判断傾向とキャスティング・ボート
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「サンドラ・デイ・オコナー」の記事における「判断傾向とキャスティング・ボート」の解説
アルベルト・ゴンザレスの司法長官就任宣誓式の後にゴンザレス長官を紹介するオコナー判事。中央はゴンザレス夫人。 オコナーは、新連邦主義(New Federalism)派に属しており、個々の案件に関してできるだけ論点を絞ったアプローチを取った。これは、過度な一般論に走ることによって将来の案件で身動きが取れなくなることを避けるためである。就任当初は、彼女の立場はレンキストと同様の保守的なもののように思われた。事実、就任直後の3年間は、全案件の87%においてレンキストと同じ立場を取った。その後、1998年までの彼女のレンキストとの合意率は93.4%に上ることもあれば、63.2%と低い年もあったが、内3年間は90%をこえており、他のどの判事よりもレンキストと同じ立場を取る傾向が高かった。(とはいっても、実は、彼女との合意率が最も高かったのは、別の保守派の判事であった。)1998年以降、連邦最高裁の判事構成がさらに保守化する(アンソニー・ケネディ(Anthony Kennedy)がルイス・パウエル(Lewis Powell)に、そして、クラレンス・トーマス(Clarence Thomas)がサーグッド・マーシャルに取って代わった。)につれて、オコナーは、中間派として、保守・リベラルの意見が分かれる案件において多数派を構成するための最後の一人としてキャスティング・ボート(swing vote))を握ることが多くなった。 オコナーの保守派から中間派へのシフト(それは比較的小さなものではあったが)の原因のひとつには、クラレンス・トーマスの強烈な保守的立場があったように思われる。トーマスと同じ結論に達した場合であっても、オコナーは、トーマスの判決理由に同調することはせずに、独自の意見を書くことが多かった。また、1992年には、トーマスが反対意見を述べた案件において、オコナーが彼と同調することは一度もなかった。 ウィラメット大学法科大学院のスティーブン・グリーン(Steven Green)教授は、9年間にわたって政教分離のためのアメリカ人連合(Americans United for Separation of Church and State)の最高法務責任者として連邦最高裁で何度も弁論を行った法律家であるが、オコナーについて、「彼女は最高裁における調整役であり、法をいずれの方向にも拡散させることについて非常に慎重な態度を取る」と論評している。グリーンはさらに、オコナーは他の判事のうちの何名かとは違って、「それぞれの案件について、開かれた態度で接する」と述べている。 以下、オコナーがキャスティング・ボートを投じた案件をいくつか紹介する。 マコンネル対連邦選挙管理委員会事件(McConnell v. Federal Election Commission, 540 U.S. 93 (2003)) この判決は、いわゆる「ソフトマネー」の使途を制限したマケイン=ファインゴールド選挙資金法(McCain-Feingold Act)の規定のほとんどを合憲と判断したものである。 グラッター対ボリンジャー事件(Grutter v. Bollinger, 539 U.S. 306 (2003))、グラッツ対ボリンジャー事件(Gratz v. Bollinger, 539 U.S. 244 (2003)) オコナーは、グラッター事件において多数意見を書き、グラッツ事件では多数意見に賛成した。これらの判決においては、ミシガン大学の学部における入学選抜プログラムは憲法違反の逆差別にあたるが、同大学ロー・スクールの選抜方法はより自制的内容のアファーマティブ・アクションで合憲であるとされた。 ゼルマン対シモンズ=ハリス事件(Zelman v. Simmons-Harris, 536 U.S. 649 (2002)) オコナーは、宗教団体により設立された学校への支払いに教育バウチャーを充てることは、連邦憲法修正第1条の国教樹立禁止条項に違反しないとした多数意見に賛成した。 アメリカボーイスカウト連合対デイル事件(Boy Scouts of America v. Dale, 530 U.S. 640 (2000)) オコナーは、ニュージャージー州がボーイスカウトの師団長に対して性的志向に基づく差別を禁じることは、集会の自由を保障した憲法に違反するとした多数意見に賛成した。 合衆国対ロペス(U.S. v. Lopez, 514 U.S. 549 (1995)) オコナーは、1990年スクールゾーン銃規制法(Gun-Free School Zones Act of 1990)は、通商条項によって連邦議会に与えられた権限を逸脱するもので違憲であるとした多数意見に賛成した。 ブッシュ対ゴア事件 (Bush v. Gore, 531 U.S. 98 (2000)) 2000年12月12日に下されたこの判決において、オコナーは、他の4人の判事とともに、2000年アメリカ合衆国大統領選挙におけるゴア陣営によるフロリダ州での投票再集計の請求を退け、同選挙にピリオドを打った。この判決に関しては、連邦最高裁が政治的問題に不当に関与したという批判がある。一方で、最高裁が、本判決が先例とならないように、「選挙手続における平等の保護という問題は多くの複雑な問題が絡み合うものであり、本件における我々の検討は本件の事実関係にのみ適用される。」と述べたことを評価する者もいる。 他にも、オコナーは、著名な判決において重要な役割を果たしている。その例としては次のようなものがある。 ウェブスター対リプロダクティブ・ヘルス・サービシズ事件(Webster v. Reproductive Health Services, 492 U.S. 490 (1989)) この判決は、次のような条件を満たす場合には州による妊娠中絶の規制は合憲であるとした。すなわち、母体の健康を考慮した除外規定があり、かつ、ロー対ウェイド判決が示した妊娠3期に応じた規制の制限に反していないこと、の二つである。オコナーは、レンキスト、スカリア、ケネディ、ホワイトからなる多数意見に賛成をしたが、別途補足意見を述べ、ロー対ウェイド判決を明示的に変更することを拒絶した。 ローレンス対テキサス州事件(Lawrence v. Texas, 539 U.S. 558 (2003)) 本事件において、オコナーは次のような補足意見を述べた。すなわち、同性愛者間の肛門性交のみを禁じ、異性愛者間のそれを禁じない州法は、アメリカ合衆国憲法修正第14条の平等保護規定に違反するというものである。オコナーは、そのような法律が違憲であるという多数意見の結論には賛成したが、その理由を修正第14条の実体的デュー・プロセス規定違反に求める立場には反対した。平等保護規定に基づく判断に立った場合には、同性愛者間のものであると異性愛者間のものであるとを問わずに肛門性交を禁ずることは合憲とされることになる。 2005年2月22日、レンキスト長官もジョン・ポール・スティーブンス(John Paul Stevens)判事も欠席のもと、オコナーは、スティーブンス判事に次いで在職期間が長い陪席判事として、ケロ対ニュー・ロンドン市事件(Kelo v. City of New London, 545 U.S. 469 (2005))における口頭弁論を主宰した。これにより彼女は、連邦最高裁における口頭弁論を主宰した最初の女性となった。
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