バッハ:幻想曲とフーガ イ短調
英語表記/番号 | 出版情報 | |
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バッハ:幻想曲とフーガ イ短調 | Fantasie und Fuge a-Moll BWV 904 | 出版年: 1839年 初版出版地/出版社: Peters |
作品解説
大規模なヴィルトゥオーゾ・フーガのひとつ。バッハの最後の弟子の一人、J.C.キッテルの筆写譜などに伝えられる。それ以前の資料ではファンタジアとフーガが別々に現れるため、これらを対にしたのはキッテルだった可能性もある。成立年は不明だが、曲の様式は古風である。
ファンタジアでは、12小節に及ぶリトルネッロの間に、リトルネッロから取り出した主題が展開される。リトルネッロは冒頭と終結はまったく同形だが、間の2回は移調し装飾を加えた形で現れる。声部書法はかなり自由で、リトルネッロでは4声以上、エピソード(展開部分)では概ね3声だが、和音を加えて音の厚みを増すことには何らの躊躇が見られない。しかしそれでもこの曲がきわめて古い響きを持つのは、協奏曲風の対比の原理がまったく働いていない上、全声部が参加する完全終止定型がリトルネッロ以外の所で容易に成立しないことにある。全体はどこかの声部の掛留音によって常に休みなく続く。こうした厳粛な雰囲気は、オルガン用作品を思わせる。また、協和音中心の和声進行が哀調を帯びた透明感のある響きを生み出す。それは、半音階による直截的な感情表出ではなく、表面上は落ち着きを保ちながらも慟哭を秘めた、王者の哀しみである。
フーガは3部分に分かれ、対照的な2つの主題を持つ。前半と後半の始まりにそれぞれの主題を提示、第3部、すなわち後半の後半部分で2つの主題を組み合わせた展開が行われる。対主題の反行形や転回も交えてかなり複雑な対位法の技巧が駆使され、全体は概ね4声を維持し、そのため響きは重厚になる。演奏に際しては、声部の明快な弾き分けのみならず、手の交差や幅の広い音程など高い要求がなされるが、2つの主題の対比が織り成す緊張感は二重フーガの醍醐味であり、とりわけ演奏する者にとって充実感のある作品である。
バッハ:幻想曲とフーガ イ短調
英語表記/番号 | 出版情報 | |
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バッハ:幻想曲とフーガ イ短調 | Fantasie und Fuge a-Moll BWV 944 | 作曲年: 1707-13年 出版年: 1829年 初版出版地/出版社: Peters |
作品解説
《アンドレーアス・バッハ本》所収。ヨハン・アンドレーアスはバッハの甥。バッハに長く師事した兄ヨハン・ベルンハルトの楽譜帖を受け継ぎ、1754年という年号とともに記名したもので、現在はライプツィヒ市立図書館が所蔵する。冒頭10小節の〈ファンタジア〉は、この資料にのみ現れる。このアルペジオについては、たとえば《半音階的幻想曲》BWV 903第28小節前半 においてバッハが実際に示した奏法が参考になる。また、F. リストは独自のリアライゼーションを校訂譜において披露している。(リスト編曲は現在でも入手可能である。)バッハは時々、簡略な和音のみを記して奏者に補完を促すような書き方をしたが、大抵は《半音階的幻想曲》のように解法を添えた。このように何らの指示もないのはきわめて珍しい。また、アンドレーアス・バッハ本以外の資料ではこの部分を省いてフーガのみが書き写されている。バッハはおそらくこの状態を最終的な完成稿とは考えていなかったのだろう。10小節分の和音が、あるいは本格的な前奏曲のスケッチだった可能性もあるし、単に即興演奏のヒントを書きつけたのかも知れない。
フーガはヴィルトゥオーゾ的な効果の高い、長大な作品である。全体は以下のような論理的な構成を持つ。主題提示(イ短調)-展開(ホ短調)-展開(ニ短調)-展開(ハ長調)-再現部:主題提示(ホ短調-イ短調)-展開-コーダ。前半部の最初の展開(ホ短調)は徐々に音域が高まり、次の展開(ニ短調)では幅広く中音域を維持し、三度目の展開(ハ長調)でまた徐々に低くなる。再現部とコーダはそれぞれ2オクターヴ半もの下行アルペジオで区切られる。再現部は属調主題でバスから始まり、全体の音域が低くなったところで、待ち望まれた主調主題が高らかに開始する。以後の展開は、主題の断片を短い周期でつなぎ合わせ、和声がくるくると変化し、コーダ冒頭の主題提示を準備する。ここが主題としては全曲を通じて最高の音域となる。コーダでも高音と低音を往復し、主題を再提示して終結する。こうした音域の移動は、チェンバロの複数の鍵盤を使い分けるなら、立体的な効果が望める。現代のピアノでは、音域ごとの音色と強弱の変化に注意しなければならないが、展開部分の掛留を使った掛け合いは、ピアノこそ得意とする語法である。16分音符が休みなく続き、速く弾けば華麗な技巧を誇示することができようし、ゆっくりとフーガにしては珍しい3拍子を進めれば、和声の変化を楽しむこともできる。
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