ハードロマン
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2018/11/20 15:05 UTC 版)
アクション、冒険の要素の強い、西村作品のもっとも一般的なイメージと言ってもいい作品群。「冒険ミステリー」「ハードサスペンス」「バイオレンスアクション」「ハードバイオレンス」「バイオレンスロマン」といった呼び方をされることもある。奈落に落とされた男の復讐劇を柱にして、謎の影に国家レベルの陰謀が隠されているといった設定が多い。このスタイルの作品は、1974年に生島治郎から冒険小説を書いたらどうかと勧められたことがきっかけで『君よ憤怒の河を渉れ』を書いたことに始まる。この作品では殺人事件のトリックがストーリーの中心にあるが、次作『化石の荒野』からは冒険や復讐が主となり、あとがきではこれを「処女作」とまで述べた。その後は暴力や陵辱がストレートな筆致で描写される作品も多くなる。初期を除くほとんどの作品がこれらの要素を含み、寿行作品全体が「ハードロマン」と呼ばれることもある。主人公が拷問や陵辱を受ける展開も多く、後年には暴力や拷問が復讐や尋問の手段という枠を超え、男性が多数の女性を飼育したり、また主従逆転など倒錯心理が生まれるといった展開がなされた。 また、毒ガスによる無差別大量殺人を扱った『去りなんいざ狂人の国を』などのクライムノベルのスタイルの作品、死神シリーズ、鯱シリーズなど超人的な能力を持つ主人公が活躍する作品も多い。『鬼女哀し』は連合赤軍によるあさま山荘事件に題材を得た(平岡正明)、女闘士の革命闘争の顛末。『鬼狂い』はバイオレンス描写の中に夫婦愛と死の尊厳を叙情的に謳った異色作。1979年頃から、『昏き日輪』『わらの街』などの、女好きで自分勝手、こ狡くて喧嘩っ早く無鉄砲といった男を主人公にしたコミカルな味の作品も書くようになる。『黒猫の眸のほめき』は寿行や実在の編集者達が実名で登場するユーモアアクション小説。無頼船シリーズや癌病船シリーズには海洋冒険小説的要素も濃い。 『蘭菊の狐』で神秘的で気高い美少女として描かれ、陵辱と暴力の嵐が吹き荒れる中で一人超然と不可触の存在だった主人公阿紫は、続編『襤褸の詩』では一転して悲惨な虜囚、奴隷の境涯に陥る。 最後の長編小説となった『月を撃つ男』も、月を撃ち落とそうと戦闘機で翔け立った男を発端に、謎の陰謀戦に放り込まれた男の彷徨を経て、テロリズムに席巻される世界の予兆を示している。 作品リスト 『君よ憤怒の河を渉れ』徳間書店 1975年(「問題小説」1975年3月号) 『化石の荒野』角川書店 1976年(「野性時代」1975年12月号) 『牙城を撃て』(上・下)スポニチ出版 1976年 『帰らざる復讐者』角川書店 1977年 『悪霊の棲む日々』徳間書店 1977年 『白骨樹林』徳間書店 1977年 『双頭の蛇』徳間書店 1977年(短編集) 『去りなんいざ狂人の国を』祥伝社 1978年(「GORO」1977年10月-78年7月号) 『われは幻に棲む』徳間書店 1978年(「日刊ゲンダイ」1978年1月24日-9月10日) 『闇に潜みしは誰ぞ』集英社 1978年 『鬼が哭く谷』実業之日本社 1978年(短編集) 『炎の大地』徳間書店 1979年 『修羅の峠』徳間書店 1979年 『わらの街』実業之日本社 1979年 『鬼女哀し』徳間書店 1980年(『アサヒ芸能』1970年8月-1980年5月) 『蘭菊の狐』光文社 1981年 『鬼狂い』講談社 1982年 『襤褸の詩』光文社 1983年(『蘭菊の狐』の続編) 『黒猫の眸のほめき』双葉社 1984年 『コロポックルの河』徳間書店 1987年 『聖者の島』双葉社 1988年 『風と雲の街』光文社 1989年 『蟹の目』徳間書店 1990年(短編集) 『矛盾の壁を超えた男』徳間書店 1990年 『月を撃つ男』光文社 2000年(「小説宝石」1999年4-9月号)
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