挿絵と装丁
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/01/01 03:06 UTC 版)
トールキンの書簡と出版社の記録によると、トールキンは本全体の挿絵と装丁に関わったことがわかる。トールキンはすべての要素に関して何度もやり取りを行い、こだわり続けた。レイナー・アンウィンは出版回想録の中で次のように言っている:「1937年だけでもトールキンはジョージ・アレン&アンウィン社宛に26通もの手紙を書いている。細部のわたり雄弁で、しばしば辛辣だが非常に丁重で腹立たしいほどに的確なものだったが、今日ではどんなに有名だろうと、あれほどまでに綿密な配慮を受ける作家はいないだろう。」 トールキンは最初5つの地図を提案したが、地図についても検討・議論が行われた。トールキンは、スロールの地図を最初の言及の箇所に付け加え(つまり製本後に糊付けで加え)、その裏面には光にかざして見た時に見えるように月光文字(アングロサクソンルーン文字)を配したいと願った。結局は、費用の問題と、また地図の濃淡が出し難いということで、「スロールの地図」と「荒れ地の国の地図」の2つを、クリーム色の紙に赤と黒のインクで印刷して、見返しに入れることとなった。 元々は、アレン&アンウィン社は本には見返しの地図だけしか挿絵を入れない方針だったが、トールキンが最初に提出したスケッチに出版社のスタッフは魅了され、余分な費用がかかっても本の値段を上げずにスケッチを含めることにした。これに気を良くして、トールキンはまた一連の挿絵を提供した。出版社はこれもすべて使うことに決め、初版には10の白黒の挿絵と、見返しに2つの地図が入ることとなった。挿絵で描かれた場面は次のとおり「お山:流れの向こうのホビット村」、「トロル」、「山の小道」、「ワシの巣からゴブリンの裏門の方角、西に霧降り山脈を臨む」、「ビヨルンの広間」、「闇の森」、「エルフ王の門」、「湖の町」、「表門」。一つを除いてすべての挿絵はページ全面を使っており、「闇の森」の挿絵は、それだけ光沢紙に別刷りされた。 出版社はトールキンの腕前に満足し、本のカバーのデザインも依頼した。この企画でも、繰り返し繰り返しの検討と書簡のやり取りが行われ、トールキンは自分の絵の手腕について常に卑下した態度をとっていた。絵を取り囲むルーン文字は、本の題名と著者や出版社の情報についての英語を音訳したものである。最初のカバー・デザインでは、濃淡の数色が使われていたが、トールキンは何度もやり直し、その度に使用する色の数は減った。最終的なデザインでは、4色が使われている。費用を気にした出版社は、太陽の赤の色をやめ、最終的に白地の紙に黒・青・緑のインクのみを使うことにした。 出版社の制作スタッフが製本デザインをしたが、トールキンはいくつかの点に異議を唱えた。何度か検討を繰り返した結果、最終的なデザインは、ほとんどトールキンのものと言えるものとなった。背表紙にはアングロサクソンルーン文字が見える: "þ" が2つ(Thráin と Thrór) と"D" が1つ(Door)である。表紙は表と裏が互いの鏡像になっており、トールキンのスタイルに特徴的な細長いドラゴンが下の縁にそって型押しされ、上の縁にそっては霧降り山脈のスケッチが型押しされている。 トールキンは自分の挿絵が本に使われることになった時、カラーの別刷り図版の提案もした。出版社はこれに関しては折れてくれなかったため、トールキンは6ヶ月ほど後に出版されることになっていたアメリカ版に期待を寄せた。ホウトン・ミフリン社はトールキンの希望に応え、口絵(「お山:流れの向こうのホビット村」)をカラーに差し替えた他、新たなカラー図版を加えた:「裂け谷」、「ビルボ、まぶしい朝日で目覚める」、「ビルボ、筏のエルフの小屋へ到着」、「スマウグとの会話」である。「スマウグとの会話」に描かれた樽には、トールキンが創作したテングワール文字で書かれたドワーフの呪いが見え、2つの"þ" ("Th")のルーン文字のサインがある。追加された挿絵は非常に魅力的だったので、ジョージ・アレン&アンウィン社も第二刷りの際には、「ビルボ、まぶしい朝日で目覚める」以外のカラー図版を採用した。 色々な版があり、版によって挿絵もまちまちである。多くはオリジナルの構想に大まかにであれ準じたものであるが、特に多くの翻訳版では、別のアーティストによって挿絵が描かれている。廉価版、特にペーパーバックでは地図以外は挿絵なしのものもある。1942年の「子供ブック・クラブ」の版には、白黒の絵は含まれているが地図がなく、これは例外である。 トールキンによるルーン文字の使用は、装飾意匠としてのものも物語中の魔法の記号としてのものも、ニューエイジや秘教的文学において、ルーン文字が広まった主な原因として引き合いに出されている。ニューエイジも秘教的文学も、1970年代のカウンターカルチャー におけるトールキン人気に端を発したものだからである。
※この「挿絵と装丁」の解説は、「ホビットの冒険」の解説の一部です。
「挿絵と装丁」を含む「ホビットの冒険」の記事については、「ホビットの冒険」の概要を参照ください。
- 挿絵と装丁のページへのリンク