低賃金労働者(中央年収の3分の2以下)の推移傾向
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/02 06:03 UTC 版)
「貧困線」の記事における「低賃金労働者(中央年収の3分の2以下)の推移傾向」の解説
被用者全体に占める相対的低賃金層(賃金の中央値の3分の2未満の賃金水準)の人数は、前述した被用者の14%に当たる389.7.5万人であり、割合は1980年以来最低であり、人数は1997年以来最低であった。これは、25歳以上層向けの新たな最低賃金制度として、2016年4月導入された「全国生活賃金」が影響しているとみている。全国生活賃金は、25歳以上の労働者について、従来の全国最低賃金額(21歳以上に適用)より高い最低賃金額を設定したものであり、対象年齢を2021年4月には23歳以上、2024年には21歳以上に引き下げる予定をしている。(2024年までに平均賃金の約3分の2の水準への引き上げが目標とされている。当初、2024年時点の賃金水準に関する予測から10.69ポンド[±30ペンス]を目標額に定めたが、新型コロナ感染症の流行による雇用情勢悪化により、10.32ポンドに引き下げている。)2016年4月時点で時間当たり21~24歳は6.50ポンド、25歳以上は7.20ポンドであったが、2021年4月時点では、21~24歳は8.36ポンド、25歳以上は8.91ポンドであった。導入前の2015年4月時点では、21%(約542.0万人)であったが、制度導入後の2016年には、1986年以来20%を切り、2020年には15%を切っている。2019年に比べて低賃金層が全体で約34万人減少した。その殆どが女性低賃金労働者であり、約33.0万人減少している。また特にパートタイムの女性は約19%減少している。そして、年齢層別では、16歳から20歳の若者が約15万人減少した。 低賃金層の比率が高い業種は、前述した宿泊・飲食サービス業(58%)の他に、農業(約29%,約5.5万人)、美術・娯楽業(約28%,約15.3万人)などである。また、パートタイム労働者では前述の25%が低賃金層に属すると推計されている(フルタイム労働者では10%)。 今後も最低賃金の引き上げにより、低賃金層の減少は継続するとみているものの、2020年にも依然として400万人以上が低賃金職種に従事していると予測、最低賃金の引き上げのみでは政策的対応として不十分との見方を示している。 また、近年の最低賃金の引き上げにより、国内の低賃金層の比率は減少したものの、こうした層の賃金水準は持続的に低迷している状況にある。報告書「Low Pay Britain 2018」はその要因として、 より賃金の高い仕事への移行のしにくさ 低賃金職種における昇進のしにくさがある。例えば、代表的な低賃金職種である小売業の販売補助職では、「売り場から最上階へ」(from shop floor to top floor)という表現でしばしば成功のストーリーが語られるものの、実際により高い職種に移行している層はごくわずかである(5年後に監督あるいは管理的職種に昇進している比率は4%)。 少数の企業による寡占 少数の企業が支配的な業種や地域では、賃金水準が低迷する傾向にあり、低賃金層は特にその影響を強く受ける傾向にあるとしている。例えば、国内企業のごく一部にすぎない従業員規模5000人以上の企業が、低賃金労働者の20%を雇用している。 特に女性労働者において賃金水準が向上しにくい傾向 低賃金労働者の比率が高い女性労働者(就業者に占める低賃金労働者の比率は、女性で19%、男性では12%)では、より顕著に低賃金への滞留の傾向がみられるという。転職する場合にも、他の低賃金の仕事に移る場合が多く、また男性の低賃金層に比べて、少数の大企業に雇用されている比率が高い。 などの3点を挙げた。 報告書「Low Pay Britain 2018」は、しばしばみられる低賃金労働者への依存は不可避であるとの論調に対して、2点を挙げて転換の可能性を論じている。一つは、他の先進国における低賃金労働者の比率はイギリスよりずっと小さいが、失業者がその分多いわけではなく、また低賃金業種における生産性はイギリスより低い状況にある点だ。加えて、全国生活賃金の導入により極端に賃金水準の低い層のみが減少し、中間的な賃金水準の労働者との間の格差が減少していることを挙げている。 更に、報告書「Low Pay Britain 2020」より、新型コロナウイルス感染症の流行による経済と雇用への悪影響により、生活賃金未満の労働者が、失業や一時帰休により賃金が減少するリスクがそうでない労働者より約2倍高いこと、2020年5月のロックダウン時に自宅勤務を行った低賃金労働者は高賃金労働者の約3分の1と感染症のリスクが高いことを指摘している。そして「Low Pay Britain 2021」でも引き続き、低賃金労働者の方が新型コロナウイルス感染症のリスクがあることを指摘している。 また、貧困問題を扱うジョセフ・ローンツリー財団は、全国生活賃金の引き上げなど(全国生活賃金のほか、所得税免除額の引き上げが低所得世帯の所得水準向上に関連する施策として考慮されている。)による低所得世帯の所得水準へのプラスの効果は、物価上昇や社会保障給付の削減などで相殺され、結果として低所得世帯の所得水準は必ずしも改善しない、と指摘している。特に、従来の低所得層向け給付を統合する制度として現在導入が進められているユニバーサル・クレジットをめぐっては、歳出削減に伴う制度内容の変更により、給付水準が従来の給付制度を下回るとみられることや、申請から支給まで最低でも6週間前後、または手続きの遅滞等によりそれ以上の待機期間が生じ、その間申請者が収入のない状態に置かれること、などが問題として指摘されており、このまま全国での導入(2024年9月を予定)を進めれば、低所得層にさらなる経済的な困難を招きかねないとの懸念がある。
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