地上げと再生
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/03/27 18:53 UTC 版)
1980年代にはバブル景気により日本の地価が急騰し、新宿ゴールデン街においても再開発の噂が囁かれるようになった。土地の買い占めを狙う地上げ屋が出没し、新宿ゴールデン街一帯は激しい地上げに晒されることになった。既存店舗のオーナーらは地上げに反対する動きを見せ、双方の対立が深刻化した。1986年には不審火騒ぎが起きるに至り、危機感を抱いた既存店舗のオーナーらは「新宿花園ゴールデン街を守ろう会」を結成し、地上げや再開発に反対する活動を展開した。新宿ゴールデン街では土地や建物の権利関係が極めて複雑なため、守ろう会では、まず法務局に通って土地や家屋の権利者を一件ずつ確認する作業から始めるなど、地道な反対活動を続けていった。年末には遊歩道で「餅つき大会」を開催、振る舞い酒などで「新宿ゴールデン街は元気ですよ!」と呼びかけもした。一方で、守ろう会の代表がオーナーを務める店は、その後、何度も不審火の被害に遭った。だが、店の焼け跡に椅子を並べて露店にし、焼け残った冷蔵庫内のビールとつまみのみで営業再開したところ、他店から料理や酒の差し入れが相次ぎ、火災見舞いに訪れた常連客に加えて通りがかりの人も交え、オーナーを励ます宴会が開催されたという。 この街に愛着を持つ者も多く、現在でも1950年代の雰囲気を残す場所として残そうという動きが続いた。バブル崩壊により地上げは終わったが、今度は地上げにより閉店した店がほったらかしの状態になった。景気も悪くなり客足もさらに遠のき、ゴーストタウンのようになった。しかし、店のオーナーらが団結し、区に道路、下水、ガスなどのインフラ整備を申し入れたため、区の支援を受けて大規模な整備が行われた。このインフラ整備により、若者たちが新たな店を出すようになり、再び空き店舗がどんどん減っていった。2010年代になり店のオーナーらが団結し「さくら祭り」「新宿ゴールデン街納涼感謝祭」などのイベントを開催し賑わいを取り戻す活動を展開した。その結果、新宿ゴールデン街が再び生まれ変わった。このころの常連客としては、漫画家の井上和郎、安倍夜郎、作曲家の沢田完、歌人の鳥居、小説家の樋口毅宏、矢月秀作、平山夢明、柳美里、梁石日、岩井志麻子、翻訳家の柳下毅一郎、評論家の町山智浩、編集者の中瀬ゆかり、映画監督の金子修介、園子温、いまおかしんじ、山下敦弘、カルロス・ベルムト、アニメーション演出家の岸誠二、脚本家の向井康介、上江洲誠、俳優の佐野史郎、大杉漣、斎藤工、町田啓太、アーティストのヴィヴィアン佐藤、アートディレクターの高橋ヨシキ、ゲームクリエイターの柴尾英令、時田貴司、プログラマの藤川真一、音楽家の中原昌也、お笑い芸人の水道橋博士、声優の古川登志夫、緒方恵美、置鮎龍太郎、山田真一、神谷浩史、歌手のコムアイ、掟ポルシェ、アイドルの最上もが、プロデューサーの大月俊倫、新聞配達員の新宿タイガー、などが知られている。さらに、映画監督の広崎哲也が映画上映会を定期的に開催するなど、文化人によるイベントも開催されるようになった。 また、新宿ゴールデン街のバーで働いていた者の中からも、小説家の李良枝、俳優の野見隆明、アイドルの水野しず、アコーディオニストの小春、といった著名な活躍をする者も現れた。なお、文化人だけでなく政界や官界、財界の関係者も数多く通っており、警察官僚の坂本勝、文部官僚の寺脇研、前川喜平、などが常連として知られている。 2016年4月12日13時30分頃に、この新宿ゴールデン街内の木造2階建ての建物が燃え、この影響で店舗兼住宅など3棟、およそ300平方メートルが焼ける火事が発生した。火元となった2階建ての建物は築数十年経っていて、老朽化していた。なお、4月12日の夜はいつものように営業する店があった一方、この火事での「焦げ臭いにおい」の影響によって、営業を取りやめる店もあった。4月13日、警視庁は防犯カメラの映像から住所不定無職の66歳のホームレスの男を、建造物侵入の疑いで逮捕したことを発表。捜査関係者によれば、火元になっていた建物の2階にあるはずの火災報知器が、改装工事のため、取り外されて、作動しなかったという。 2017年5月9日、東京地方裁判所での初公判で非現住建造物等放火と建造物侵入の罪に問われた男は警察の取り調べて認めていた放火を否認、建物への侵入は認めた。弁護側は火災の原因を火の不始末や電気やガスだと主張したが7月20日、求刑懲役4年に対して懲役3年6か月の実刑判決を言い渡した。駒田秀和裁判長は「建物に侵入した時点では異常がなく、ほかの人物による放火の可能性はない」として放火の無罪主張を退け、290軒以上の飲食店が軒を連ねている場所で不特定多数の人に被害が及ぶ可能性もあったとした。
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