シュスワプ語
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シュスワプ語(シュスワプご)またはシュスワップ語(シュスワップご、英: Shuswap; 原語名: Secwepemctsín[2] [sxʷəpmxˈt͡sin][3][注 1])とは、カナダ西部ブリティッシュコロンビア州のファースト・ネーション[注 2]のうちのシュスワップ族の固有言語である。北米の太平洋岸北西部に分布するセイリッシュ語族の内陸語派に属する。原語名の Secwepemctsín は民族名 Secwepemc 〈シュスワップ族〉と -tsín 〈口〉の合成語である[3]。
注釈
- ^ i は強勢のある音節にのみ現れる母音である。#母音を参照。
- ^ 英: First Nation(s)。カナダの先住民(英: Aboriginal peoples)のうち、メティとイヌイットを除く人々を指す。カナダ憲法上では「インディアン」(英: Indian(s))と呼称されているが、これを好まない人々もおり、「ファースト・ネーション」という言い方が広く用いられている。複数の先住民集団が「ファースト・ネーション」の呼称を、従来使用されていた「バンド」(英: Band)の言い換えとして用いてきている[4]。
- ^ 英: industrial school(s)。主に農業技術の向上が重視され、生徒たちは1学年のほぼ大半の時間を学校で過ごすこととなっていた[17]。
- ^ 英: residential school(s)。教育と宗教が重視され、生徒たちは1学年につき10ヶ月を学校で過ごすこととなっていた[17]。宗教に関しては、寄宿学校制の施行を促した1879年のデイヴィン・リポート(英: Davin Report)において、先住民集団との深いつながりを持つキリスト教の宗派による学校運営はどうか、との提案が見える[18]。
- ^ 英: day school(s)。ファースト・ネーションの子どもたちが最初に入る学校で、日中に出席するだけでよいこととなっていた[17]。
- ^ a b 先住民向けのイマージョン・スクールとしてはチェイスの Chief Atahm School (en) (1991/92年設立)が存在する。#外部リンクも参照。
- ^ なお、クイパーズはシュスワプ語の本調査(1968年–70年)に取りかかる以前の段階で、同じセイリッシュ語族のスクォミッシ語(Squamish)についての記述も行い[3]、1967年に刊行させている。
- ^ なお他のセイリッシュ諸語に関しては、内陸語派ではトンプソン語についてローレンス・C・トンプソン(Laurence C. Thompson)とM・テリー・トンプソン(M. Terry Thompson)が1992年に The Thompson Language、リルエット語についてヤン・ファン・アイク(Jan van Eijk)が1997年に The Lillooet Language: Phonology, Morphology, Syntax を、海岸語派(英: Coast)では、カリスペル語(Kalispel)について Hans Vogt が1940年に The Kalispel Language、ブレンダ・J・スペック(Brenda J. Speck)が1980年に An editon of Father Post's Kalispel grammar を、コモックス語(Comox)またはコモックス・スライアモン語(Comox-Sliammon)についてクロード・アジェージュ(Claude Hagège)が1981年に Le Comox Lhaamen de Colombie Britannique: présentation d’une langue amerindienne、H・ハリス(H. Harris)が同年に A grammar of Comox、渡辺己が2003年に A Morphological Description of Sliammon, Mainland Comox Salish with a Sketch of Syntax を、ハルコメレム語(Halkomelem)については Galloway (1993)、孤立したセイリッシュ語ではベラクーラ語(Bella Coola)についてフィリップ・W・デイヴィス(Philip W. Davis)と Ross Saunders が 1978年に "Bella Coola Syntax"(E. Cook and J. Kaye (eds.), Linguistic Studies of Native Canada 所収)、1997年に A Grammar of Bella Coola、また H. F. Nater が1984年に The Bella Coola Language と、それぞれ個別言語の文法に関する著作を発表している。
- ^ このうち Maddieson (2013) はシュスワプ語を含め全部で563種類の言語の子音数を比較した上で、シュスワプ語は5段階中最も多い Large の区分としている。
- ^ 音声表記は大島 (1989a)によると [ts] であるが、Lai (1998a:131) によれば破擦音の一種 /tʃ/ である。
- ^ 大島 (1989a)や Lai (1998a:131) では kʷ と表記されている。
- ^ 大島 (1989a)や Lai (1998a:131) では qʷ と表記されている。
- ^ 大島 (1989a)や Lai (1998a:131) では p' と表記されている。
- ^ 大島 (1989a)では t' と表記されており、実際の音声は [tɬˀ, tˀ] であるとされている。Lai (1998a:131) は t に対応する声門化音の欄を空欄としており、正書法で t' と示される音素は声門化された側面破擦音(英: glottalized lateral affricate)という音素であるとしている。
- ^ 大島 (1989a)では c' と表記されており、Lai (1998a:131) は IPA で歯茎破擦音(英: alveolar affricate)/ts/ であるとしている。
- ^ 大島 (1989a)や Lai (1998a:131) では k' と表記されている。
- ^ 大島 (1989a)では k'ʷ、Lai (1998a:131) はIPAで /kʷʼ/ と表している。
- ^ 大島 (1989a)や Lai (1998a:131) では q' と表記されている。
- ^ 大島 (1989a)では q'ʷ、Lai (1998a:131) はIPAで /qʷʼ/ と表している。
- ^ 大島 (1989a)によると実際の音声は [ʔ, ʕˀ] である。
- ^ 大島 (1989a)によると音声表記は [ɬ] であるが、Lai (1998a:131) はこの IPA に対応する正書法表記を ll としている。
- ^ 大島 (1989a)や Lai (1998a:131) では xʷ と表記されている。
- ^ 大島 (1989a)では x̣ と表記されており、実際の音声は [χ] であるとされている。
- ^ 大島 (1989a)では x̣ʷ と表記されている。
- ^ l は Lai (1998a:131) においては側面音(英: lateral)扱いである。
- ^ 大島 (1989a)や Lai (1998a:131) では m' と表記されている。
- ^ 大島 (1989a)や Lai (1998a:131) ではそれぞれ n'、l' と表記されており、後者において l' は側面音扱いとされている。
- ^ 大島 (1989a)や Lai (1998a:131) では ʕʷ と表記されている。
- ^ 大島 (1989a)では y' と表記されている。
- ^ 大島 (1989a)では γ' と表記されている。
- ^ 大島 (1989a)では ʕ'ʷ、Lai (1998a) は /ʕʷʼ/ であるとしている。
- ^ 大島 (1989a)では w' と表記されている。
- ^ 英: reduplication。形式の全体または一部が繰り返される形態論的な現象。一部が繰り返される例としては、ラテン語の momordi〈私は噛んだ〉が、語根 mordi- から派生した語幹 momord- によることなどが挙げられる[29]。なお、サンスクリットの語根 dhā- 〈置く〉から dadhāmi〈私は置く〉が、hu-〈くべる〉から juhomi 〈私はくべる〉が生ずる[30]ように、繰り返される子音や母音が全く同一のものではない重複の例も存在する。
- ^ Kuipers (1974:59) は、単数のものは冠詞 γ-、t- が前に現れたもののみが録音されたとしている。
- ^ これは動詞の後に置かれる不変化詞である。
- ^ これは接語である。
- ^ なお、Lai (1998b) においては全く同じ意味の表現が Secwécwpemc-ken と表記されている。
- ^ 〈行く〉を表す形態素はクイパーズの語彙解説(Kuipers 1974: 191)では nes として掲載されている。また Kuipers (1974:79) にもほぼ同じ内容の例文が見られ、その英訳の横には (nes) と記されている。以上を踏まえると、néns は一人称単数が絡んでいる他の表現(参照: #自動詞と叙述名詞、#他動詞、#命令)の場合と同様に子音重複が起きている状態と見ることができる。néns が nes の重複によるものである場合、グロスにおける書式は一行目: "né~n~s"、二行目: 「行く(red)」のようになる。
- ^ 『学術用語集 言語学編』による。大島 (1989a)では「前倚辞化した小詞」と訳されている。
- ^ a b 大島 (1989a)における訳に基づく。
- ^ Kuipers (1974:77) では「名詞的述語」(英: nominal predicate)と表現されている。
- ^ なお、この例は Nichols (1986:61) において、修飾語句(英: attributive phrase)における主要部標示(英: head-marking)の例としても取り上げられている。この場合の主要部とは被修飾語のことであり、修飾する語ではなく修飾される語の方に目印が付けられている(有標である)ため、シュスワプ語は少なくとも修飾語句に関しては主要部標示型の言語であると言うことが可能である。主要部標示は、修飾する語(従属部)の方を有標とする(たとえばロシア語の場合は形容詞の語尾の変化として表れる)従属部標示(英: dependent-marking)とは対になる概念である。
- ^ a b 厳密には、英語で silver trout (en) と呼ばれる魚を指す[59]。
- ^ 目的格、主格いずれも三人称である。
- ^ なお、このページには#関係格/斜格で既出の「兎は狐に教えられた」の文も例として挙げられている。
- ^ DP とは Determiner Phrase、つまり限定詞句を意味する略語である。限定詞句とは、たとえば名詞句に限定詞が含まれている場合に、その限定詞を名詞句の主要部(英: head)と見做す考え方であり、このアプローチは1980年代半ばから普及しているものである[60]。「限定詞」あるいは「限定辞」(英: determiner)の定義は場合によって様々であるが、Matthews (2009a) は英語の定冠詞や不定冠詞、指示詞、所有代名詞を例に挙げており、Matthews (2009b) における限定詞句の例も英語の定冠詞 the を用いたものとなっている。
- ^ 英: argument。1つの動詞、つまり1つの述語が必要とする他のあらゆる統語要素のこと[61]。「主語」や「目的語」も項の一種である。
- ^ なお、Déchaine & Wiltschko (2003) は日本語の「彼」の分布を項と述語の2択では述語の方であるとしている。
出典
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