奄美料理 奄美料理の概要

奄美料理

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/29 07:22 UTC 版)

九州で知名度の高い奄美大島の鶏飯(けいはん)

概要

奄美群島の有人8島(北から奄美大島喜界島加計呂麻島請島与路島徳之島沖永良部島与論島)は、沖縄県と同じく周囲をに囲まれた亜熱帯の気候風土にあり、歴史的に中国東南アジアとの海上交易の通路にあり、琉球王国薩摩藩の支配を受けたことから、これらの地域の料理の影響を大きく受けている。

また、現在の経済作物がサトウキビ(うぎ)や柑橘類などの果実であり、は主要な作物ではなく、近海漁業が行われていることなどの条件によって、沖縄料理と共通の食材が多く使われている。例えば、黒糖黒豚アグー)を塩蔵した豚肉ヤギタカサゴ(うるめ)、ブダイ(いらぶち)、スジアラ(はーじん)、ハマダイ(あかまち)、アオダイ(うんぎゃるまつ、ほた)、ソデイカなどの海産物、タイモ(たうむ)、スイゼンジナ(はんだま)、パパイア(まんじゅまい)などが特徴的な共通食材で、酢味噌を使う伝統的な刺身の食べ方も同じである。炒め物や魚のから揚げが好まれるのも中国料理の影響が強い沖縄料理と共通する。

一方で、粒味噌、キビナゴ煮干しなどの調味料、豚骨や野菜の甘辛い煮物などの調理方法は沖縄県八重山列島の郷土料理とも共通し、七草粥(なんかんじょせ、七日の雑炊)、あくまきなどの行事食[2]ハヤトウリ(せんなり)などの食材では薩摩料理の影響が窺える。

また、鰹節黒豚豚味噌つき揚げ苦瓜ヘチマツワブキのように沖縄、薩摩と(黒豚はさらに韓国済州島などとも。ただし、現在のかごしま黒豚外来種。)共通する食材もある。

喜界島では白ゴマ(ぐま)、徳之島ではショウガ、沖永良部島ではアラゲキクラゲ(みんぐり)、島桑の葉や実、与論島ではモリンガソデイカタチウオといった島毎の特産食材も使われる。

気温が高い場所で清酒の製造には向かないため、蒸留酒が主流であることは沖縄県、九州各地と共通するが、沖縄県インディカ米デンプン原料とする泡盛鹿児島県トカラ列島以北がサツマイモをデンプン原料とする芋焼酎が主流であるのに対して、奄美群島ではサトウキビの糖分であるショ糖と米のデンプンをアルコール原料とする奄美黒糖焼酎が特産で、主流である。黒糖焼酎は料理にも使われ、浜下りなどの伝統行事のお清めにも使われる。

調理法

他の日本料理と同様に、煮物(にりむん)が基本であるが、沖縄料理と同じく、日本の本土の料理と比べて炒め物が多い。炒め物は奄美大島では「いっき」、喜界島では「いっちゃーしー」、沖永良部島では「あぎ」と呼ばれる。から揚げなどの揚げ物は奄美大島で「あげぃむん」という。

沖縄料理との違い

左上から玉子味噌、魚味噌、烏賊味噌、地豆味噌

沖縄本島の沖縄料理、または琉球料理は、奄美大島では那覇料理(なはじゅうり)とも呼ばれ[1]、奄美料理とは区別されている。地理的にも沖縄本島と近く、琉球王国、特に北山王国から長期間支配された与論島沖永良部島の料理が特に沖縄料理の影響が強いのを別にすると、奄美大島など徳之島以北の料理と沖縄料理とには、一定の違いも見られる。沖縄からの移住者が多い喜界島では折衷的な特徴が見られる。沖縄県内でも宮廷料理の影響が低い八重山列島などの料理は奄美料理との共通性も高い。

  • 伝統的な琉球料理は中国料理の影響を直接受けているが、奄美料理への影響は限定的、間接的である[1]
  • 奄美料理では粒味噌や蘇鉄味噌(なりみす)をよく使う。蘇鉄味噌は沖縄県では現在粟国島などに限られる食材、調味料であるが、かつては八重山列島などでも作られていた。
  • 沖縄本島では一般的でない魚味噌(ゆんみす)、烏賊味噌(いきゃみす)がよく作られる。魚味噌は八重山列島にもある。
  • 沖縄そばを食べる習慣がない。一部の店舗では乾麺インスタントのものが売られていたり、観光客向けの食堂で提供する例もあるが、本土における沖縄そばと同様で、一般的な食材ではない。
  • 天ぷらに沖縄料理のような厚い衣を付けず、本土と同じか、さらに少ない薄い衣である。
  • 昆布は沖縄料理ほど多用されない。
  • いわゆる沖縄ちゃんぽん(ご飯物の一種)、野菜と共にフライパンで炒めるすき焼きじゅーしーのような沖縄本島で一般的な定食メニューやタコライスなどの沖縄創作料理はみられない。ランチョンミートは奄美群島でもよく使うが、「ポーク」ではなく「ランチョンミート」、「チューリップハム」、「アメリカハム」などと呼ばれている。

薩摩料理との違い

  • 薩摩料理も甘口の味噌を多用するが、に大豆を少量使い、発酵後にすり潰して作る薩摩味噌に対して、奄美群島では主に米麹に大豆を多めに使い、すり潰さない粒味噌や、ソテツの実のデンプン(なり)と大豆で作る蘇鉄味噌を多用するので、風味に違いがある。ただし、汁用のすり潰す味噌(ゆわーしみす)もある。
  • 塩蔵豚肉、ヤギ肉血液などの、薩摩料理では一般的でない家畜由来の食材も用いる。また、旧時は薩摩料理が内臓を食べないのに対して、奄美料理は内臓も煮物などにして食べる違いがあった[3]
  • 薩摩料理ではサツマイモ芋焼酎黒酢を隠し味として使うことが多いが、いずれも奄美料理では使わない。サトウキビ由来の黒糖焼酎きび酢で代替されるので風味に違いがある。
  • 薩摩で一般的な酒寿司、すもじ、こが焼き[4]飫肥の厚焼)、がね、焼き干しえび、いこもち、かるかんなどは奄美では一般的ではない。あくまきは竹皮包みではなく布袋で作るので柔らかい、鶏肉たたきは奄美市では一般的など、作り方の違いや地域毎の差がある食べ物もある。

  1. ^ a b c 恵原義盛、「序にかえて」『シマ ヌ ジュウリ 奄美の食べものと料理法』pp3-5、1980年、鹿児島、道の島社
  2. ^ a b 原口泉、「奄美の食文化」『奄美の食と文化』pp108-109、2012年、鹿児島、南日本新聞社、ISBN 978-4-86074-185-3
  3. ^ a b 比地岡栄雄、「推薦のことば」『シマ ヌ ジュウリ 奄美の食べものと料理法』pp6-8、1980年、鹿児島、道の島社
  4. ^ 与論島では卵焼き全般を「ふが焼き」という。
  5. ^ a b c d 藤井つゆ、「行事の料理」『シマ ヌ ジュウリ 奄美の食べものと料理法』pp15-36、1980年、鹿児島、道の島社
  6. ^ 南海日日新聞 (2014年10月22日). “「喜界町中里でソーメンガブー」”. 南海日日新聞. 2014年10月26日閲覧。
  7. ^ 今村知子、『かごしま文庫51 鹿児島の料理』p24、1999年、鹿児島、春苑堂書店 ISBN 4-915093-58-1
  8. ^ 今村知子、『かごしま文庫51 鹿児島の料理』pp30-32、1999年、鹿児島、春苑堂書店 ISBN 4-915093-58-1
  9. ^ a b 久留ひろみ、濱田百合子、「喜界島の郷土料理」『奄美の食と文化』pp168-169、2012年、鹿児島、南日本新聞社、ISBN 978-4-86074-185-3
  10. ^ 蔵満逸司、『奄美食(うまいもの)紀行』pp78-82、2005年、鹿児島、南方新社、ISBN 9784861240508
  11. ^ 奄美新聞 (2015年8月11日). “「ウンギャルマツ」食べよう”. 2015年11月30日閲覧。
  12. ^ 藤井つゆ、『新版シマヌジュウリ 奄美の食べものと料理法』、p91、鹿児島、南方新社。
  13. ^ a b 久留ひろみ、濱田百合子、「徳之島の郷土料理」『奄美の食と文化』pp170-173、2012年、鹿児島、南日本新聞社、ISBN 978-4-86074-185-3
  14. ^ 宇都宮英之、『南の海の生き物さがし: 琉球弧・奄美の海から』p22、2006年、鹿児島、南方新社 ISBN 9784861240904
  15. ^ a b 宍道弘敏、塩浦喜久雄 ほか、「奄美海域におけるイセエビ類の生態と抱卵エビ蓄養技術」『鹿児島県水産技術開発センター研究報告 第2号』pp15-26、2011年、鹿児島、鹿児島県水産技術開発センター [1]
  16. ^ 蔵満逸司、『奄美食(うまいもの)紀行』p95、2005年、鹿児島、南方新社、ISBN 9784861240508
  17. ^ a b c 久留ひろみ、濱田百合子、「与論島の郷土料理」『奄美の食と文化』pp178-181、2012年、鹿児島、南日本新聞社、ISBN 978-4-86074-185-3
  18. ^ 鹿児島県 (2009年6月17日). “かごしまの伝統野菜 有良だいこん(あっただいこん)”. 2015年1月15日閲覧。
  19. ^ a b c 久留ひろみ、濱田百合子、「沖永良部島の郷土料理」『奄美の食と文化』pp174-177、2012年、鹿児島、南日本新聞社、ISBN 978-4-86074-185-3
  20. ^ 与那国町商工会の登録商標。登録3315327ほか。
  21. ^ 澄川盛昭の登録商標。登録5379620。
  22. ^ 高橋宙之、田畑耕作、田中征勝 「鹿児島県におけるフダンソウ在来種の調査と収集 (PDF, 723 KiB) 」『植探報』Vol.19 pp. 27–35、2003年、つくば、農業生物資源研究所
  23. ^ 鹿児島県 (2009年6月17日). “かごしまの伝統野菜 フル(葉にんにく)”. 2015年1月15日閲覧。
  24. ^ 蔵満逸司、『奄美食(うまいもの)紀行』p94、2005年、鹿児島、南方新社、ISBN 9784861240508
  25. ^ 蔵満逸司、『奄美食(うまいもの)紀行』pp110-113、2005年、鹿児島、南方新社、ISBN 9784861240508
  26. ^ 喜界島方言ですーきは料理、ご馳走の意味
  27. ^ 鹿児島県大島郡喜界町、『おいしいたのしい喜界島』pp22-23、2011年、喜界、喜界町保健福祉課
  28. ^ 国土交通省「平成17年度奄美群島生物資源等の産業化・ネットワーク化調査」. “奄美群島生物資源Webデータベース ヒラミレモン”. 奄美群島広域事務組合. 2014年10月26日閲覧。
  29. ^ 奄美新聞社 (2012年11月16日). “キウイフルーツの仲間  「クガ」の実たわわ”. 2015年11月16日閲覧。





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