「地図は現地ではない」
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2021/04/08 07:20 UTC 版)
「地図-土地関係」の記事における「「地図は現地ではない」」の解説
この表現は、アルフレッド・コージブスキーが1931年12月28日にルイジアナ州ニューオーリンズでのアメリカ科学振興協会の会議で発表した論文、『A Non-Aristotelian System and Its Necessity for Rigour in Mathematics and Physics』(『非アリストテレス的体系とその数学および物理学における厳密さへの必要性』)で初めて印刷物に現れた。この論文は『Science and Sanity』(『科学と正気』)(1933年)747 - 761頁に再掲された。この本において、コージブスキーは「地図はそれに描かれた物自体ではない」("the map is not the thing mapped") という警句が著書『Numerology』で刊行された数学者エリック・テンプル・ベル(英語版)に対する恩義を表明している。 地図はそれが表す現地そのものではない。しかし、もし正確であれば、それは現地に似た構造を有しており、そのことがそれの有用性を生み出す。A map is not the territory it represents, but, if correct, it has a similar structure to the territory, which accounts for its usefulness. —アルフレッド・コージブスキー、『Science and Sanity』58頁 ベルギーのシュルレアリスム芸術家ルネ・マグリットはパイプの絵と"Ceci n'est pas une pipe"(これはパイプではない)というキャプションからなる『イメージの裏切り』と題された有名な作品を含む複数の絵画で、「現実と我々の間にはつねに認識が介在する」という概念を図示した。 『メディア論』で(そして後に『メディアはマッサージである(英語版)』と題された本で)、マーシャル・マクルーハンは「メディアはメッセージである」("The Medium is the Message") というフレーズの導入によってこの議論を電子メディアに拡張した。メディア表現、特に映像によるものは、現実において人の感覚チャネル、身体、思考、感情が人にもたらしているものの抽象、あるいは仮想「拡張」であるとする。 この概念は、顕教 (exoteric religion) と密教 (esoteric religion) の議論でも発生する。エクソテリック (Exoteric) な概念とは、数学のように記述子や言語構造を通じて完全に伝達されることができる概念である。エソテリック (Esoteric) な概念とは、直接経験以外の方法では完全に伝達されえない概念である。例えばリンゴを味わったことがない人物は、リンゴの味がどのようなものかを言語を通じて完全に理解することはできない。そのような経験が完全に理解されるのは、直接的な経験(リンゴを食べてみる)を通じてのみである。 ルイス・キャロルは『シルヴィーとブルーノ・完結編』(1893年)で、「1マイル1マイルの縮尺」をもつ架空の地図の描写によってこの論点をユーモラスに扱った。ある登場人物はそのような地図のいくつかの実用上の難点を挙げ、「今では地上そのものを地図に使っとります。代用にはなりますぞ。」と述べる。 ホルヘ・ルイス・ボルヘスによる1パラグラフの短編小説『学問の厳密さについて(英語版)』(1946年)は、それに描かれている土地と同じ縮尺を持つ地図について記述する。 ローラ・ライディング(英語版)は彼女の詩『The Map of Places』(1927年)でこの関係を扱っている: "The map of places passes. The reality of paper tears." 経済学者ジョーン・ロビンソン(1962年):「現実のあらゆる様相を考慮に入れたモデルは、原寸大の地図同様役に立たない。」 コージブスキーの地図と現地に関する議論はまた、ベルギー人シュルレアリスム漫画脚本家ジャン・ビュクワ(英語版、フランス語版)に、彼の漫画『Labyrinthe』の物語について影響を与えた: 地図は、人が出口を見つけられると保証することは絶対にできない。なぜなら、事象の積み重ねが人の現実の見方を変えてしまうからである。 作家ロバート・M・パーシグ(英語版)は、この概念を彼の著書『Lila』で理論上・文学上の双方に使用した。主人公である著者が、地図に描かれている現地よりも地図のほうを過剰に信用したため、一時的に迷子になる。 2010年、フランス人作家ミシェル・ウエルベックは小説『La Carte et le Territoire』を出版した。これは『地図と領土(英語版、フランス語版)』として邦訳されている。このタイトルはアルフレッド・コージブスキーの警句への言及である。この小説はフランス文学の賞であるゴンクール賞を受賞した。 地図と現地の区別は、ロバート・アントン・ウィルソンによって彼の著作『Prometheus Rising』で強調されている。 文筆家ジェームズ・A・リンゼイ(英語版)は、地図は現実ではないという考え方を2013年の著書『Dot, Dot, Dot: Infinity Plus God Equals Folly』のメインテーマとした。この中で、彼はすべての科学理論、数学、そして神の概念さえもが、それらが説明しようとしている「地形と」しばしば混同される概念地図 (conceptual map) であると主張している。この書に寄せた前書きで、物理学者ヴィクター・J・ステンガー(英語版)はこの見方に賛意を示している。
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