トヨタダイナミックフォースエンジンとは? わかりやすく解説

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トヨタ・ダイナミックフォースエンジン

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2025/10/02 10:16 UTC 版)

ダイナミックフォースエンジン
シリーズ
A25A-FXS(カムリ)
生産拠点 トヨタ自動車
製造期間 2017年6月 -
タイプ M15A型 - 1.5L
- 直列3気筒 DOHC 12バルブ
G16E型 - 1.6L
- 直列3気筒 DOHC 12バルブ
M20A型 - 2.0L
- 直列4気筒 DOHC 16バルブ
S20A型 - 2.0L (中国市場用)
- 直列4気筒 DOHC 16バルブ
T24A型 - 2.4L
- 直列4気筒 DOHC 16バルブ
A25A型 - 2.5L
- 直列4気筒 DOHC 16バルブ
F33A型 - 3.3L (ディーゼル)
- V型6気筒 DOHC 24バルブ
V35A型 - 3.5L
- V型6気筒 DOHC 24バルブ
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トヨタ・ダイナミック・フォース・エンジンとはトヨタ自動車トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー(TNGA)戦略の下に開発されたエンジンのシリーズ。


開発コンセプト

高効率、低燃費を徹底的に追求すると同時に、ダイレクト感があり、滑らかで気持ちの良い加速性能を目指し、走りと環境性能を両立させるエンジンとして、トヨタ社内で放置されていた膨大な量の基礎研究やレース[注釈 1][1]で得た知見を詰め込んで開発された。基本的には現在流行のダウンサイジングコンセプトよりも『ライトサイジングコンセプト』の考え方であり、自然吸気を主眼としている[2]

具体的には空気吸入量の増大のためのタンブル流(縦渦)の改善を主眼に、

1) バルブ挟角の拡大
2) ボア・ストローク比のロング化
3) ポート端部形状の変更とシート内径の拡大
4) 新D-4S(マルチホールインジェクター)の採用

などにより「高速燃焼」を実現した[3]

元々トヨタは2010年代に入ってから、既存のNR型ZR型KR型などにタンブル流を意識した改良を施して40%あるいはそれに近い燃焼効率を達成していた[4][5]が、ダイナミックフォースエンジンは基本設計からタンブル流を重視して開発されている点が大きく異なる。特にバルブ挟角は冷却損失低減のために狭くするのが定石の中、タンブル流のためにあえて広げているのは画期的な点といえる[6]

こうした工夫により、カムリのハイブリッドモデルに採用されたM25A-FXSでは最大燃焼効率41%を記録した。またエンジンのみのグレード(いわゆるコンベンショナル[注釈 2]モデル)においても従来型を大きく凌ぐ低燃費を実現している[注釈 3]

開発生産においてもTNGA戦略に基づく完全新設計となる。これまで排気量や各国の規制対応に比例して膨大な数になったエンジン規格を整理し、燃焼形式・共通形状の部品・生産工程のモジュール化・相似形化を増やした上で、1気筒あたり排気量500 ccを基本として気筒数を増減することで車両サイズに対応し、生産性の向上と経費削減を図る、いわゆる『モジュラーエンジン』である。


ダイナミックフォーススポーツエンジン

ダイナミックフォース・スポーツ・エンジンは、ダイナミックフォースエンジンのスポーツ版として開発されたエンジンの呼称である[8]。ダイナミックフォースエンジンと同様の効率の良さを持ち、それがパワーを引き出すことにつながっているとされる。
2020年の東京オートサロンでの世界初公開に先駆け、世界ラリー選手権(WRC)に参戦するヤリスをベースとするスポーツカーとして位置付けられているGRヤリスのプロトタイプに、M15A型に排気量拡大とボールベアリングターボチャージャーを組み合わせて強大なトルクとパワーを叩き出す拡張を行った直列3気筒 1.6リットルターボエンジンを搭載していることが2019年12月に公表され[8]、2020年1月10日に開幕した東京オートサロン2020にて、形式は「G16E-GTS」と発表された[9]


型式命名規則

このダイナミックフォースエンジンシリーズから、エンジン型式命名規則も変更されている。
参考例 『 G 16 E - G T S 』
G 『原動機シリーズ記号』ボアストローク比、気筒容積、コンセプト、等にちなんだ記号。
16 排気量この場合は 1600 cc を意味している。
E 『異種原動機区分記号』同じシリンダーブロックでの開発順を示している[注釈 4]
この場合は、アルファベット順の5番目の『 E 』なので同一シリンダーブロックでの(ベースの”M15A型”から数えて)5番目の派生エンジン』を意味している。決して『 G 』形式としての順番ではない。
- ハイフン の記号は 『シリンダーブロックの形式』(広義のエンジン型式)、
ハイフン の記号は 『シリンダーブロックに付随した装備』(類別記号) を示している。
G バルブ機構を示している。この場合は 『可変バルブ搭載 高効率型スポーツ用ツインカム』 を意味している。
※ その他の記号
F 『可変バルブ搭載 高効率型実用ツインカム
T 過給器装備等の出力に関わるものを示している。この場合は『ターボチャージャー装備』を意味している。
※ その他の記号
K コンベンショナル用[注釈 2] 高膨張比サイクル(ミラーサイクル) 仕様』
X ハイブリッド用 高膨張比サイクル(ミラーサイクル) 仕様』
S 対応燃料種別または燃料供給式を示している。この場合は『 D-4 (筒内直接燃料噴射装置)装備 』を意味している。
※ その他の記号
E EFI (電子制御式燃料噴射装置)装備』
B E85 エタノール燃料フレックス燃料対応』
V コモンレール式燃料噴射装置装備』(ディーゼル)

系譜

エンジン型式一覧自動車用エンジンの系譜を参照。


年表

2017年6月 - カムリに搭載されたA25A型[10]を皮切りに、9月にV35A型、2018年6月にはM20A型が登場。
2019年10月 - 4代目ヤリス(日本向け仕様は初代扱い)に先行搭載が決定したM15A型[11]発表。シリーズ初の直列3気筒であり、トヨタ独自開発としても3気筒エンジンは初。
2020年1月 - M15A型をベースに、シリーズ初のダイナミックフォース・スポーツエンジンとなるG16E型[12]発表。
2021年8月 - シリーズ初のディーゼルエンジンとなるF33A型[13]発表。
2021年10月 - コンベンショナル[注釈 2]・ガソリンターボモデルとしてT24A型[14]発表。
2022年7月 - デュアルブーストハイブリッドシステムとしてターボとHVを組み合わせたT24A型[15]発表。
2024年〜 - G16E-GTSをベースに形式TGE33としてスーパーフォーミュラ・ライツ(F3)に、M20A-FKSをベースに形式TMA43としてFIA-F4選手権に、それぞれワンメイクエンジンとして採用された。いずれもトヨタのセミワークスチームでありエンジンコンストラクター・チューナーであるTOM'Sが手掛けている。
2025年〜 - V35A-FTSをベースにレーシングカーコンストラクターのオレカが手掛けた3.5L V6 TwinTurboが、LMP3ワンメイクエンジンとして採用された。


バリエーション一覧

『 1 PS = 約 0.98632 HP = 約 0.7355 kW 』
『 1 kgf・m = 約 7.23301 lbf・ft = 約 9.80665 N・m 』


M15A型

Dynamic Force Engine 1.5 , 【 M15A型 】
種類 直列3気筒 , DOHC 12バルブ
排気量 1,490 cc 約 497 cc × 3
内径 × 行程 ボア × ストローク 80.5 × 97.6 mm
内径 行程 比 ボア ストローク 比 1:1.212

M15A - FKS

M15A - FXE

M15D - FXE (インド)

トヨタキルロスカモーター(TKM)のビダディ工場にて生産[16][17][18]
  • M15A型 エンジン シリーズ ギャラリー


G16E型

Dynamic Force Sport Engine 1.6 , 【 G16E型 】
種類 直列3気筒 , DOHC 12バルブ
排気量 1,618 cc 約 539 cc × 3
内径 × 行程 ボア × ストローク 87.5 × 89.7 mm
内径 行程 比 ボア ストローク 比 1:1.025

G16E - GTS

  • G16E型 エンジン ギャラリー


M20A型

Dynamic Force Engine 2.0 , 【 M20A型 】[19]
種類 直列4気筒 , DOHC 16バルブ
排気量 1,986 cc 約 497 cc × 4
内径 × 行程 ボア × ストローク 80.5 × 97.6 mm
内径 行程 比 ボア ストローク 比 1:1.212

M20A - FKS

M20A - FXS

M20A - FKB (ブラジル)

ブラジルでのアルコール燃料対応エンジン
  • M20A型 エンジン シリーズ ギャラリー


S20A型

Dynamic Force Engine 2.0 , 【 S20A型 】

※ 画像募集中
種類 直列4気筒 , DOHC 16バルブ
排気量 1,997 cc 約 499 cc × 4
内径 × 行程 ボア × ストローク 85.0 × 88.0 mm
内径 行程 比 ボア ストローク 比 1:1.035

S20A - FTS (中国)

T24A型

Dynamic Force Engine 2.4 , 【 T24A型 】
種類 直列4気筒 , DOHC 16バルブ
排気量 2,393 cc 約 598 cc × 4
内径 × 行程 ボア × ストローク 87.5 × 99.5 mm
内径 行程 比 ボア ストローク 比 1:1.137

T24A - FTS

  • T24A型 エンジン ギャラリー


A25A型

Dynamic Force Engine 2.5 , 【 A25A型 】[20]
種類 直列4気筒 , DOHC 16バルブ
排気量 2,487 cc 約 622 cc × 4
内径 × 行程 ボア × ストローク 87.5 × 103.4 mm
内径 行程 比 ボア ストローク 比 1:1.182

A25A - FKS

A25A - FXS

A25A - FKB (タイ)

A25B - FXS (中国)

  • A25A型 エンジン シリーズ ギャラリー


F33A型

Dynamic Force Engine 3.3 , 【 F33A型 】
(ディーゼル)

※ 画像募集中
種類 V型6気筒 , DOHC 24バルブ
排気量 3,345 cc 約 558 cc × 6
内径 × 行程 ボア × ストローク 86.0 × 96.0 mm
内径 行程 比 ボア ストローク 比 1:1.116

F33A - FTV

V35A型

Dynamic Force Engine 3.5 , 【 V35A型 】
種類 V型6気筒 , DOHC 24バルブ
排気量 3,444 cc 574 cc × 6
内径 × 行程 ボア × ストローク 85.5 × 100.0 mm
内径 行程 比 ボア ストローク 比 1:1.17

V35A - FTS

  • V35A型 エンジン ギャラリー


関連項目


外部リンク


脚注 

注釈

  1. ^ 高速タンブル流を実現するためのレーザークラッドバルブシートが一例
  2. ^ a b c 「コンベンショナル」(英語:conventional) とは、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなど、電気モーターを使用しないエンジンを指す場合に使われ、トヨタにおいては「非HV」「非PHV」を意味している[7]
  3. ^ 例えば車重1,330 kg・2WDのカローラクロスの1.8L車(2021年9月 - 2023年10月発売モデルの2ZR-FAEバルブマチックエンジン)はWLTCモード総合14.4 km/Lなのに対し、車重1,570 kg・4WDのRAV4(M20A型)は15.2 km/Lと上回っている
  4. ^ 「M15A型」が、4番目の派生形式であるM15”D”型まで存在し、同じく「M15A型」の派生型である「G16E型」は、ベースとなった「M15A型」の5番目の派生形なので、アルファベット5番目の「E」となっている。
  5. ^ 馬力#仏馬力 - ドイツ語の Pferdestärke(馬の力)の頭文字。
  6. ^ 馬力#英馬力 - 英語の Horsepower の頭文字。
  7. ^ キロワット
  8. ^ 重量キログラム・メートル
  9. ^ 重量ポンド・フィート
  10. ^ ニュートン・メートル
  11. ^ ヤリス(日本仕様)がベース
  12. ^ ヤリス(日本仕様)がベース
  13. ^ ヤリス(欧州仕様)がベース
  14. ^ 2020 - 2023 年
  15. ^ 2022 - 2023 年
  16. ^ 2024 年 -
  17. ^ カムリ OEM
  18. ^ RAV4 がベース
  19. ^ RAV4 PHV OEM

出典

  1. ^ トヨタ・新型プリウスが搭載する4気筒2.0Lエンジン[M20A]」『MotorFan』株式会社 三栄、2023年1月2日。
  2. ^ 『Motor fan illustrated vol.155 図解特集 第5世代エンジン』三栄書房刊、2019年8月10日。ISBN 9784779639722 
  3. ^ トヨタ自動車株式会社 2016年12月5日 Dynamic Force Engine( トヨタ自動車株式会社 2016年12月5日〜) - YouTube
  4. ^ トヨタ、熱効率38%などを達成した新型アトキンソンサイクル低燃費エンジン説明会」『Car Watch』株式会社インプレス、2014年4月11日。
  5. ^ 新型「プリウス」は目標燃費40km/lをどうやって達成するのか」『Monoist』アイティメディア株式会社、2015年10月14日。
  6. ^ 内燃機関超基礎講座」『MotorFan』株式会社 三栄、2021年5月28日。
  7. ^ エンジンはなくなるのか?---「ほぼゼロにする」というトヨタ発表の真意」『日経BP』日経クロステック (xTECH)、2016年11月15日。
  8. ^ a b 【試乗インプレ】トヨタ、「GR ヤリス プロトタイプ」。市販予定、WRCに直結した3気筒 1.6リッターターボのスーパー4WDマシン」『Car Watch』株式会社インプレス、2019年12月20日。
  9. ^ 【速報】トヨタは272PS/370Nmの「GR ヤリス」世界初公開。First Editionは396万円から」『Car Watch』株式会社インプレス、2020年1月10日。
  10. ^ “TOYOTA、カムリをフルモデルチェンジ-TNGAに基づきプラットフォーム、パワートレーンなどすべてを一新、意のままの走りと美しいデザインを実現-”. トヨタ公式グローバルニュースルーム (トヨタ自動車). (2017年7月10日). https://global.toyota/jp/detail/17660392  {{cite news}}: CS1メンテナンス: 先頭の0を省略したymd形式の日付 (カテゴリ)
  11. ^ トヨタ、新型「ヤリス」世界初公開。12月中旬国内発表、2020年2月中旬発売 TNGAの「GA-Bプラットフォーム」に新開発1.5リッターエンジン搭載」『Car Watch』株式会社インプレス、2019年10月16日。
  12. ^ “TOYOTA、新型車GRヤリスを初公開”. ガズーレーシングニュースリリース (TOYOTA GAZOO Racing). (2020年1月10日). https://toyotagazooracing.com/jp/pressrelease/2020/0110-01/  {{cite news}}: CS1メンテナンス: 先頭の0を省略したymd形式の日付 (カテゴリ)
  13. ^ “新型ランドクルーザーを発売”. トヨタ公式グローバルニュースルーム (トヨタ自動車). (2021年8月2日). https://global.toyota/jp/newsroom/toyota/35758385.html  {{cite news}}: CS1メンテナンス: 先頭の0を省略したymd形式の日付 (カテゴリ)
  14. ^ “LEXUS、新型「NX」を発売”. トヨタ公式グローバルニュースルーム (トヨタ自動車). (2021年10月7日). https://global.toyota/jp/newsroom/lexus/35968065.html  {{cite news}}: CS1メンテナンス: 先頭の0を省略したymd形式の日付 (カテゴリ)
  15. ^ “新型「クラウン」を世界初公開-第1弾として新型クラウン(クロスオーバー)を2022年秋頃に発売-”. トヨタ公式グローバルニュースルーム (トヨタ自動車). (2022年7月15日). https://global.toyota/jp/newsroom/toyota/37540587.html  {{cite news}}: CS1メンテナンス: 先頭の0を省略したymd形式の日付 (カテゴリ)
  16. ^ Maruti Grand Vitara SUV Homologated – 10 Variants, GVW 1,755 Kgs”. RushLane(PEARL DANIELS). Copyright (C) 'RUSH LANE' (2022年9月7日). 2025年8月24日閲覧。
  17. ^ Toyota opens TNGA assembly line at Bidadi plant”. Team-BHP(Tushar Kelshikar). Team-BHP (2022年8月2日). 2025年8月24日閲覧。
  18. ^ トヨタ、インドの工場で開所式を実施”. トヨタ企業情報. トヨタ自動車 (2000年3月17日). 2025年8月24日閲覧。
  19. ^ 新型「直列4気筒2.0L直噴エンジン」-Dynamic Force Engine(2.0L)-”. トヨタ公式サイト. トヨタ自動車 (2018年2月26日). 2025年8月24日閲覧。
  20. ^ 新型「直列4気筒2.5L直噴エンジン」-Dynamic Force Engine-”. トヨタ公式サイト. トヨタ自動車 (2016年12月6日). 2025年8月24日閲覧。



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