憲法改正要綱とマッカーサー・ノートとGHQ原案
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「日本国憲法第9条」の記事における「憲法改正要綱とマッカーサー・ノートとGHQ原案」の解説
終戦後、憲法改正に着手した日本政府は大日本帝国憲法の一部条項を修正した、陸海軍をまとめて「軍」とする、軍事行動には議会の賛成を必要とする、という規定のみを盛り込んで済ませるつもりであった。 1946年(昭和21年)2月8日に憲法問題調査委員会(松本烝治委員長)がGHQに提出した「憲法改正要綱」(松本案)では次の条文となっている。 憲法改正要綱五第十一条中ニ「陸海軍」トアルヲ「軍」ト改メ且第十二条ノ規定ヲ改メ軍ノ編制及常備兵額ハ法律ヲ以テ之ヲ定ムルモノトスルコト(要綱二十参照) 六第十三条ノ規定ヲ改メ戦ヲ宣シ和ヲ講シ又ハ法律ヲ以テ定ムルヲ要スル事項ニ関ル条約若ハ国ニ重大ナル義務ヲ負ハシムル条約ヲ締結スルニハ帝国議会ノ協賛ヲ経ルヲ要スルモノトスルコト但シ内外ノ情形ニ因リ帝国議会ノ召集ヲ待ツコト能ハサル緊急ノ必要アルトキハ帝国議会常置委員ノ諮詢ヲ経ルヲ以テ足ルモノトシ此ノ場合ニ於テハ次ノ会期ニ於テ帝国議会ニ報告シ其ノ承諾ヲ求ムヘキモノトスルコト これに対して、連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)では戦争と軍備の放棄の継続が画策されていた。その意思は、憲法草案を起草するに際して守るべき三原則として、最高司令官ダグラス・マッカーサーがホイットニー民政局長(憲法草案起草の責任者)に示した「マッカーサー・ノート」に表れている。その三原則のうちの第二原則は以下の通り。 マッカーサー三原則(「マッカーサーノート」)第二原則(原文) War as a sovereign right of the nation is abolished. Japan renounces it as an instrumentality for settling its disputes and even for preserving its own security. It relies upon the higher ideals which are now stirring the world for its defense and its protection. No Japanese Army, Navy, or Air Force will ever be authorized and no rights of belligerency will ever be conferred upon any Japanese force. (日本語訳) 国権の発動たる戦争は、廃止する。日本は、紛争解決のための手段としての戦争、さらに自己の安全を保持するための手段としての戦争をも、放棄する。日本はその防衛と保護を、今や世界を動かしつつある崇高な理想に委ねる。日本が陸海空軍を持つ権能は、将来も与えられることはなく、交戦権が日本軍に与えられることもない。 この指令を受けて作成された「GHQ原案」(マッカーサー草案)には次の条文が含まれていた。なお、この段階では現行の9条に相当する条文は8条に置かれていた。 GHQ原案(原文) Chapter II Renunciation of WarArticle VIII War as a sovereign right of the nation is abolished. The threat or use of force is forever renounced as a means for settling disputes with any other nation. No army, navy, air force, or other war potential will ever be authorized and no rights of belligerency will ever be conferred upon the State. (外務省仮訳) 第二章 戦争ノ廃棄第八条 国民ノ一主権トシテノ戦争ハ之ヲ廃止ス他ノ国民トノ紛争解決ノ手段トシテノ武力ノ威嚇又ハ使用ハ永久ニ之ヲ廃棄ス陸軍、海軍、空軍又ハ其ノ他ノ戦力ハ決シテ許諾セラルルコト無カルヘク又交戦状態ノ権利ハ決シテ国家ニ授与セラルルコト無カルヘシ 次のような点でGHQ原案はマッカーサー・ノートとは異なる。 マッカーサー・ノート第二原則第2文「even for preserving its own security(自己の安全を保持するための手段としてさえも)」に該当する部分が削除された。これはすべての国は自国を守る固有の権利を有しており、自衛権の存在・行使を明文で否定することは不適当であるとGHQ原案の作成にあたった運営委員会の法律家らが考えたためとされる。マッカーサーも後年の回想録の中で憲法9条は自衛権まで放棄したものではないと述べている。 「The threat or use of force(武力による威嚇又は使用)」の文言が加えられた。これは前年に国際連合原加盟国によって調印されていた国連憲章2条4を受けたものとされている。 「forever(永久に)」の文言が加えられた。 マッカーサー・ノート第二原則第3文に該当する部分については修正ののち前文第2項冒頭に回されることとなった。 マッカーサー・ノート第二原則第4文に該当する部分については段落を分けないこととした。 「other war potential(その他の戦力)」の文言が加えられた。これは第一次世界大戦以後の戦争が国家の総力戦となったことを意識したものとされている。 「any japanese force(日本軍)」から「the state(国)」に文言がそれぞれ変更された。 なお、GHQ案の第一次案では二段落構成から一段落構成に改められていたが、最終案では二段落構成に戻されている。
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