ロケットの構造と設計(1)
ロケットの性能は打ち上げる重量と軌道の高さで決まる
ロケットの性能は、ペイロード(打ち上げる宇宙船や人工衛星など)の重さと軌道により決まります。打ち上げるペイロードが重ければ重いほど、そしてペイロードを到達させる軌道の高度が高ければ高いほど、性能の良いロケットを設計しなければなりません。性能の良いロケット、つまり効率のよいロケットを設計するには、ロケット本体の重量をなるべく軽くしたうえで、推力(ロケットを推進させる力の大きさ)を大きくする必要があります。
高い比推力と機体の軽量化が設計のポイント
優れたロケットを設計するうえでは、単位時間あたりに単位重量の推進剤(ここでいう「推進剤」には、「燃料」と「酸化剤」の両方が含まれます)が生み出す推力をあらわす「比推力」に、より高い値を採用しなければなりません。また、ロケットにどれだけの重さのペイロードを搭載することができるのかは、発射の時点でロケットが搭載している推進剤の重さが、ロケットの全重量(機体そのものの重量と推進剤の重量を足し合わせたもの)に占める割合(推進剤重量比)が大きく左右します。機体そのものの構造を軽量化することで、推進剤重量比を高くすることができます。
効率を追求した多段式ロケットの構造
少しでも重いペイロードを運び上げることができるように、ロケットを設計する際には機体各部について徹底した軽量化が図られます。空になって不要になった推進薬タンクなどを切り離していく「多段式ロケット」は、この考え方を推し進めたものです。ペイロードをより効率良く目標の高度に到達させるためには、不要な部分を執に捨て去ることで推進剤重量比を上げたほうが良いのです。システムを複雑にし過ぎて信頼性を損ねないよう、2~3段式とするのが一般的となっています。
ロケットの構造と設計(2)
比推力はロケットの推進剤で決まる
比推力の値は、推進剤の種類や混合比、燃焼圧力、ノズルの構造などによって決まります。たとえば、ある推進剤の推力が500tで、1秒間に消費される量が2トンとすると、「比推力」は500(t)÷2(t/秒)=250(秒)となります。この比推力の値が大きい推進剤ほど、ロケットの性能は優れていることになります。比推力は、固体ロケットで250~280秒、液体ロケットが通常300秒であり、とくに推進剤に液体酸素と液体水素を使用する場合は、450秒ぐらいになります。
速度損失を想定して打上げに必要な速度を設定
高い比推力と推進剤重量比からロケットを設計しても、実際には目的の軌道へとペイロードを打ち上げることはできません。ロケットが上昇中に受ける空気抵抗や、地球からの重力に逆らって飛行することに伴う速度損失等を見込まなければならないからです。これらの速度損失は、ロケットの最終到達速度のおよそ20%をも占めます。
ロケットに利用される材料
ロケットに利用される材料として、H-IIAロケットを例に紹介しますと、ペイロードを収めるフェアリングや推進剤タンクにはアルミニウム合金が、段間部には炭素系複合材料が利用されています。ほかにも場所によって、炭素繊維強化プラスチックやチタン合金、グラファイト、ケブラーなどが使用されています。エンジン部の材料には、とりわけ高温(約3,000℃)や極低温(液体水素は-250℃)、激しい振動に同時に対応し、さらに精密な加工が容易なことが求められますが、やはりアルミニウム合金などが使用されています。材料の選定においては、個々の材料の特性はもちろん、費用とのバランスも重要な要素です。
ロケットの構造と設計(3)
液体ロケットの構造
液体ロケットは、推進剤の燃料と酸化剤(ともに液体)をそれぞれのタンクから燃焼室へと送りこみ、そこで燃焼させて発生した高温のガスを、ノズルから噴射することで推力を得るロケットです。その設計の際に重要な要素となるのが、推進剤タンクとエンジンです。推進剤タンクがそのまま燃焼室の役割を果たす固体ロケットよりも、液体ロケットでは、タンクの構造にかかる圧力が一般的に低く軽量化が容易のため、構造効率は高くなります。
液体ロケットエンジンのLE-7Aエンジン(左)とLE-7エンジン(右)
「タンク加圧方式」と「ポンプ方式」
液体ロケットエンジンは、推進剤を燃焼室に送りこむ方法により「タンク加圧方式」と「ポンプ方式」とに分けられます。タンク加圧方式は、推進剤タンクに高圧のガスを送り込むことで推進剤を押し出して燃焼室に送る方式で、構造は単純です。しかしこの方式では、ポンプで推進剤を吸い出して燃焼室に送りこむポンプ方式よりも高い圧力が推進剤タンクにかかるため、より丈夫なタンクの設計が必要になります。そのため、小型のロケットにはタンク加圧方式の、大型のロケットにはポンプ方式の設計が適しています。
V-2ロケットからH-IIAロケットまで広く採用される液体ロケット
「近代ロケットの父」と呼ばれたロバート・ゴダードが、人類初の液体ロケットの実験に成功したのが1926年。その後1940年代にポンプ方式を採用した初の液体ロケットであるV-2ロケットがフォン・ブラウンらにより開発され、近代ロケットの技術が確立されました。以後、スペースシャトルや日本のH-IIAロケットに至るまで、液体ロケットは広く採用されています。固体ロケットよりも構造は複雑になりますが、比推力の高い推進剤を利用でき、ひいては大きな推力を得られることがその理由です。
ロケットの構造と設計(4)
単純な構造ゆえに長い歴史を持つ固体ロケット
20世紀になってはじめて実験に成功した液体ロケットに比べて、固体ロケットの歴史は古く、世界で最初のロケットは、火薬の発明国でもある中国で発明されたといわれています。それは火薬を燃やして飛ばす「火箭(かせん)」と呼ばれる兵器の一種で、今日の固体ロケットの原型と考えられています。固体ロケットは、燃料と酸化剤を均一に混ぜ合わせて固めた推進剤に空洞をつくり、その表面に点火して燃焼させ、発生した高温高圧の燃焼ガスをノズルから噴出させるだけの、きわめて単純な構造のロケットです。
小型ロケットに適した固体ロケットの構造
構造が複雑で部品点数も多い液体ロケットに比べて、構造が単純な固体ロケットは、大きさが小型のロケットほど構造効率が高くなり、また開発も容易であることから、費用もそれほどかかりません。しかし、固体ロケットでは、推進剤タンクが燃焼室の役割も兼ねており、タンク全体にかかる高い圧力に耐えうるように設計しなければならず、ロケットが大型になればなるほど、固体ロケットでは構造効率が悪くなってしまいます。
固体ロケットは一度着火したら止められない
固体ロケットは、1度点火すると推進剤が燃え尽きるまで燃焼を続け、途中で燃焼を止めることはできません。スペースシャトルや日本のH-IIAロケットで、メインエンジンである液体ロケットエンジンを必ず先に点火し、正常な燃焼を確認したうえで次に固体ロケットブースターに点火して打ち上げるのは、固体ロケットにそのような特徴があるためです。また、固体ロケットでは燃焼中に推力の向きは変えられてもその大きさを自由に制御することは難しく、あらかじめ推進剤の断面形状を適切に選択することで推力を制御します。
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