スクリーニングとデザイン
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2022/04/16 00:01 UTC 版)
個々の疾病毎に選択された標的に対する新薬発見のプロセスはハイスループットスクリーニング(High-throughput screening; HTS)により進展するが、それは膨大な化学ライブラリーに対して試験を実施し、その過程で標的に変更を促す働きも有している。例えば、標的が新規GPCRであれば試験化合物は受容体を阻害あるいは刺激する性質でスクリーニングされる。プロテインキナーゼの場合、化合物はキナーゼの酵素阻害作用で試験される。 HTSのもう一つの重要な機能に選択された標的に対して選択性を示すかどうかを見るという点がある。理想的には発見された化合物は選択された標的ただ一つに影響し関連した他の標的には影響しないというものである。最終的にはスクリーニングの実施により、選択された標的対するヒット化合物は関連する他の標的に対する影響を試験される。このプロセスをクロススクリーニング(Cross-screening)と呼ぶ。クロススクリーニングは重要である。なぜならば関連性のない多くの標的に対してヒットする化合物は的外れの毒性を臨床段階で化合物が示すことを引き起こすからである。 早期のスクリーニングで完璧な候補化合物が出現することはほとんど起こりそうもないことである。最初のステップの一つは、医薬品として開発される可能性が低い化合物をスクリーニングすることである。例えば、ほとんどすべてのアッセイ(試験)でヒットした化合物で、医薬化学者によって「pan-assay interference compounds」 (英語版) (PAINS)と分類されている化合物は、この段階で化学ライブラリーから削除される。たいていは、ある程度の薬理活性をもったいくつかの化合物が発見される。そしてそれらが共通の化学構造を持つ場合は、単一かあるいは複数のファーマコフォア(Pharmacophore)が見出されることがある。この時点で、医薬品化学者は構造活性相関(Structure-activity relationship; SAR)を試みて幾つかの性質を改善してリード化合物を仕立てるのである。その改善とは次のようなものである: 選択された標的に対する活性を増大する。 無関係の標的に対する活性の低減させる。 分子特性のドラッグライクネス (薬に適した性質) やADME(薬物動態)の改良を行う。 このプロセスは幾つかの試行錯誤的なスクリーニングの実施が必要となることがある。その過程において、望ましくは、新しい分子の性質が改良され、In vitro試験や In vivo試験を実施する上で採用された病理モデルの活性の点で好ましい化合物になっていることである。 「リピンスキーのルールオブファイブ」で提案されているように、化合物または一連の化合物の品質を評価するために、さまざまな指標が使用される。そのような指標には、脂溶性、分子量、極性表面積を推定するためのcLogPのような計算された特性、および力価、酵素クリアランスの in vitro 測定のような計測された特性が含まれる。リガンド効率(英語版) (LE) や脂溶性効率(英語版) (LiPE) のような指標を組み合わせて、ドラッグライクネスを評価する。 概してHTSは、一般には新規な創薬の為の手法であるが、その目的だけに使用されるわけではない。HTSが幾つかの望ましい特性を持つ分子から出発することもある。その場合の分子は天然物(Natural product)から抽出されたり、改良された上市されている薬(「ゾロ新」、"me too" drugと呼ばれる)からであったりする。HTS以外の方法としてはバーチャルスクリーニング(Virtual screening)と呼ばれる手法があり、コンピューターが機械的に発生させた分子モデル(バーチャルライブラリー)を使い創薬標的にバーチャルライブラリーをドッキングスタディを施すことでスクリーニングとすることがしばしば行われる。 他の重要な手法は、標的の生物学的、物理的特性に関して研究し、一連の化合物が活性部位(Active site)に適合するか否かを予測する de novo 医薬品設計(Drug design)である。例えば、バーチャルスクリーニングやコンピュータ支援型の薬物設計は、標的タンパク質と相互作用する可能性のある新しい化学部位を特定するためにしばしば使用される。分子モデリングと分子動力学シミュレーションは、新薬リードの効力と特性を改善するためのガイドとなる。 また、創薬コミュニティでは、高価で限られた化学空間しかカバーできないHTSから、より小さなライブラリー (最大数千化合物) へのスクリーニングへと移行するパラダイムシフトがある。これらのアプローチ例には、フラグメントベースリードディスカバリー(英語版) (FBDD) やタンパク質指向の動的コンビナトリアルケミストリー(英語版)が含まれる。これらのアプローチにおけるリガンドは通常はるかに小さく、HTSから同定されたヒット化合物よりも弱い結合親和性で標的タンパク質に結合する。有機合成によるリード化合物へのさらなる修飾が必要となることがよくある。このような修飾は、タンパク質-断片複合体のタンパク質X線結晶構造解析によってしばしば導かれる。こうしたアプローチの利点は、より効率的なスクリーニングが可能なことで、化学ライブラリーは小規模でも、HTSと比較して一般的には大きな化学空間を網羅できる。 表現型スクリーニングはまた、創薬における新たな化学的出発点を提供している。 酵母、ゼブラフィッシュ、ワーム、不死化細胞株、初代細胞株、患者由来の細胞株、全動物モデルなど、さまざまなモデルが使用されている。これらのスクリーニングは、より包括的な細胞モデルまたは生物の例として、死、タンパク質凝集、変異タンパク質発現、または細胞増殖などの疾患表現型を逆転させる化合物を見つけるように設計されている。特にモデルが高価であったり、実行するのに時間がかかる場合は、こうしたスクリーニングにより小さなスクリーニングセットが使用されることが多い。多くの場合、このようなスクリーニングから得られたヒットの正確な作用機序は不明であり、確認するためには広範なターゲットデコンボリューション実験を必要とすることがある。 能力や選択性やドラッグライクネス特性の面で十分標的を満足しうる一連のリード化合物が見つかると、一つないしは二つの化合物が医薬品開発の段階に供せられる。一連のなかでの最も適した化合物は一般には「リード化合物」と呼ばれる。そしてリード化合物以外の設計された化合物は「バックアップ(化合物)」になる[要出典]。このような重要な決定は、一般的に計算モデリングの革新によって支えられている。
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