収用委員会の機能停止
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/02/18 03:32 UTC 版)
「千葉県収用委員会会長襲撃事件」の記事における「収用委員会の機能停止」の解説
事件については、地元紙である千葉日報の朝刊でさえ社会面の片隅に掲載するだけの小さな取り扱いであったが、その後の千葉県に与えた影響は甚大であった。 中核派は「農民殺しの収用委会長に鉄槌」などと犯行声明を出し、収用委員会を「農民から農地を強奪するための許すことのできない権力機関」として「人民が生きていくための死活的反撃」と犯行を自画自賛するのみに留まらなかった。 中核派は被害者の小川弁護士を含む7人の収用委員と2人の予備委員全員の住所と電話番号を機関紙『前進』の一面に掲載して「収用委を実力解体せよ」「収用委の総辞任かちとれ」と呼びかけ、委員・予備委員には「家族ともども処刑台に乗っていると思え」と更なるテロリズムを宣言した。 委員らの自宅には「委員をやめないと命の保証はしない」「今度はお前の番だ。次は怪我ではすまさないぞ」「収用委員を辞めないと、家族にも被害がおよぶぞ」「お前は殺人者だ。農民殺しだ」などと脅迫の手紙や電話などが昼夜を分かたず組織的かつ執拗に送り続けられ、自宅に救急車や葬儀屋、大量の寿司の出前を勝手に呼ばれるなどのあらゆる陰湿な嫌がらせ、殺傷を目的とした時限式発火装置による家屋への放火、圧力鍋を用いた爆弾によるゲリラ、遂には収用委員の親族である小学生の誘拐未遂事件まで起きた。脅迫電話の内容には、外部では知りえないはずの委員と知事の極秘会談の事柄まで含まれており、県内部での中核派への内通者の存在が疑われた。 このため、襲撃事件直後は「暴力に屈しない」としていた収用委員らも、10月24日までに全員が沼田武千葉県知事に辞表を提出するに至った。委員らは記者会見で、妻がノイローゼで入院するなど家族への影響が出ていることを明らかにした上で「疲労困憊その職にたえずの心境だ」と述べた。中核派は後任の委員を委嘱される可能性がある学識経験者や弁護士らに対しても脅迫状を送りつけ、沼田知事は11月24日、「成田空港の建設は国家的事業であり、土地収用は国からの委任事務であることから、国が万全の対策を講じて取り組んでほしい」などのコメントを出して、後任を選任しないまま委員らの辞表を受理した。 こうして千葉県収用委員会は事務局のみとなり、中核派の目論見通り収用委員会は機能停止という前代未聞の事態に陥った。新東京国際空港の建設を強行に推進していた運輸省や日本国政府にとっては、土地収用や行政代執行が出来なくなる想定外の出来事であった。また、中核派は公共用地の取得に関する特別措置法に基づく建設大臣による収用採決を阻止するため、1989年(平成元年)1月29日に公共用地審議会会長代理宅に対する爆破ゲリラ事件も起こしている。 このような事態に、沼田知事が「このような暴挙はまさに民主主義、法治主義に対する重大な挑戦であり、断じて許されない」とコメントしたのを始め、中核派は世論からの強い批難を浴びることとなり、小川弁護士が所属する日本弁護士連合会や北原派と対立し実力闘争から距離を置くようになっていた反対同盟熱田派からも事件を批判する声明を出された。しかし、収用委員会機能停止後も、中核派は県議会関係者宅や元委員宅への放火を引き続き行っている。 この余波で、特定空港周辺航空機騒音対策特別措置法の適用地区を決定する手続きが中断されたほか、千葉県では収用委員会が機能しないという異常事態が長らく継続した。そのため、新東京国際空港拡張のみならず、用地取得が難航していた東葉高速線敷設や東京外かく環状道路(外環道)建設などを始めとする千葉県内のインフラ全般において収用を行えなくなり、整備の停滞や建設価格上昇に伴う公共サービスのコスト増大など著しい弊害が生じることとなった。
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