予備自衛官制度の変遷
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予備自衛官は1954年(昭和29年)に時の防衛庁長官・木村篤太郎の下、陸上自衛隊において予備自衛官制度が創設された官職である。当初、退職した自衛官を対象として15000人の予備自衛官の任用が図られた。有事に不足する常備自衛官の員数を補うことが同制度の目的であり、平時は民間にて就労する元自衛官を予備自衛官とし、1任期を3年、必要な防衛出動に招集する義務を付与することが定められた。1970年(昭和45年)には海上自衛隊、1986年(昭和61年)には航空自衛隊においても導入されて今日に至っている。 予備自衛官の身分は非常勤の特別職国家公務員であり、任官者には予備自衛官手当・訓練招集手当がある。予備自衛官は陸海空の三自衛隊において運用の仕方が異なり、特に陸上自衛隊においては予備自衛官より即応予備自衛官、予備自衛官補という採用区分が派生している。今日では自衛官勤務一年以上の勤務者で退官後1年未満の者、予備自衛官補の招集教育訓練を満了した者を対象として採用される。 本項冒頭にも前述した通り、予備自衛官に任官された者は普段は社会人として働きながら、防衛招集命令、災害招集命令、国民保護等招集命令により招集された場合、出頭した日をもって自衛官となり活動する。一定の練度を維持するため、訓練招集命令により出頭し、年間一定期間(5日)の訓練を受ける。普段は社会人として一般企業に勤務しているため、訓練に参加しやすくするために分割出頭が認められているなどの措置がとられている。 しかし、予備自衛官の訓練は法律上、20日間実施が可能とされるが、本業との兼ね合いが困難となっていることから、年間5日間とされているのであり、本来予備自衛官として必要な錬度を確保することは難しい状況にある。そこで、1997年(平成9年)には陸上自衛隊が年間30日の招集教育訓練に応ずる義務を有する即応予備自衛官の官職を創設し、常備自衛官の退職者ならびに予備自衛官より選考された者を任用して、有事に即応し、かつ一定の錬度を有する人員の確保策が図られるようになった(即応予備自衛官については当該項目を参照)。このように予備自衛官は、陸上自衛隊を皮切りに陸海空すべての自衛隊にて任用され、さらに陸上自衛隊では即応予備自衛官の任用をはじめるなど、二重三重の予備人員の練成・確保策を推進してきた。しかし、予備自衛官の員数は年々減少し、退職した自衛官に限定した員数の獲得が困難となったこともあり、自衛隊において勤務経験のない一般国民を対象として予備自衛官補の採用をはじめ、2001年以降より一定の招集教育訓練を修了した者を予備自衛官とする制度が発足し、これまでの予備自衛官制度を大きく転換・改善する取り組みがはじまりつつある。 特に、予備自衛官補制度の新設を通じて、予備自衛官の任用の対象を一般国民にまで拡げたことは、予備自衛官等制度発足した1950年代と比較すると、きわめて画期的なことであった。自衛隊が発足して間もない1955年8月に、防衛庁長官・砂田重政により高等学校・大学等の卒業生を対象に10ヶ月ないし一年間、自衛隊の学校に入校させ、予備幹部自衛官とする構想を記者会見で発表したが、個人的な見解の部分が多く、政府部内でもあまり検討は進められなかった。戦後間もない社会情勢の中で自衛隊に対する警戒や懸念が強かったこともあり、頓挫し防衛庁長官が更迭される事態に発展したことがあった(なお、砂田の罷免は予備幹部自衛官制度の提言のみならず、地域社会に郷土防衛隊なる民間防衛組織をつくり、主に地域の青少年に民間防衛の役割を担わせる郷土防衛隊構想を掲げ、一連の提言が世論の批判や懸念を招き更迭となっている。現在でも曽野綾子や西村真悟が似た言説を唱え物議を醸している)。 1990年代以降に入ると、冷戦の崩壊やテロリズムの拡大、災害の大規模化、北朝鮮による日本人拉致問題が明らかになり、日本国民の間にも安全保障上の懸念が強まる中で自衛隊に対する国民の信頼や期待が高まってきた。このような国際情勢の中ではじまった予備自衛官補制度の発足は、若年者を中心に定員を大きく超える応募者が募りつつあり、予備自衛官等制度の一翼として定着しつつある。このように、今後も安全保障環境の変化の中で、予備自衛官等制度に対する期待も寄せられつつあり、予備自衛官をはじめとした予備要員の適正な人員の獲得と能力の向上、またそのために予備自衛官等制度に対する国民の理解を得ることが当該制度の定着を図る上での課題となっている。近年では、予備自衛官の新たな運用構想に基づき、従来の5日間訓練に加え、予備自衛官の中から選抜された者を中央訓練に参加させたり、5日間以上の訓練日程を組むことも行われている。現在では、予備自衛官に情報科職種の創設を行い、予備自衛官補(技能)出身の技能公募予備自衛官のうち、語学採用のものを情報科に移動可能とすることや、一般公募予備自衛官の運用職域の拡大等、様々な検討がされている。
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