控訴趣意書と答弁書
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「別府3億円保険金殺人事件」の記事における「控訴趣意書と答弁書」の解説
荒木は、一審判決を受けて即日控訴した。荒木は、控訴理由として、控訴申立書に「昭和五五年三月二八日大分地方裁判所に於いて死刑の判決宣告を受けたが、右判決は全部不服であるから控訴の申立をする」と記した。裁判が福岡高等裁判所に移ったことで、新たに田中義信・小野山裕治・有馬毅の3弁護士が国選弁護人に選任された。一審の膨大な記録に目を通し控訴趣意書をまとめるのに時間を要し、弁護団による控訴趣意書が提出されたのは一審判決の翌年1981年(昭和56年)の1月31日付であった。一審の裁判記録は、積み上げると高さ3メートルにおよび、3人の弁護人に渡すための複写費用に50万円を要したとされている。 5月21日13時30分、控訴審初公判が開かれ、田中弁護士によって控訴趣意書が朗読された。この中で弁護団は、事故時に荒木が運転していたとする一審の認定に強く反論し、改めて法医学と自動車工学の専門家による鑑定の実施を求めた。そして、「原審は、証拠の取捨選択、証拠の価値判断を誤り、または証拠にもとづかない事実を認定して有罪の判決を言い渡したものであるから、破棄さるべき」とし、「本件公訴事実は、これを証明するに足る証拠は存在しない」として無罪判決を求めた。続いて、検察官の同意と裁判長の許可を得て、被告人の控訴趣意書が弁護人によって代読された。約200ページに及ぶ控訴趣意書の中で、荒木は「確実な証拠はないのに、裁判官の予断と偏見による悪意により、科学性も合理性もない、まったく感情的な判決である」、「故意に事実を歪曲してまで、無理ヤリ被告人を冤罪に落そうとする原審裁判官らのヤリ口は、決して公正たるべき裁判官の為すべき事ではなく、全く悪質としか言い様がない」、「原審裁判官らの頭の中でコネ上げただけの、下司の勘ぐり論を並べ立てただけのものであり、何らの確証も科学的根拠もない」などとして無罪を主張した。そして、一審判決で触れられた結婚相手として母子家庭の未亡人を物色したり結婚後も同居していなかったことなどについても、「私ども日本国民は、法に違反せず他人に迷惑を及ぼしさえしなければ、どのような夫婦生活や私生活をしようとも全く自由であり、それが人並みと異なっているから(あるいは裁判官の価値観や道徳観と異なっているから)といって、『これは真面目な結婚ではなく、犯罪の準備行為である』と言うのは、あまりにもムチャクチャな、乱暴な認定である」などと主張した。荒木はさらに、運転席にいて助かったとする一審判決と助手席にいて助かったという荒木の主張のどちらが真実であるかを明らかにするためとして、裁判所あてに『実験検証請求書』を提出。事故車両と同一か同一に近い型式の車両の「運転席に原審裁判官ら三人のうち一人を乗車させ、助手席に被告人を乗車させ」て、「事故」現場での海中転落実験の実施を求めた。 弁護側の控訴趣意書に対する検察側の答弁は、7月7日の第2回公判で行われた。検察側は、弁護側の主張は判示の一面だけを取り上げて非難したり、一審判決の合理的な判断を一方的に非難しているだけであり、一審判決の事実認定を左右するものではないと主張した。そして、母子家庭を物色して結婚したり、妻子を多額の保険に加入させたことについては弁護側にもほとんど主張や弁明がないことを挙げ、これらはそれだけで十分犯人と推認するに足る事実であり、被告人にこれらについての主張や弁明がないということは、保険金殺人の計画や準備を認めたに等しいと述べた。検察側の答弁が終わると、荒木は「ただ今の検察官答弁に対して、釈明を求めます!」と声を上げた。手には、荒木自身が用意した求釈明書が握られていた。裁判長に「控訴審では、被告人が直接意見を求めることを、認めないことになっている」とたしなめられたが、荒木は「誰のための裁判か」などと言い募ったため、裁判長は弁護人が代読することを認めた。求釈明書は、母子家庭の未亡人と結婚したり妻子を生命保険に加入させたことについて「検察官は、被告人のこれらの行為が、わが国の法に照らして、違法といわれるのでしょうか」、「『合法』であるとするならば、検察官は、国民が合法行為をおこなえば、それが殺人犯罪の証拠であり、殺人犯罪を計画したことになるといわれるのか」など、34ページにわたって検察側を問いただす内容であった。弁護人は、初めて目にした求釈明書の朗読で何度か読み間違えたが、荒木は「ちがう、ちがう……」「しっかり読んでくれなきゃ困る!」などと叱責した。朗読が終わると、裁判長は「現段階で釈明の必要がないと思われる」と発言し、検察側も「答弁するつもりはありません」と一蹴した。 その後、控訴審の審理は、科警研が実施した転落実験を撮影した映像の検証、大分地検で保管されている転落車両の出張検証、別府国際観光港の現場検証などと進んでいった。
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