を投げつけ、棒は兎の唇に当たったので、兎の唇は今でも2つに割れている。兎は月の顔を引っかいたので、月の顔には薄黒い傷がついた。
レ・エヨの神話(コッテル『世界神話辞典』アフリカ) レ・エヨはマサイ人の偉大な祖先である。レ・エヨは、もし子供が死ぬことがあれば、「人間よ、死せよ、そして再び蘇(よみがえ)れ。月よ、死せよ、そして離れてとどまれ」と唱えるよう教わった。しかし実際に子供が死んだ時、レ・エヨは「人間よ、死せよ、そして離れてとどまれ。月よ、死せよ、そして再び蘇れ」と言い間違えた。このため、人間ではなく月が、再び蘇る力を持つことになった(東アフリカ。マサイ)。
『南島の神話』(後藤明)第3章「死の起源と死後の世界」 老婆が「私が死んだら埋めて、7日後に掘り起こしなさい。そうすれば私は生き返る」と、若い男女に遺言する。やがて老婆は死に、男は死体を埋める。そのあと、女は果実を採るためにタコノ木に登り、男は下から女の陰部を見てしまう。男に情欲が起こり、2人ははじめて夜を共にして、8日目まで一緒に寝ていた。9日目に気がついて、あわてて墓を掘り起こしたが、老婆は完全に死んでいた。それ以降、人間に死が訪れるようになった(ミクロネシア、ヤップ島)。
★5.死の必要性。
『この世に死があってよかった』(チェコの昔話) 鍛冶屋が死神の活動を封じたので(*→〔椅子〕1)、人間も動物も死ななくなった。当然、害虫の類も不死身になった。畑の穀物は、害虫の群れに食い尽くされた。川は、蛙や水蜘蛛や虫で満ちあふれ、水も飲めない。人間たちは、無数の蚊や蝿や毒虫に囲まれて、ふらふら歩いていた。鍛冶屋は「この世には、やはり死が必要だ」と悟り、死神に大鎌を返し、自由にしてやる。死神は鍛冶屋の首をはね、やがて世の中はもとのすがたに戻った。
『マハーバーラタ』第12巻「寂静の巻」 創造神ブラフマーが多くの生類を造ったが、皆死ななかったので、世界は生物であふれ、息もできぬほどになった。ブラフマーは苛立ち、怒りの火で一挙に全生物を焼き滅ぼそうとする。その時シヴァ神がブラフマーを説得し、生類に誕生と死の繰り返しを配分するようにした。こうして生物は、何度も死に、何度もこの世に還って来るようになった。
*生き返る方法を教える使者の足が遅かったため、人間は死ぬようになった→〔仲介者〕4の『カメレオンとトカゲ』(アフリカの昔話)。
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